薬師なモブのはずですが、呪われ王子が離してくれません

東川 善通

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一章

約束と言う名の契約な気がして怖いのだけど、拒否の選択肢がない

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 胃薬に風邪薬、傷薬は勿論。毒消しや麻痺消しも入れておこう。あと、緊急時用に魔法ポーション(各種)も入れておいた方がいいかな。試行錯誤しながら作った薬品を薬箱に入れていく。正直なところ、持って行くのは父のやつの方がいいんだろうけど、なんとなく自分が作ったのを入れたかった。父には無理を言ってしまったよ。

「リタ、そのままでいいから聞いてくれる?」
「うん? 何?」
「待っててほしい」

 その言葉に思わず手を止めて、どういうこととナチョを振り返る。ナチョの顔はとても冗談を言っているような顔ではなくて、とっても真剣なもの。私はどういうことと口にすることもできず、はくりと口を開いただけ。

「僕が好きになるのはリタ以外にいないから」
「……そんな、ことはないと、思うけど」
「ううん、間違ってないよ。間違ってないから、そういうんだ。リタ以外に考えられないから」

 ずっと心に溜めてきた思いを紡いでいくナチョにそこまで思われているとは思っていなかった私は顔が熱くなるのを感じる。真っ直ぐナチョを見れない。

「だから、待っててほしい。必ず、僕はこの村に帰ってくるから」
「ナチョ、王子じゃん」
「うん、今は、まだ、ね」
「まだって、そのさ、勿体なくない?」
「リタと一緒にいることに比べれば全然。それに僕の幸せはリタのそばにいることだよ」

 いつぞやか私がウリセスさんに言った言葉を応用するナチョ。その言葉に私はあだのうだのと言って答えられない。

「実はね、もうラモンさんやイネスさんには話を通してるんだ」

 もしかして、これは外堀が埋められているというやつか。いうやつなのか!?
 父や母とは必ず月一の手紙を約束させられているらしい。手紙の受け渡しについて尋ねれば、それはラモンさんが解決してくれたと言う。父よ、何を教えたのさ?? 後で聞いてと言われたけど、検閲を抜ける方法を知るってなんかよくない気もするんだけど。いいのかな。

「それから、一ヶ月に一度は聖水を買いに来させるよ」
「聖水ぐらいなら、ナチョも作れるでしょ?」
「うん、作れるけど、リタのは特別だし。ダメかな」

 しょぼんとする顔を見れば、嫌と言えない。むしろ、それを知ってるでしょと怒りたくなってしまった。いけないいけない。喧嘩になるのはいけない。

「まぁ、いいけど。ナチョは作らないの?」
「できるだけ光属性の適性が出たのは隠しておこうと思ってね」
「確かに、その方がいいかな」

 そういえば、ゲームのナチョって適性なんだったんだろう。書き方的には隠してる風なことがあったような気がするけど。

「リタ?」
「え、あ、や、なんでもない」
「話は戻るけど、そういうことだから、待っててほしい」
「うーん、正直、自信はないよ」

 うんって言いたい気持ちもある。けど、もし、ゲームどおりになってしまったらっていう不安から頷けない。それにゲームどおりにならなくても王都でいい人に会ったとしたら、舞踏会とかで気になる人に会ったとしたら、そう考えてしまって、無理。手紙を待つのもそうだけど、不安で押し潰されそうになる。

「リタの考えてることはわかるよ。でもね、僕は諦める気なんて一切ないんだよ」

 にっこりと笑うナチョ。え、それはどういう意味でしょうか。

「多分、数年後、再会できる。で、その時、僕の気持ちが変わらなければ、受け入れてくれる?」
「え、や、それは、その」
「リタ、せめて、約束をちょうだい」

 左手を取られ、その甲に口づけを落とされる。そして、上目遣いで見つめられたら、られたら。

「わかった」

 頷かずにははいらないでしょう!!! 顔がいい! 上目遣いとかたまらんか!!

「ありがとう」

 そう言って、ナチョは今度は甲ではなく薬指の付け根に口づける。きらりと薬指で何か光った気がしたけど、返してもらった左手にはどこにも何もなかった。

『血か、やはり、血なのだろうな』

 コウガは何かを目撃したみたいだけど、小さな手で頭を抱えて、ブツブツ呟いていた。ほんと、なんなのさ。聞いても、これに関してははぐらかせるので、聞かなくなったけど、やっぱり、気になるものはあるよね。

「……ところで、リタ、この箱おかしくない?」
「あー、気づいちゃった?」

 ないとは思うけどと前置きをして、私は説明する。魅了魔法にかかった際の対処法としてそれを打ち消すものを入れてると。解毒や麻痺治しは普通の薬としてもあるから不思議に思われないだろうけど、魅了魔法に対する解除薬は一般的にはない。もし、対策を講じてるとバレたら破棄される可能性もある。用心に越したことはないとナチョに伝える。

「僕でも気づくわけだし、不思議に思われない?」
「あー、そこは大丈夫。光適性がない限りは気付きにくい作りにしてみたから」

 これはコウガが教えてくれた対策なのだけど、光魔法を使用した幻視魔法なのだとか。光適性のない人間が見れば普通の箱。けれど、光適性のある人間が見れば、違和感を感じるものらしい。

「一応、中身を取り出したときも違和感を持たれないようにビンは形状を似せてあるの」

 入っているはずのものと違う形状のものを取り出せば不審に思うだろう。そのため、二段目に入っているものと一段目のものは形状をあえて似せた。その代わり、違うところは遠目では分かりづらいものに。わざわざ手元まで覗いて薬を確認することはないだろうけど。

「あぁ、そうだ、それから、これも返しておかないとね」

 そう言って、私が取り出したのは小さな木箱。返すという言葉にナチョはあぁ、あれかとすぐに気づいたようだった。
 パカッと開ければ、そこには銀細工の腕輪。そう、王族であるという証の腕輪だ。ちなみにナチョに借りた時に試しで私も普通に腕通せたよ。
 ウリセスさんやガラルサさんとかはとっても驚いてた顔してたんだけどね。どうも、王族以外が腕を通すと電撃とかそういうのが走るらしいんだわ。私が鈍いというわけじゃないよ。だって、ピリッともなんともなかったんだもの。
 まぁ、その後すぐに必要な加護がついてないことが判明。よくよく考えりゃ、そうだよね。だって、王族なら呪い対策とか毒対策をしているはずだもん。それなのにナチョは呪われてた。結界の内側から呪ってたんだなって気づいたところで、腕輪が機能していれば呪われているはずもなかったんだ。けど、あの時は子供だから装飾品のことまでは頭に回ってなかった。今思えば、普通に考えたら小さい頃から持たせてる可能性はあったわけよ。それなのにかかるってことはとなるわけで。

「なんて、いうか、すごく、輝いてるね」
「一応、抑えめにはしたんだけど。あぁ、でも、大丈夫。装着したら輝きは収束するらしいから」
「へぇ」

 これまたコウガから教えてもらいながら、私が腕輪に加護を施した。むしろ、コウガの方からやっておいた方がいいと言われたのだけど。
 昼はサンユウの葉にくるみお蚕様のお腹の下に入れ、夜は金ピカ光玉の中にそれを沈め、どうかナチョを守ってくれますようにと願った。それでいいと言われたのだけど、お蚕様のお腹の下って意味あります?? 私のお願いっている?? 意味あるらしいし、いるらしいんだけど。私にはわからない。けど、たった一日二日でこうなるとは思わなかった。いや、ナチョの出発に間に合ってよかったにはよかったけどさ。

『本来であれば、聖山の奥地にある霊水に数年浸し、その数年間毎日その山にその場に詣で祈る必要がある』

 とは、コウガの談だ。いや、なんで、その数年がうちでは数日なのか。なんであったかとコウガはとぼけてたけど、多分知ってるんだろうな。まだ時期じゃないとかそういうことなのか。
 そんなことを考えている間にもナチョは腕輪に手を通していた。輝いていた光はナチョに収まる。

「あ、ほんとだ。綺麗に消えたね」
「体の方とかなんともない? 平気?」
「うん、問題ないよ」

 まさか、ナチョ自身にとは思って見なかったから、思わず確認してしまう。けど、体自体に変化がある様子もなく、ナチョ自身も問題ないとけろりとした回答。

「ただ、何となく腕輪と繋がったなって感じるくらいかな」
「いいことなのか、悪いことなのか、全く見当がつかないよ」
「きっといいことじゃないかな。だって、リタがしてくれた加護だし」

 まぁ、自分で行ったのを悪く言うわけにはいかないよねー。それに、ナチョは喜んでるし、良しとする他ないか。

「腕輪の方は問題なかったということで、薬の説明を簡単にしておこうか」
「うん」
「ねぇ、抱きつく必要はないと思うんだけど」

 改めてと座り直せば、私を囲うようにして座ったナチョ。腕は私の腹に回ってるし、何より顔が隣にあるのが心臓に悪い。ナチョが声を出せば、耳にダイレクトに声変わりした低い声が響く。ゲーム上でもボイスはついてたはずだけど、私は出会うことなかったし、攻略動画とかでも聞くことはなかった。やっぱりギウくん、ギウ様とは違うのは知ってたけど、わかってたつもりだけど、んー、というだけの声でもヤバい。うん、好ましいと思ってるからこそ、なおのことこの密着度と声の近さは天国であり、地獄だ。

「リタ、説明は?」
「その前に離れてほしいんだけど」

 耐えられないよとばかりに言ってみるけど、ナチョはにこりと笑って密着を強めるだけで、離れる様子がない。

「ナチョ」
「もうすぐリタと離れ離れになるんだし、リタを補充しておくことぐらい許してほしいな」

 本当ならリタも連れていきたいんだから、そもそもあそこになんて戻りたくないのにと私の肩に頭を乗せるナチョ。か、肩にナチョの重みががが。

「リタ、鼓動がすごいよ」

 クツクツと笑い出したナチョに私は当たり前でしょ! と怒る。ナチョは自分の顔の良さをわかってなさすぎる! 声もいいのもわかってない!
 ぷんぷんと怒る私にナチョはそれはリタにブーメランだねというけど、意味がわからない。私はゲームにも出てこないそこらへんの村娘だというのに。

「そう思ってるのはきっとリタだけなんだろうね」

 わけ知り顔でそんなことを言うナチョに私は話題を変えたくて、怒りまじりに中に入れている薬を説明し始めた。ナチョはそんな私に怒ることも呆れることもなく、笑って、うんうんと説明を聞く。なんか、私が悪いみたいじゃないか、もう!



 翌日、ナチョは出立することとなった。村の入り口には少ない村人たちが集まり、ナチョを見送る。当然、ナチョはありがとうと朗らかにしていたが、例の問題のある騎士二人は苛立った様子で舌打ちなんかしている。

「頼まれていた聖水は勿論ながら、食材や衣料品などもある程度載せておりますので」
「ウリセス、何から何まで感謝する」

 馬車は二つ用意されていたこともあり、荷物は片方の馬車にたっぷりと詰め込んである。安物などと声が聞こえてくるけど、迎えにしてはナチョの衣料品などを準備してこないわ、食糧だって心もたないわで何しに来たの状態であったんだけどねー。ともあれ、そんな状態の馬車でナチョを戻さなければならない。ならばと村の子のように育ったナチョが不自由がないようにと村の皆で食料なんかも出しあったわけなんだが。嫌だったら、食べなくていいよと思わないでもない。

「それじゃあ」

 一人一人と挨拶をして、最後にナチョは私たち家族の前に立った。父と母に先に挨拶して、私は最後。

「リタ、約束忘れないでね」
「まぁ、忘れないよ」

 多分と気持ちを込めていえば、にこりと笑うナチョ。目が笑ってないんだけど。そして、沈黙が痛い。

「……リタ」
「な、むっ」

 唇にふにっと柔らかいものが当たると同時に周りからぎゃあやきゃあと悲鳴。目の前には良すぎるナチョの顔面。くすりと弧を描いた唇から、犬に噛まれたなんて思わないでねと言葉が紡がれる。

「…………」

 答えを考える前にわかってしまった。まさかのナチョが風邪引いたときのことを持ち出されるとは思いもしなかった。むしろ、それを引きずってたのか。
 そして、柔らかいものとナチョの顔面でフリーズした脳が起動した直後に思い出したけどぺろっと舐めたよね。舐めたよね!?

「ナチョー!!!」

 そう叫んだのは私だったか、父だったか。叫ぶ頃にはナチョは馬車に乗り込んでいて、出発していた。
 手紙が来たら、文句を書かなくては。確かに私はナチョに口移しで薬を飲ませたし、犬に噛まれたと思ってと言ったけど!! もう、ナチョめ、そんな風に思えるわけないじゃない!
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