薬師なモブのはずですが、呪われ王子が離してくれません

東川 善通

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一章

王都で騎士をやってるから偉いというわけでもなかろうに

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「ここにイグナシオ殿下がいることはわかっている。さっさと出せ」
「おい、何勝手に言っている。申し訳ない。こちらに殿下がいらっしゃると伺ってるのですが、どちらにいますでしょうか」

 まさに両極端と言ってもいいかもしれない。村長の家にきた騎士は一人は横柄。もう一人は落ち着いた様子だった。けれど、横柄な騎士に対しては注意をしている。もしかしたら、後者の方が今回の責任者か何かかな。あと四人ほどいるけれど、一人と三人で派閥が違うのか若干距離がある。派閥が違うだけであって、いじめとかではないよね??

「リタ、どう思う?」
「どう思うとは」

 こっそりと村長宅を覗き見る私とナチョ。村長はあたふたしてるし、ビトは凄く不機嫌。上の兄さんたちも困惑している様子だ。

「あの騎士たち」
「横柄な方は関わらない方がいいと思う。多分、同僚なのは後ろの一人の人とだろうね。彼が諌められてると不愉快そうな顔をしてる」
「だね。あの態度は村だろうとどこであろうとダメだね」

 さて、どうしようかなというナチョ。まぁ、帰りにあの二人と一緒になってしまうのは気持ちよくないよね。わかるよ。でも、現状はどうしようもないかな。人数的にも先に帰すわけにもいかないだろうし。

「とりあえず、お水持って行ってくるよ。あれだけ、騒いでたら、喉も渇くだろう」
「私が行こうか?」
「リタが行ったら、リタが攻撃くらいでしょ。それはだーめ。僕だからいいんだよ」

 くすりと笑ったナチョは私から水差しと空のコップが置かれたお盆を手に取って村長たちのところに行った。

「遠いところをお疲れ様です。ひとまず、いっぱいでもお水をどうぞ」
「ちょうどいいところにきた、喉が渇いている、さっさと寄越せ」

 ナチョの差し出したコップを奪った騎士は勢いよく水を口にする。くっと流し込んだかと思うとすぐさま吐き捨てた。そして、ナチョに掴みかかる。ナチョ、器用だ。掴み掛かられてもコップや水差しを落とさないようにバランス取ってる。

「随分な歓迎だな、貴様」
「おや、何かおかしかったですか?」

 私は何も知りませんがと平然というナチョにより騎士を苛立たせる。助けに行った方がいいのかな、これは。
 あ、ちらりとこちらを見たナチョが開いた手で合図する。あー、そういうことですか、そういうことなのね。元々、予定はしてたから、コウガとも打ち合わせバッチリだけどさ。

「コウガ」
『致し方ないな』

 私がコウガを呼べば、コウガはやれやれと頭を振って、やってくれた。ありがとう、ほんといい子だよ君は。
 ごおっとナチョを取り囲むように吹き上がった闇色の炎。騎士は驚き、ナチョから手を離すと後ろに後ずさる。

「……穢れものか」
「失礼ですね。僕はそんなのではありませんよ。ちょっと呪われやすいだけです」

 『穢れもの』というのは呪われている人たちの蔑称だ。それを平気で口にした騎士に私は眉を顰める。この人は本当に騎士なのだろうかと。
 けれど、それに対してナチョはくすくすと笑い、ナチョに騎士は顔を歪める。次の言葉を発そうと口を開くも隣の落ち着いた方の騎士が前に出てそれを遮った。

「おい――」
「お初にお目にかかります、この度、殿下の迎え役を任命されましたわたくし、ベンハミン・ガラルサと申します」
「は? でんか?」
「へぇ、僕が?」

 頭を下げる騎士――ベンハミンさんに対して、ナチョは不思議そうに首を傾げてみせたが、横柄な騎士は驚いたようにナチョを見ている。そもそも彼はナチョが水を持って行った時点でナチョが彼らが迎えにきた王子殿下であることに気づいたようだった。まぁ、不思議ではないよね。だって、ナチョは髪色や目の色を変えるだとか変装をしてないわけだし、王子殿下の特徴を聞いていれば自ずと判断はつくだろう。ただ、ナチョがそれに対して正解だというかどうかは別だけど。

「先代の国王陛下のご尊顔に似たお顔付き。そして、本人以外が装着できない王族である証たる腕輪」

 ナチョが殿下であるという理由を述べるベンハミンさんにナチョはふーんと薄い反応。ナチョ、もうちょっと反応してあげなよ。私はびっくりしたよ。いっつもつけてるなーって思ってた腕輪がそういう類のものだとは知らなかったからさ。

「……まぁ、よく見てるね。彼は全然見てないし、気づいてもなかったようだけど」
「し、失礼いたしました」
「謝れても許しも何も言わないよ、必要ないでしょ。君からしたら、僕は『穢れもの』らしいからね」
「いえ、それは」

 イグナシオ殿下であると認められて、横柄だった騎士は慌てて取り繕うとするけれど、ナチョはそれを無視。ベンハミンさんの方に向き直す。

「あ、そうそう、ガラルサだっけ」
「自分はしがない伯爵家の次男です。どうぞ、ベンハミンと」
「そう、どちらでもいいんだけど、君もどうぞ」

 水差しからコップに水を入れ、差し出す。頂戴いたしますと受け取るもベンハミンさんはジッと水を見つめてる。もしかしなくても、さっきの気にしてるのかな。いや、あれだけの反応されたら気になるだろうけども。

「彼には口に合わなかったみたいだけど、ただの美味しい水だよ、これ」

 そう言って、ナチョは自分でコップに水を注いで飲んでみせる。ゴクゴクと飲むナチョにベンハミンさんはそういうことではなかったのですが、と言葉を濁らせるもありがたく頂戴いたしますと言ってコップに口をつけた。どうか、状態異常なしで頼む。

「……美味しいですね」

 無意識にガッツポーズをしてしまったのは許してほしい。最初の様子や態度から見てベンハミンさんはまともな人だと思われるからよかった。あれで、異常持ちだとしたら、怖いよ。人が信じられなくなりそうだわ。

「他の皆さんもどうぞ」

 にっこりと笑って、ナチョが水を差し出す。残りの四人もそれを手に取り、飲む。そして、マッズと言って吐き出したのは一人離れていた騎士。やっぱり、あそこがセットな。

「え、いやいや、これ、マジで美味しいでしょうよ」

 どこが不味いのさとその騎士が持っていた水を飲んでみる若い騎士。けれど、中身は違わないので、凄く不思議そうに首を傾げている。うん、すまぬ。ネタバラシはできないのだ。
 とどのつまりというか、これでわかったけど、横柄な騎士とその相方っぽいのが状態異常持ち。血の気も多そうだし、毒っぽくはないんだよなぁ。手や体はどこか痺れたところもないようだし、麻痺もなさそうだ。にしても、吐き捨てるほど不味いって今までにいなかったレベルだよ。どれだけ根深くなってんだろう。

「して、殿下」
「ん、あぁ、城に戻るかって?」
「はい」
「まぁ、戻らないといけないだろうからね。戻りはするよ」

 ベンハミンさんの言葉にナチョはめんどくさそうに手を振る。それにホッとしたのか他の騎士たちも安堵した様子。なんか、やっぱり、寂しいな。うん、ずっと一緒に居たせいだ。それだけに違いない。でも、いいことだよ、ナチョが戻れるんだもの。

「とりあえず、突然きたんだから、猶予はあるんだよね?」

 ないなんて言わせないよというナチョの声に現実に戻された。うん、すごい。何がすごいって、ナチョの圧がすごい。六人とも顔引き攣らせてる。
 結局のところ、村長に先触れもなかったものだから二、三日は猶予をもらえることになった。騎士たちは冒険者も利用する民宿に泊まる形に。できれば、あの異常騎士二人が何も起こさないことを祈りたい。フラグ? 大丈夫、一応フラグ対応にひとまずはコウガについてもらうことにしたから。ナチョにはヒリンをくっつけて置くことにする。ヒリンが傍にいれば呪いを弾けるみたいだし。まぁ、そもそも呪い自体飛んでこなくなったけどね。いや、飛んではきてるけど、途中で消滅しているらしい。

「うーん、何が必要かな」
「リタ」
「残念ながら、私は持ってけないなー」
「リタが必要」
「何度言って無理なものは無理ですぅ」
「リタがいないと僕死んじゃう」
「大丈夫大丈夫。そのために対策を立てるんじゃないか!! もう!!」
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