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ジーナはその夜、家族が居ないキッチンで、一人、夕食の準備をしていた。今まで、食事になんか気を使ったことのないジーナであったが、お腹に彼の子が宿っていると知ったときから、彼女は栄養面で気を使うようになった。
今夜はカルシウムや緑養食野菜がしっかり取れるようミルクをたっぷり使ったクリームシチューに、ヘルシーな海草サラダ、それと、妊娠中のむくみ防止のために、塩分を排出してくれるカリウムが豊富なフルーツを加えることにした。
日頃、ジーナは家族とは疎遠な関係だ。友人も少なく、彼女は孤独に過ごすことが多い。そんな生活だったせいか、彼女の自己の確立はあやふやで、常に迷子のように自分の居場所を求めていた。
自分が何のために生きているのか……?
自分のような人間が生きていてもいいのか……?
――実感が持てない毎日。
そんな時に、ジーナは彼と出会った。彼と付き合い出したといっても、出会ったその場のインスピレーションによるものだった。
燃えるような紅い髪の合間から見える彼の瞳は、深い深い海の色を連想させる。
ジーナは、街の雑踏の中で、初めてそのオーシャンブルーの瞳を見たとき、思わず足を止めた。
車のクラクションの音、街の人達のざわめき、そのどれもが遠く、何も感じさせないほどその瞳に魅入っていた。
ジーナが彼を好きになった理由はそれだけだった。見た瞬間、青い瞳の美しさに心を奪われ、抱かれた瞬間、秘めたる彼の優しさを感じた。あまり言葉を交わさない彼であったが、何故だかそれでも一緒にいてすごく心地良かった。
しかし、妊娠が発覚した時には流石に不安になった。いくらなんでも彼は子供など望まないと思ったからだ。そうなると、子を孕んだジーナとは、そこでさよならということになってもおかしくない。けれども、彼はジーナが言うよりも早く分かっていたようで、産む事を承諾してくれた。
ぶっきら棒な言い方であったが、それはいつもの事だ。今まで、生きる目標も希望も持っていなかった彼女に、子供が出来た事が一つの光明になった。先の不安が無いとは言えないが、以前より生きるという事の張り合いが出てきた。
(この子のために生きたい……)
心から、そう思った。だから、彼女は、今、幸福な気持ちで料理に勤しんでいた。
一通り、料理が出来上がると、ジーナは鼻歌交じりでテーブルに皿を並べはじめる。
彼女の鼻歌が、ふと、止まった。
「誰?」
自分しか居ないはずの家に、何者かの気配がする。
気配は徐々に近づき、キッチンに足を踏み込んできた。
「やあ、今晩は」
突如、家に押し入った侵入者を見て、ジーナは驚きを隠せなかった。一瞬、その侵入者を見たとき、彼かと思ったからだ。顔が余りにも似ている。しかし、すぐに彼ではないと分かった。
ジーナが最も愛した彼は、あんなどす黒い闇の色をしていない。
侵入者は、輝くような金髪と宝石のような紫の瞳、おそらく既製品ではありえない、仕立てのいい黒いコートを着て、それは一見、華やかで美しく見えるが、侵入者から吹き付ける風は禍々しく、ジーナから見たらとてもおぞましい存在に思えた。
(怖い――。あの人は、危険だ!)
ジーナは全力で走った。
もうじき妊娠7ヶ月になろうとしていた。
しかし、足を止めるわけにはいかない。
ジーナの全身が、危険、というシグナルを鳴らしている。だが、彼に良く似た侵入者は、あっさりとジーナを追い越し、彼女の前に立ちふさがった。
「君はあいつと僕の違いが分かるようだね。意外と賢い子だ」
顔にかかる金髪をかき上げながら、彼とよく似た唇が呟く。
「だから、僕の言う事をよく聞くんだよ。いいね。君のお腹の中にいる子供……、君の若さで産んで育てるには大変だよね。だからさ、僕が貰い受けるよ。まだ両親にも言ってないんだろ?だったら、今のうちに卸してしまおう。こっちへおいで」
ジーナは首を振って後ずさりした。
「私は……産む事にしたんです。だから、こっちに来ないで!」
金髪の男は、一瞬、へぇ~、と関心したような顔したが、すぐに意地の悪そうな表情に変るとジーナにとって、最もショックな事を言った。
「僕はね。コンラッドの使いで来たんだよ。子供が出来て困ってる、処分してくれ、ってさ」
ジーナの心臓が押しつぶされそうな痛みに襲われた。そんな事は、信じたくなかった。しかし、信じない、と思うには、目前の金髪の男はあまりにも彼に似すぎていた。どう考えても彼の肉親だろう。
金髪男は、優しそうに微笑むと、
「元々、そのお腹の子は、僕のために作られたんだよ。君のためじゃない。さ、だから、返してもらおうか、僕の血となり、肉となるその子供を――」
男はそう言うと、彼女を掴み床の上に引き倒すと、左手で彼女の両手を押さえつけ右手を彼女の足の間へと滑り込ませた。
彼女下半身を守っていた布は引き裂かれ、潤んだ部分に男の冷たい指が侵入してきた。
「君は僕とコンラッドの違いが一目で分かったから、ご褒美に痛くないようにしてあげよう」
男は彼女の鼻先に顔を近づけて、そう囁きながら、右手を入り口付近で優しく出し入れを繰り返した。潤んだ蜜壷の中で男の冷たい指が蠢く。彼女は仰け反り顔を背けながら、やめて!と叫んだ。
「あいつだと思えばいいじゃないか。同じ顔なんだし」
男がそう言うと、彼女は鋭い目つきで男を睨みつけ
「あなたとあの人は全然違うわ!」
と、この時とばかり意思の強い瞳で言い放った。
男は彼女の言葉に苦笑いしながら、
「違うわけないよ。同じ遺伝子から出来ているのだから……、あいつは僕のクローンなんだよ」
彼女が驚いた表情をする。
「……クローン?」
「そうさ、だからまったくと言っていいほど同じだろ?」
「違うわ!全然違う!」
彼女は首を振って否定した。
「同じなんだよ。それにしても君って奴は不感症かい?さっきから珍しくこの僕が優しく愛撫してあげてるのにすごく反抗的だね」
男の言葉に、彼女は目に涙を浮かべながら、
「そんなの、相手によるに決まってるでしょ!…あんたなんか……あんたなんか……」
言いながら男の左腕に首を伸ばし噛み付いた。
男の表情が怒りの形相に変る。
「反抗するんだ?……こうなったら別の地獄を見せてやろう」
その言葉と同時に、紫色の瞳がルビーのような真紅に変る。
彼女が驚きの表情で目を見開いた途端、首筋に鈍い痛みが走る。
――吸血鬼!!
その言葉が瞬時に脳裏を駆け巡ると、今までに無い快楽に襲われ彼女は全身を痙攣させた。
快楽を与えている発端が何処なのか分からないほど、全身のいたる所で快感の爆発が起こる。
本来、こんな感覚が人体に与えられるわけが無い。
その快楽の爆発が段々と彼女の体を黒く染め上げる。
「いやぁぁぁぁぁーー!!」
彼女は腰を浮かせ絶叫した。
真っ黒に染まった快楽は、やがて全身をぬるみの帯びた闇に包み、ぬめぬめと肌に張り付いてゆく。
その感覚に頭では気色の悪さを感じつつも、体は何故か高揚し、見えない闇の中で、全身を柔らかく締め上げつつ煽動する動きに、もう耐えられなかった。
嫌、嫌、嫌――。
と、心では拒絶しているが、体はまとわり付く快楽にいつまでも浸っていたいという欲求が増す。
(――この感覚は一体何なの?!私は、どうすればいいの?)
「あぁぁぁぁーーあぁぁ!!」
「いいね~、その反応。君のオルガスムスが子宮の収縮を促す。このまま続ければ君自身が子供を押し出すわけだ」
男は口を離すと、彼女の首筋を舐め上げながら言った。
彼女は、いやいや、と叫び続けたが体中の感覚はどうしても絶頂へと向かう。
男の口が離れたというのに、まだまだ余韻が体を駆け巡っていた。
彼女の目から涙が零れる。
子宮が収縮しているということは、今、お腹の赤ちゃんが自分の中で苦しんでいる。しかもその苦しみを与えてしまっているのは、赤ちゃんを守るべきはずの自分だ。頭の中では、この快楽から逃れようとしているのに、体がどうしてもいう事を効かない!!望まない快楽に没頭して行く――。
ジーナの瞳から涙が溢れる。
心の中では必死にお腹の赤ちゃんに謝っていた。
「そろそろ出てきてもいいんじゃない?君の赤ちゃん。……迎えにいってあげよう」
そう言うと、またゆっくりと男の指があそこに潜り込んでくる。
彼女は足を擦りつけ侵入を拒むが無駄な抵抗に終わった。
男が邪悪な笑いを零した。
いよいよ胎児に手が届くと思ったその矢先――!
「うっ!」
と、言って男が右手を抜いた。
指先に血の筋が一本、スーーと流れた。
(逃げろ!)
ジーナの頭の中で何者かがそう話しかけた。
彼女は男が僅かに動揺した隙を付いて、男の手からすり抜け表へと逃げ出した。
男は逃げ去って行く女の方向を見つめながら、
「そんなところから僕の血を吸おうだなんて……生意気にもほどがあるよ」
男は立ち上がると自身の指を手でひと撫でし、傷跡を消滅させた。
「まあいい。必ずお前は僕が吸収してやる」
そう呟くと男はゆっくりとまた女の後を追った。
羅遠龍一は、パリの街を歩いていた。
夜の帳が下りて、街は白熱灯のオレンジの光に包まれていた。
龍一は明日の朝一で、日本に帰国する予定だ。
瀬菜に電話をすると、変りはない、と言っていたが、いつもと声の調子が違っていた。電話では話せないような事もあるかもしれない。
(後で、もう一度電話をしてみるか)
そんな事を考えながら、彼は自身が暮らす安アパートに向かっていた。
龍一の住んでいるアパートは街の外れにあり、少々治安もよくなかったが、彼はあまり気にしなかった。
通りに歩く人はなく、閑散としている。日頃からこの辺は静かではあるが、今夜はいつもにも増して静寂に包まれている。
(本当に、人が住んでいるのだろうか……?)
勝手知ったる通りの筈なのに、龍一はそんな疑いを持った。
もうすぐ自身のアパートに着くというところで、街頭の下に蹲ってる人を見かけた。
龍一は、駆け寄って話しかけた。
「大丈夫ですか?」
声をかけられた女性は、うめき声を上げた。
息使いも荒い。
「どこか痛いのですか?」
携帯を取り出し、救急車の手配を準備する。女性は蹲ったまま
「赤ちゃんが、私の赤ちゃんが……」
と泣きながら呟いた。
ぱっと見、お腹は大きくないので、妊娠初期か?それとも目立ちにくい体質なのか?いずれにしろ流産しかかっているのかもしれない。
「落ち着いて、今、救急車を呼びます」
龍一がそう言うと、女性は、だめ!と言って顔を上げた。見ると女性……と呼ぶにはまだ早そうなあどけない少女であった。
少女は、龍一にすがりつくと、
「だめ、だめなんです…」
龍一は溜息を付いた。何がだめだと言うのだろう。
冷や汗をかきつつ、お腹を押さえる彼女を見つめながら、龍一は優しく慌てずに語りかけた。
「いい、落ち着いてよく訊いて。君は、お腹の子を助けたいのだろう」
女の子は、無言でコクコクと頷いた。
「今、お腹の子を助け出す決断ができるのは君だよ。どうする?」
「……助けたい……。お願い、助けて…」
「そうだね。じゃあ、救急車を呼ぶよ、いいね」
龍一がそう言うと彼女は一瞬、体を強張らせ不安な様子を見せた。尽かさず、フォローを入れる。今、彼女を不安にさせてはいけない。
「僕も一緒に行こう」
彼女は頷く。
「いい子だ」
そう言って彼女の頭をなでながら電話をプッシュしようとしたその時――、彼女が力強く龍一にすがり付いてきた。
前方に人影が見える。
コツコツと足音を立て近づいてくる美しいシルエットに、何故か彼女は怯えた。
龍一はその影に見覚えがあった。
「こんばんは。また会いましたね、龍一さん」
影の主は、今日、研究所で会ったばかりのアドリエン・ヴィルトールだった。
「あなたは…、何故こんなところに?」
こんな寂れた場所に、出会うような男ではないと思っていたので、意外に感じた。
「彼女を渡してください」
「それは出来ない。流産しかかってる、至急救急車の手配をするのが先だ。」
そう言って龍一は電話をしようとした。
「待って!助けてはいけません!」
アドリエンが、慌てて静止した。病人を目の前にしてそのようなことを言う男に腹が立った。
「不信に思うかも知れませんが、彼女のお腹の中に居るのは、人の子ではありません」
「バカな事を!」
龍一は履き捨てた。どう見てもこいつの頭のほうが異常だ。
アドリエンと龍一が話している間に、少女に異変が起きた。
「う……うううぅぅ~~」
少女は苦しみ出し、足の間から大量の血が流れ出した。
呼吸も先ほどより、荒くなり苦しそうだ。
「だめぇ~、まだ……、まだ…出てきちゃ。出てきちゃったら……死んじゃうんだよ」
少女は涙を流しながら必死にお腹の子に話しかける。しかし、少女の願いも空しくさらに出血は増した。
「だめったら……、だめぇ~、お願い、生きて……、あたしなんか、どうなったっていい、だから…、だから……まだ、まだ、私の中にいて……」
少女は必死に訴えた。涙は頬を伝わり、止め処なく涙の雫が溢れ出る。少女の涙は、自身が受ける痛みのためではなかった。
我が子を失ってしまうかもしれない悲しみ――。それと…、期間内、自分の中でしっかりと守って、育ててあげられない無念さ――。
「だめだめだめだめだめぇーーー!」
少女の息が荒くなり、絶叫を放つ。――胎児が腹の中で蠢き、下へ下へと降りてくる。ついに胎児が子宮口を超え、産道を、ぬるり、と降りてくる感触――。
「いやぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」
少女の金切り声と共に、ぐしゅり……、と音がしたかと思うと、血に塗れた胎児が地面に横たわっていた。
「だめぇぇぇーー!私の…私の赤ちゃん……いや……、いや、いやぁぁぁーーー!」
少女は発狂したかのように、泣きじゃくり、胎児を両手でかき抱いた。
「だめだって、あんなに言ったのにーー!ばかぁ……ばかぁ……ばかぁーーー!」
泣き叫ぶ少女の姿に龍一はひどく胸が痛んだ。
(もう…どうすることも出来ないのか――?)
しかし、胎児は少女の腕の間から出ようともがいている。
胎児の目が開いた。
暗闇の中で、その目は深紅に輝き、前方のアドリエンを憎しみの目で凝視している。
胎児はするりと少女の腕から抜けると、地面にその小さな足をつけて立ち上がった。
身長は僅か30cmに達するかどうかの小さな体であったが、地面を踏みしめる足は堂々と、そして、しっかりと大地に立ち、まるで少女を庇うように両手を広げた。
その胎児の勇姿に少女の目は見開かれ、溢れる涙と共に、ある名前を呟いた……。
「……コンラッド……?」
ふふふふ…、というアドリエンの笑い声がした。
「見て下さいよ、龍一さん。これが人の子に見えますか?こいつはヴァンパイアの子です。早急に始末するために僕はここに来たんですよ。ですから邪魔しないで下さい」
そう言って、アドリエンは懐から拳銃を取り出し、胎児に銃口を向ける。
「だめぇぇぇーー!殺さないでーー!」
少女が胎児を庇うように抱き上げる。アドリエンは構わず引き金を引いた。
――ドォォン!!
銃声が轟くと同時にアドリエンが舌打ちをする。
龍一が素早く二人を抱えて弾丸から逃れたのだ。
「何故、庇うのです!龍一さん!こいつは人ではないぞ!!」
龍一はゆっくりと二人を庇いながら立ち上がった。
「そうだろうな……こんな未熟な子供が立つわけがない。だが、俺は例えこの子が化け物でも、自身の命も省みず、お互いを庇い合う。そんな母子に惹かれるもんがあってね。こいつらの心は、お前と違って、純粋で美しい」
「な……、なんだと~?お前は、人でありながら受け入れるのか?受け入れられるのか?この子供を……!」
龍一は肩をすくめながら、
「祖先を辿れば、俺もそうなんだろ?あんたが言ったんだぜ。そうなると、人とそうでないものの境界は何処だ?俺の目には、お前の方が人でなしに見える」
と、抜け抜けと言い放つ。
アドリエンは、歯咬みしながら、
「そいつらを庇い立てすると、どうなるかわかっているのか?」
「さぁ、どうだろう……?」
アドリエンは、至近距離から銃口を龍一に向けた。
「邪魔者は始末する」
「物騒だな…」
龍一に緊張が走る――。
いくら龍一でも、銃を向けられては打つ手立てが見つからない。
アドリエンは構わず引き金に指をかけた、その時――。
龍一の右手が自然に上がり、手首から、鋭く光る槍のようなものが飛び出した。そして、それは、アドリエンの胸元に達すると放射状に一気に花開いた。
ぐぉぉぉぉーーー!という、うめき声と共に、辺りに血しぶきが舞う。
「羅閻ーーーー!!またしてもお前かぁーー!!」
アドリエンが血泡と共に呪詛を吐いた。服はいたるところ破れ、しだれのようにまとわりつくだけとなった。いや……、よく見ると服だけではない。アドリエンの皮膚、そのものが放射状にめくれ、筋肉をも通し、内部の吸血鬼の弱点とも言える心臓が生々しく脈打っているのが見える。
アドリエンは必死に皮下組織を元に戻そうと両手で皮膚を中心に集める。
しかし、肉は途端に、べろり…と剥がれ、思うようにくっつかない。
「おのれ!おのれ!おのれ~!」
と連呼しながら、自身の身をかき抱くアドリエンを放って、龍一はチャンスとばかりに二人を抱えてその場から逃げた。
(やはり、あの男――、アドリエンも人間ではなかったか……)
しかし、今はアドリエンに対してというより、紅砂に対して畏怖の念が込み上げていた。
――右手から、突如放出した『隠し武器』。
あれは、海外に向かう龍一に、羅遠を離れる際、紅砂が護身用にと体内に仕込んだ物だった。
羅遠流に『隠し武器』があるのは訊いていたが、それが一体どのようなもので、どのように使われるのか?一切、知ることはなかった。龍一が、何故、そんなことまで知っているのか・・・?と、紅砂に訊いても、彼は、”当主だからね……”と言って微笑むだけだった。
体内に埋め込まれた後も、”使い方が分からない…”と訴えたが、紅砂は、”その時が来たら、お前の血が自然とそいつの発動を促す、だから何も気に留めることもない”彼はそう言ったのだ。
龍一は、信用していいのか半信半疑であったが、埋め込まれた後も、あることすら感じさせないほど体に変化がなかった。だから長い間、その存在を忘れていたが、まさか、本当に飛び出してくるとは……!
紅砂が仕込んだ隠し武器は、あと左手にもある。こいつが一体、どんなものなのか分からないけれど、なるべく使われることなく一生を終えたいものだと、龍一は思った。
今夜はカルシウムや緑養食野菜がしっかり取れるようミルクをたっぷり使ったクリームシチューに、ヘルシーな海草サラダ、それと、妊娠中のむくみ防止のために、塩分を排出してくれるカリウムが豊富なフルーツを加えることにした。
日頃、ジーナは家族とは疎遠な関係だ。友人も少なく、彼女は孤独に過ごすことが多い。そんな生活だったせいか、彼女の自己の確立はあやふやで、常に迷子のように自分の居場所を求めていた。
自分が何のために生きているのか……?
自分のような人間が生きていてもいいのか……?
――実感が持てない毎日。
そんな時に、ジーナは彼と出会った。彼と付き合い出したといっても、出会ったその場のインスピレーションによるものだった。
燃えるような紅い髪の合間から見える彼の瞳は、深い深い海の色を連想させる。
ジーナは、街の雑踏の中で、初めてそのオーシャンブルーの瞳を見たとき、思わず足を止めた。
車のクラクションの音、街の人達のざわめき、そのどれもが遠く、何も感じさせないほどその瞳に魅入っていた。
ジーナが彼を好きになった理由はそれだけだった。見た瞬間、青い瞳の美しさに心を奪われ、抱かれた瞬間、秘めたる彼の優しさを感じた。あまり言葉を交わさない彼であったが、何故だかそれでも一緒にいてすごく心地良かった。
しかし、妊娠が発覚した時には流石に不安になった。いくらなんでも彼は子供など望まないと思ったからだ。そうなると、子を孕んだジーナとは、そこでさよならということになってもおかしくない。けれども、彼はジーナが言うよりも早く分かっていたようで、産む事を承諾してくれた。
ぶっきら棒な言い方であったが、それはいつもの事だ。今まで、生きる目標も希望も持っていなかった彼女に、子供が出来た事が一つの光明になった。先の不安が無いとは言えないが、以前より生きるという事の張り合いが出てきた。
(この子のために生きたい……)
心から、そう思った。だから、彼女は、今、幸福な気持ちで料理に勤しんでいた。
一通り、料理が出来上がると、ジーナは鼻歌交じりでテーブルに皿を並べはじめる。
彼女の鼻歌が、ふと、止まった。
「誰?」
自分しか居ないはずの家に、何者かの気配がする。
気配は徐々に近づき、キッチンに足を踏み込んできた。
「やあ、今晩は」
突如、家に押し入った侵入者を見て、ジーナは驚きを隠せなかった。一瞬、その侵入者を見たとき、彼かと思ったからだ。顔が余りにも似ている。しかし、すぐに彼ではないと分かった。
ジーナが最も愛した彼は、あんなどす黒い闇の色をしていない。
侵入者は、輝くような金髪と宝石のような紫の瞳、おそらく既製品ではありえない、仕立てのいい黒いコートを着て、それは一見、華やかで美しく見えるが、侵入者から吹き付ける風は禍々しく、ジーナから見たらとてもおぞましい存在に思えた。
(怖い――。あの人は、危険だ!)
ジーナは全力で走った。
もうじき妊娠7ヶ月になろうとしていた。
しかし、足を止めるわけにはいかない。
ジーナの全身が、危険、というシグナルを鳴らしている。だが、彼に良く似た侵入者は、あっさりとジーナを追い越し、彼女の前に立ちふさがった。
「君はあいつと僕の違いが分かるようだね。意外と賢い子だ」
顔にかかる金髪をかき上げながら、彼とよく似た唇が呟く。
「だから、僕の言う事をよく聞くんだよ。いいね。君のお腹の中にいる子供……、君の若さで産んで育てるには大変だよね。だからさ、僕が貰い受けるよ。まだ両親にも言ってないんだろ?だったら、今のうちに卸してしまおう。こっちへおいで」
ジーナは首を振って後ずさりした。
「私は……産む事にしたんです。だから、こっちに来ないで!」
金髪の男は、一瞬、へぇ~、と関心したような顔したが、すぐに意地の悪そうな表情に変るとジーナにとって、最もショックな事を言った。
「僕はね。コンラッドの使いで来たんだよ。子供が出来て困ってる、処分してくれ、ってさ」
ジーナの心臓が押しつぶされそうな痛みに襲われた。そんな事は、信じたくなかった。しかし、信じない、と思うには、目前の金髪の男はあまりにも彼に似すぎていた。どう考えても彼の肉親だろう。
金髪男は、優しそうに微笑むと、
「元々、そのお腹の子は、僕のために作られたんだよ。君のためじゃない。さ、だから、返してもらおうか、僕の血となり、肉となるその子供を――」
男はそう言うと、彼女を掴み床の上に引き倒すと、左手で彼女の両手を押さえつけ右手を彼女の足の間へと滑り込ませた。
彼女下半身を守っていた布は引き裂かれ、潤んだ部分に男の冷たい指が侵入してきた。
「君は僕とコンラッドの違いが一目で分かったから、ご褒美に痛くないようにしてあげよう」
男は彼女の鼻先に顔を近づけて、そう囁きながら、右手を入り口付近で優しく出し入れを繰り返した。潤んだ蜜壷の中で男の冷たい指が蠢く。彼女は仰け反り顔を背けながら、やめて!と叫んだ。
「あいつだと思えばいいじゃないか。同じ顔なんだし」
男がそう言うと、彼女は鋭い目つきで男を睨みつけ
「あなたとあの人は全然違うわ!」
と、この時とばかり意思の強い瞳で言い放った。
男は彼女の言葉に苦笑いしながら、
「違うわけないよ。同じ遺伝子から出来ているのだから……、あいつは僕のクローンなんだよ」
彼女が驚いた表情をする。
「……クローン?」
「そうさ、だからまったくと言っていいほど同じだろ?」
「違うわ!全然違う!」
彼女は首を振って否定した。
「同じなんだよ。それにしても君って奴は不感症かい?さっきから珍しくこの僕が優しく愛撫してあげてるのにすごく反抗的だね」
男の言葉に、彼女は目に涙を浮かべながら、
「そんなの、相手によるに決まってるでしょ!…あんたなんか……あんたなんか……」
言いながら男の左腕に首を伸ばし噛み付いた。
男の表情が怒りの形相に変る。
「反抗するんだ?……こうなったら別の地獄を見せてやろう」
その言葉と同時に、紫色の瞳がルビーのような真紅に変る。
彼女が驚きの表情で目を見開いた途端、首筋に鈍い痛みが走る。
――吸血鬼!!
その言葉が瞬時に脳裏を駆け巡ると、今までに無い快楽に襲われ彼女は全身を痙攣させた。
快楽を与えている発端が何処なのか分からないほど、全身のいたる所で快感の爆発が起こる。
本来、こんな感覚が人体に与えられるわけが無い。
その快楽の爆発が段々と彼女の体を黒く染め上げる。
「いやぁぁぁぁぁーー!!」
彼女は腰を浮かせ絶叫した。
真っ黒に染まった快楽は、やがて全身をぬるみの帯びた闇に包み、ぬめぬめと肌に張り付いてゆく。
その感覚に頭では気色の悪さを感じつつも、体は何故か高揚し、見えない闇の中で、全身を柔らかく締め上げつつ煽動する動きに、もう耐えられなかった。
嫌、嫌、嫌――。
と、心では拒絶しているが、体はまとわり付く快楽にいつまでも浸っていたいという欲求が増す。
(――この感覚は一体何なの?!私は、どうすればいいの?)
「あぁぁぁぁーーあぁぁ!!」
「いいね~、その反応。君のオルガスムスが子宮の収縮を促す。このまま続ければ君自身が子供を押し出すわけだ」
男は口を離すと、彼女の首筋を舐め上げながら言った。
彼女は、いやいや、と叫び続けたが体中の感覚はどうしても絶頂へと向かう。
男の口が離れたというのに、まだまだ余韻が体を駆け巡っていた。
彼女の目から涙が零れる。
子宮が収縮しているということは、今、お腹の赤ちゃんが自分の中で苦しんでいる。しかもその苦しみを与えてしまっているのは、赤ちゃんを守るべきはずの自分だ。頭の中では、この快楽から逃れようとしているのに、体がどうしてもいう事を効かない!!望まない快楽に没頭して行く――。
ジーナの瞳から涙が溢れる。
心の中では必死にお腹の赤ちゃんに謝っていた。
「そろそろ出てきてもいいんじゃない?君の赤ちゃん。……迎えにいってあげよう」
そう言うと、またゆっくりと男の指があそこに潜り込んでくる。
彼女は足を擦りつけ侵入を拒むが無駄な抵抗に終わった。
男が邪悪な笑いを零した。
いよいよ胎児に手が届くと思ったその矢先――!
「うっ!」
と、言って男が右手を抜いた。
指先に血の筋が一本、スーーと流れた。
(逃げろ!)
ジーナの頭の中で何者かがそう話しかけた。
彼女は男が僅かに動揺した隙を付いて、男の手からすり抜け表へと逃げ出した。
男は逃げ去って行く女の方向を見つめながら、
「そんなところから僕の血を吸おうだなんて……生意気にもほどがあるよ」
男は立ち上がると自身の指を手でひと撫でし、傷跡を消滅させた。
「まあいい。必ずお前は僕が吸収してやる」
そう呟くと男はゆっくりとまた女の後を追った。
羅遠龍一は、パリの街を歩いていた。
夜の帳が下りて、街は白熱灯のオレンジの光に包まれていた。
龍一は明日の朝一で、日本に帰国する予定だ。
瀬菜に電話をすると、変りはない、と言っていたが、いつもと声の調子が違っていた。電話では話せないような事もあるかもしれない。
(後で、もう一度電話をしてみるか)
そんな事を考えながら、彼は自身が暮らす安アパートに向かっていた。
龍一の住んでいるアパートは街の外れにあり、少々治安もよくなかったが、彼はあまり気にしなかった。
通りに歩く人はなく、閑散としている。日頃からこの辺は静かではあるが、今夜はいつもにも増して静寂に包まれている。
(本当に、人が住んでいるのだろうか……?)
勝手知ったる通りの筈なのに、龍一はそんな疑いを持った。
もうすぐ自身のアパートに着くというところで、街頭の下に蹲ってる人を見かけた。
龍一は、駆け寄って話しかけた。
「大丈夫ですか?」
声をかけられた女性は、うめき声を上げた。
息使いも荒い。
「どこか痛いのですか?」
携帯を取り出し、救急車の手配を準備する。女性は蹲ったまま
「赤ちゃんが、私の赤ちゃんが……」
と泣きながら呟いた。
ぱっと見、お腹は大きくないので、妊娠初期か?それとも目立ちにくい体質なのか?いずれにしろ流産しかかっているのかもしれない。
「落ち着いて、今、救急車を呼びます」
龍一がそう言うと、女性は、だめ!と言って顔を上げた。見ると女性……と呼ぶにはまだ早そうなあどけない少女であった。
少女は、龍一にすがりつくと、
「だめ、だめなんです…」
龍一は溜息を付いた。何がだめだと言うのだろう。
冷や汗をかきつつ、お腹を押さえる彼女を見つめながら、龍一は優しく慌てずに語りかけた。
「いい、落ち着いてよく訊いて。君は、お腹の子を助けたいのだろう」
女の子は、無言でコクコクと頷いた。
「今、お腹の子を助け出す決断ができるのは君だよ。どうする?」
「……助けたい……。お願い、助けて…」
「そうだね。じゃあ、救急車を呼ぶよ、いいね」
龍一がそう言うと彼女は一瞬、体を強張らせ不安な様子を見せた。尽かさず、フォローを入れる。今、彼女を不安にさせてはいけない。
「僕も一緒に行こう」
彼女は頷く。
「いい子だ」
そう言って彼女の頭をなでながら電話をプッシュしようとしたその時――、彼女が力強く龍一にすがり付いてきた。
前方に人影が見える。
コツコツと足音を立て近づいてくる美しいシルエットに、何故か彼女は怯えた。
龍一はその影に見覚えがあった。
「こんばんは。また会いましたね、龍一さん」
影の主は、今日、研究所で会ったばかりのアドリエン・ヴィルトールだった。
「あなたは…、何故こんなところに?」
こんな寂れた場所に、出会うような男ではないと思っていたので、意外に感じた。
「彼女を渡してください」
「それは出来ない。流産しかかってる、至急救急車の手配をするのが先だ。」
そう言って龍一は電話をしようとした。
「待って!助けてはいけません!」
アドリエンが、慌てて静止した。病人を目の前にしてそのようなことを言う男に腹が立った。
「不信に思うかも知れませんが、彼女のお腹の中に居るのは、人の子ではありません」
「バカな事を!」
龍一は履き捨てた。どう見てもこいつの頭のほうが異常だ。
アドリエンと龍一が話している間に、少女に異変が起きた。
「う……うううぅぅ~~」
少女は苦しみ出し、足の間から大量の血が流れ出した。
呼吸も先ほどより、荒くなり苦しそうだ。
「だめぇ~、まだ……、まだ…出てきちゃ。出てきちゃったら……死んじゃうんだよ」
少女は涙を流しながら必死にお腹の子に話しかける。しかし、少女の願いも空しくさらに出血は増した。
「だめったら……、だめぇ~、お願い、生きて……、あたしなんか、どうなったっていい、だから…、だから……まだ、まだ、私の中にいて……」
少女は必死に訴えた。涙は頬を伝わり、止め処なく涙の雫が溢れ出る。少女の涙は、自身が受ける痛みのためではなかった。
我が子を失ってしまうかもしれない悲しみ――。それと…、期間内、自分の中でしっかりと守って、育ててあげられない無念さ――。
「だめだめだめだめだめぇーーー!」
少女の息が荒くなり、絶叫を放つ。――胎児が腹の中で蠢き、下へ下へと降りてくる。ついに胎児が子宮口を超え、産道を、ぬるり、と降りてくる感触――。
「いやぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」
少女の金切り声と共に、ぐしゅり……、と音がしたかと思うと、血に塗れた胎児が地面に横たわっていた。
「だめぇぇぇーー!私の…私の赤ちゃん……いや……、いや、いやぁぁぁーーー!」
少女は発狂したかのように、泣きじゃくり、胎児を両手でかき抱いた。
「だめだって、あんなに言ったのにーー!ばかぁ……ばかぁ……ばかぁーーー!」
泣き叫ぶ少女の姿に龍一はひどく胸が痛んだ。
(もう…どうすることも出来ないのか――?)
しかし、胎児は少女の腕の間から出ようともがいている。
胎児の目が開いた。
暗闇の中で、その目は深紅に輝き、前方のアドリエンを憎しみの目で凝視している。
胎児はするりと少女の腕から抜けると、地面にその小さな足をつけて立ち上がった。
身長は僅か30cmに達するかどうかの小さな体であったが、地面を踏みしめる足は堂々と、そして、しっかりと大地に立ち、まるで少女を庇うように両手を広げた。
その胎児の勇姿に少女の目は見開かれ、溢れる涙と共に、ある名前を呟いた……。
「……コンラッド……?」
ふふふふ…、というアドリエンの笑い声がした。
「見て下さいよ、龍一さん。これが人の子に見えますか?こいつはヴァンパイアの子です。早急に始末するために僕はここに来たんですよ。ですから邪魔しないで下さい」
そう言って、アドリエンは懐から拳銃を取り出し、胎児に銃口を向ける。
「だめぇぇぇーー!殺さないでーー!」
少女が胎児を庇うように抱き上げる。アドリエンは構わず引き金を引いた。
――ドォォン!!
銃声が轟くと同時にアドリエンが舌打ちをする。
龍一が素早く二人を抱えて弾丸から逃れたのだ。
「何故、庇うのです!龍一さん!こいつは人ではないぞ!!」
龍一はゆっくりと二人を庇いながら立ち上がった。
「そうだろうな……こんな未熟な子供が立つわけがない。だが、俺は例えこの子が化け物でも、自身の命も省みず、お互いを庇い合う。そんな母子に惹かれるもんがあってね。こいつらの心は、お前と違って、純粋で美しい」
「な……、なんだと~?お前は、人でありながら受け入れるのか?受け入れられるのか?この子供を……!」
龍一は肩をすくめながら、
「祖先を辿れば、俺もそうなんだろ?あんたが言ったんだぜ。そうなると、人とそうでないものの境界は何処だ?俺の目には、お前の方が人でなしに見える」
と、抜け抜けと言い放つ。
アドリエンは、歯咬みしながら、
「そいつらを庇い立てすると、どうなるかわかっているのか?」
「さぁ、どうだろう……?」
アドリエンは、至近距離から銃口を龍一に向けた。
「邪魔者は始末する」
「物騒だな…」
龍一に緊張が走る――。
いくら龍一でも、銃を向けられては打つ手立てが見つからない。
アドリエンは構わず引き金に指をかけた、その時――。
龍一の右手が自然に上がり、手首から、鋭く光る槍のようなものが飛び出した。そして、それは、アドリエンの胸元に達すると放射状に一気に花開いた。
ぐぉぉぉぉーーー!という、うめき声と共に、辺りに血しぶきが舞う。
「羅閻ーーーー!!またしてもお前かぁーー!!」
アドリエンが血泡と共に呪詛を吐いた。服はいたるところ破れ、しだれのようにまとわりつくだけとなった。いや……、よく見ると服だけではない。アドリエンの皮膚、そのものが放射状にめくれ、筋肉をも通し、内部の吸血鬼の弱点とも言える心臓が生々しく脈打っているのが見える。
アドリエンは必死に皮下組織を元に戻そうと両手で皮膚を中心に集める。
しかし、肉は途端に、べろり…と剥がれ、思うようにくっつかない。
「おのれ!おのれ!おのれ~!」
と連呼しながら、自身の身をかき抱くアドリエンを放って、龍一はチャンスとばかりに二人を抱えてその場から逃げた。
(やはり、あの男――、アドリエンも人間ではなかったか……)
しかし、今はアドリエンに対してというより、紅砂に対して畏怖の念が込み上げていた。
――右手から、突如放出した『隠し武器』。
あれは、海外に向かう龍一に、羅遠を離れる際、紅砂が護身用にと体内に仕込んだ物だった。
羅遠流に『隠し武器』があるのは訊いていたが、それが一体どのようなもので、どのように使われるのか?一切、知ることはなかった。龍一が、何故、そんなことまで知っているのか・・・?と、紅砂に訊いても、彼は、”当主だからね……”と言って微笑むだけだった。
体内に埋め込まれた後も、”使い方が分からない…”と訴えたが、紅砂は、”その時が来たら、お前の血が自然とそいつの発動を促す、だから何も気に留めることもない”彼はそう言ったのだ。
龍一は、信用していいのか半信半疑であったが、埋め込まれた後も、あることすら感じさせないほど体に変化がなかった。だから長い間、その存在を忘れていたが、まさか、本当に飛び出してくるとは……!
紅砂が仕込んだ隠し武器は、あと左手にもある。こいつが一体、どんなものなのか分からないけれど、なるべく使われることなく一生を終えたいものだと、龍一は思った。
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