奇夜に結ぶ鬼

蓮華空

文字の大きさ
70 / 85

69

しおりを挟む
 紅砂はコンラッドにこれからの事を訊ねた。
 恐らく近いうちにアドリエンもこの島を訪れるだろう。その時、コンラッドはどうするつもりなのか?
 このままずっと両腕を失ったジーナと共にひっそりと暮らしたいのなら、ここではない、どこか違う場所に案内するつもりだと伝えた。
 
「それでお前はどうする?アドリエンが来る前に逃げた方がいいんじゃないのか?」

 赤い髪は陽光に当たって少しオレンジ色に輝いていた。青い瞳は至極穏やかで、これがあの残忍なアドリエンの遺伝子から作られた鬼だとは到底思えない。

「心配してくれるのですか?」

「いや、別に……。お前が食われようが、アドリエンが死のうが、俺はどっちだって構わない。ただ──」

 コンラッドはここで言葉を濁した。なんとも言い難い複雑な表情をすると、「──ただ、ジーナと共にこのまま暮らすというのは、無理かもしれない」と、言った。

「人間と共に暮らす事は出来ない、と?」

 コンラッドは頷いた。

「だから、お前に協力してやってもいいぞ。ジーナの暮らしを保証しろ。そうしたらお前の駒になってやる」

 それは紅砂にとって願ってもない言葉だった。ちょっと意志薄弱な所もあるが、それでも高位結鬼の力を借りられるのだ。そんなことは、結鬼の歴史からするとあり得ない現象だ。高位の方から低位に従うなんて、父の奏閻が聞いたら飛び上がるほど驚くに違いない。

「じゃあ、お願い出来ますか?」

「いいぜ。何でも言ってみろよ」

「では、蘭武の護衛をお願いします」

「──あ?!」

 よりによって何故??と、いうような、嫌な表情をしていたが、紅砂は構わずお願いした。
 




 コンラッドとの交渉も無事に終わり、紅砂が家路に戻ると、木陰に小さな影が隠れていた。

 紅砂は立ち止まって声をかけた。

「──父さん。心配事かけて、申し訳ありません」

「ふん!別におまえのことを心配している訳じゃねーど。おでが心配してるのは蘭ちゃんだ。蘭ちゃんの中に白閻を宿らせて、おまえは何をするつもりだ?」

「何を?って、今更その質問ですか?僕は前々から計画を立ててましたよね?」

「ん?なんだそりゃ?」

 すっ惚ける奏閻に紅砂は深いため息をついた。

「兄さんを高位結鬼に甦らせて、結鬼の歴史を変えましょうって、前々から言ってましたよね?」

「──ええ?!」と、初めて聞いたかのように奏閻が驚いている。
 前々から奏閻には振っていた話なのだが、やはり聞いていなかったらしい。
 奏閻に過去や未来はない。気の遠くなるような長い年月を憂いもなく、いつでもハイテンションでいられるのは、奏閻が今にしか生きていない証拠だ。

「だ、だからおまえは卯月のねーちゃんとやったんか?意図して結鬼の禁忌を犯したんか?」

「い、いや……あれは意図してませんでしたけど……僕もびっくりしました」

 木陰から驚く奏閻の気配を感じた。

「──な、なんだって?!おまえが襲った訳ではないのか?合意なのか?!ともすると……確かに結鬼の歴史を揺るがす問題だ……。あの紅髪の高位結鬼もどういう訳かおまえに協力すると言っているし、確かに何かがおかしい……。これで白閻が甦ったら……?」

「益々、先が分からなくなりますでしょう?」

 ううむ……と奏閻は唸った。流石の奏閻も同意してくれている。ここまできたらあともう一息かもしれない。

「父さんにお願いしたい事があります。それこそ今生最後のお願いになるかもしれません」

「お、おう!なんだ?」

「一先ず、霧島に移動してもらえますか?ジーナさんと蘭武、後、護衛役にコンラッド・ヴィルトールを連れて」

「──ええ!!お姉ちゃん達はいいが、あの高位結鬼は嫌だ!!無理無理無理無理!!」

 高位結鬼アレルギーの奏閻は力の限り拒否した。やっぱり無理か、と紅砂も諦めかけたが、もしも蘭武が出産した場合、奏閻が間近にいた方がやはり安心だ。紅砂はなんとか奏閻にうんと言わせる方法を考えた。

「コンラッド・ヴィルトールって……、あのご面相でしょ。すっごい女性にモテるんですよね」

「けっ!!だろうな!!」

 奏閻は吐き捨てた。他人がモテても実に面白くもなんともねえっと言っている。

「でね~、あの人、フランスでは種馬してたらしいよ。高位結鬼なのに人間と交配出来るから」

「──な、なんだって?!」

 余りの驚きに木陰から奏閻が遂に姿を現した。

「ジーナさんが産んだ結鬼の父親は彼だよ」

「──はああ?!??!!」

 もう顎が地面に着きそうなほど驚いている。

「でねー。彼は種馬なんかやっていたせいか、1日に最低10回は女性を抱いてないと落ち着かないらしくて……」

「……と、とんでもねえ、セックス依存性だな……」

「そう、それも一人では物足りない」

「つまりあらゆるところでお姉ちゃんを引っかけてはパコパコと……」

「そうなんですよ、しちゃってるんですよ」

「こりゃ覗いてやらんといかんな……」

「その辺の事は、僕はなんとも……」

「隠しカメラを買ってもいい?」

 奏閻が目をキラキラ輝かせて訊いてきた。紅砂はひっそりとガッツポーズを決めた。これで奏閻は動く。奴を操るにはエロを餌にすればいい。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...