薬師なモブのはずですが、呪われ王子が離してくれません

東川 善通

文字の大きさ
39 / 43
一章

不愉快な帰路★

しおりを挟む
 ガタゴトと道が悪いのか馬車は揺れる。来た時とは違い、窓から過ぎゆく景色が見える。頬杖をつき、その景色をただ見つめる。

「殿下、アレを馭者にしてよろしかったのですか?」

 目の前に座るベンハミンが僕にそう尋ねる。アレとはフェリペ・ドゥケのこと。村にいる間に彼に対する印象が最降下したらしいベンハミンの口調に僕は苦笑いを浮かべる。

「選択肢がないじゃない」

 そっと馬車内の声が聞こえないように防音魔法をはり、答える。
 馭者には一般騎士であるベルティ、シーロの二人でもよかったかもしれない。そうなると荷物を乗せている馬車にドゥケともう一人の異常状態の騎士アスペが同席することになる。一応、聖水を守る役目としてチュチョに任せていたとしても、流石にドゥケとアスペの二人の相手は厳しいだろう。であるならば、一人はこちらの馬車に乗せる必要がある。異常状態であるとしてもアスペは症状として軽いのだろうドゥケほど苛立った様子も見せなかった。本来であれば、彼をこちらに乗せる方がいいのだろうね。でも、ドゥケの動向がわからなくなるのは困る。ドゥケが何かしようとしているのはわかっているから。まぁ、下手に荷台に乗せて聖水に細工をされても嫌なのもあったけど。

「君からドゥケは一応貴族籍を持ってることを聞いてたから、彼の隣にはベルティに乗ってもらってる」
「それでも、殿下の身に何かあれば」
「それは大丈夫じゃないかなぁ。だって、僕の身は無事でなければならないんだから」

 綺麗に半身不随等にでもできるのならば、話は変わるかもしれないけどね。でも、基本的に聖女部隊所属の騎士は人に危害を加えることが許されていない。聖女を守るためにしかその剣を振るうことができないとされている。それは所属するための条件に基づくものだ。聖女というのは最大の癒し手であり、国を浄化、繁栄させることのできる女性のことを指す。そんな聖女は引っ張りだこになるのも当然ながら、国内は勿論外国からも様々な標的にされる。これは様々な文献にも記されていることで、拉致誘拐は当然ながら暗殺、傀儡化なども含まれていた。そんな聖女を魔の手から守るために結成されたのがその聖女部隊というものだった。いかなるものにでも対応できるように聖女部隊に所属する際には契約を交わす。そして、それが行われると対象の人物は守るために身体強化がなされる。自分の魔力を使わず、強くなれるということでそれが魅力的だというものたちは多い。まぁ、リスクはあるのだけどね。

「そもそも、弱体化するリスクをとる理由は現段階ではないんじゃないかな」

 無関係の人間に危害を加えてしまった場合、契約に則り対象の騎士は身体強化の代わり弱体化する。それは残りの人生全てそうだというらしいから、騎士達は事実ものを見る力を求められる。

「もしものことを考えるのであれば王都が近くなれば警戒する必要はあるだろうけどね」

 ウリセスに教えてもらった魔獣の分布。それらを加味すれば、まだ事は起こさないだろう。彼らとてそれはわかっているはずだ。まぁ、魅了している相手が騎士達を使い捨てのように考えていたら可能性はゼロではないんだけど。

「大体ね、騎士達に魅了をかけられる人間は限られてると思うだよね。騎士になる時に魅了や洗脳の可能性は調べられるわけだし」
「教会の周りという事ですか」
「そう、だからね、ここで騎士達を使い捨てにしたのであれば、王子への傷害ないしは殺害疑惑を理由に懐を探られる可能性があるわけ。まぁ、今まで僕を放っておいた王家が動くか否かは考えないでおくとしてという前提だけどね」
「……確かに教会は探られたくはないでしょうね」

 ウリセスからも聞いてたけど、よほどなんだね。王都の教会って。まぁ、光の精霊が身を削って出ていくほどだ、当然といえば当然か。

「しかし、思えば殿下は一度ドゥケに危害を加えられてますよね」

 胸ぐらを掴まれたことを言っていうのであれば、確かにそうだ。あれが危害を加えるに判定されなかったのは不思議だね。一般的に見たら危害を加えたと見られてもおかしくない出来事だった。

「判定は人の感情で行われてはいないのかもしれないね」
「あの、それは一体どういう事でしょうか」
「いや何、あの時僕はリタに何があっても僕が合図を出すまでは動かないでと言っておいたんだ」
「はぁ、それが何か?」
「もし、判定をしているのが精霊だったら」
「まさか」

 精霊ならまだ意思疎通ができる。つまり、精霊も僕の意図を汲んで判定を下さなかったとしたら納得はできる。それにあの時、リタの傍にいたのはコウガだ。

「例えそうだったとして、意思疎通ができるということは不正ができるということでは」
「まぁ、そうなんだよね。可能性の一つだと思ってもらったらいいよ」

 そこが不明点ではあるんだけど。それでも、コウガが高位の精霊であることは関係ある気はしてるんだよね。

「一つ、お伺いしたいのですが、あの場にヒカリノ様以外の精霊がいたのでしょうか?」
「うん、いたよ。ヤミノ様がね」

 話を聞いてふと思ったのだというベンハミン。『ヒカリノ様』というのはヒリンのこと。コウガのことは『ヤミノ様』だ。僕やウリセス、リタ、メディシナ家以外がいるときは我らが名を呼ぶなとはリタの口を借りたコウガが言っていた。どうしてかは知らないけれど、不特定多数に名を呼ばれるのは不愉快だということらしい。そのため、昔から呼ばれている呼び名を教えてくれた。それが僕たちの会話に出てきた名前だ。

「リタ曰く、ヒカリノ様の親代わりみたいだよ、ヤミノ様って」

 そういうと、バンと窓が叩かれる。それにベンハミンは何事かと窓の外を覗き込む。けれど、そこには何もない。何もいない。ただ、風景が流れているだけだ。
 ただ、僕にはあれはコウガの抗議であるとわかった。リタから聞く限り、そうとしか思えない。

「石でも弾いたのでしょうか」
「ここら辺は道が悪いみたいだから、そうかもしれないね」

 それからも危険性について語り合ったけど、答えには辿り着くことはなかった。




「それでは、宿を確認してまいりますのでこちらでお待ちください」

 野宿や宿場町を経て、王都近くの町までようやくたどり着いた。予め宿は取っていたらしくそれの確認にシーロが離れる。まぁ、予定より日数が経ってるし、取り消される可能性を加味したのだろうけど。

「折角だし、露店を見て来てもいいかな」
「殿下」

 あそこに広がっている露店に行きたいといえば、ドゥケが僕を呼び止める。

「あ、それ、ここではやめてね。だって、どう見てもこの馬車って王族が使ってるものに見えないだろうし、見えていいところの坊ちゃんぐらいじゃないかな」
「……イグナシオ様、如何なる所に危険があるかわかりませんので歩き回るのはご遠慮願います」

 まぁ、名前なら、王族にあやかってということもあるから、いいか。それにしても、こうしてみると真面目な騎士なんだね、彼。一体どうして、魅了なんかを喰らったのやら。いや、真面目だから、そうなったのか。

「しょうがないね」

 馬車のステップを引き出すとそこに腰を下ろして、行き交う人々を眺める。行き交う人々は物珍しそうにこちらをチラチラと見ていた。なんか、うん、僕、見せ物になってないかい?? 流石に見せ物になるのは居心地が悪い。そっとドゥケの影に身を隠した。

 ーードン! パシャ。

 自分の身に何かがぶつかり、頭から何かがかけられた。僕が被害に遭ったというのにドゥケは動かず、チュチョ達だけは慌てる。ドゥケは僕がこういう目に遭うとわかっていたのだろうか。いや、わかっていたのかもしれない。だからこそ、動かなかったのだろう。

「あ、あの、ごめん、なさい」

 オドオドというのはぶつかって来たモノ。それは白髪の浮浪者だろうか擦り切れた服を着た子供だった。目や様相は汚れた髪のせいで伺うことはできなかった。

「別に。謝罪は必要ないよ。ただ、馬車に突っ込んでくるのは君のためにもならないだろうから気をつけるように」

 僕はそれだけいうと着替えをするとチュチョに伝え、替えの服を用意してもらい、馬車の中に入る。

「異常魔法か」

 銀の腕輪は液体にうっすらと赤く発光していた。それはリタの説明にあった異常魔法を受けた時に発光するという現象。赤く光るのは魅了魔法だとか言ってたっけ。
 僕は全身に浄化魔法を展開し、魅了魔法を弾き飛ばす。一応、薬箱からリタが緊急用で作ってくれた解呪のポーションを飲む。
 あの子はどうなったかと窓を覗き込めば、ドゥケによって馬車から引き離されているところだった。まぁ、初動こそは酷かったがまともに動いたと考えてもいいのかな。
 そんなことを考えているとコンコンとノック。

「殿下、具合のほどは」
「それほどでもない」

 こそりと声かけられた言葉に僕は答える。それにベンハミンは畏まりましたと返事。それは僕が異常魔法を受けたことを理解したという返し。
 その後、予定通りにその町に宿泊したけれど、夜半に僕はベンハミン、チュチョを連れ、その町を後にした。

「ベルティやシーロには悪かったかな」
「まぁ、彼らは何も知りませんからね」
「一筆は残したんだけど」

 ついでに王都までにかかるであろう費用と食料も計算して残して来たんだけど。彼らがどう動くかは彼ら次第ということかな。

「それで、昼間の件ですが」
「あぁ、それについては道行ながら説明するよ」

 かけられた液体は魅了魔法を付与したものであったことを報告すれば、あの子供を捕獲しに動こうとする。けれど、僕は止めた。さして、気にする必要がないように思ったからだ。それにしても、王都までの残りの道程は非常に気が楽だった。 



「殿下、お気をつけください!」
「え、何が?」
「そうだった、殿下ってば、あの村で暮らしてたんだ」

 僕の目の前で事切れていく魔獣。それにあははと笑うチュチョ。顔を覆って天を仰ぐベンハミン。
 僕はただただ首を傾げるしかなかった。それでも、襲いくる魔獣に手を緩める気はないんだけどね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。 ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

処理中です...