奇夜に結ぶ鬼

蓮華空

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 蘭武は未だに頭の整理が上手くいかなかった。今後、危険な結鬼がやってくる可能性があるから霧島にある別荘に避難しろ、ということまでは分かる。だが、その道行きのメンバーが良く分からない。

 先ずは突然紹介された、見た目3歳児にしか見えない紅砂の父親だ。
 低位の結鬼は年を取るとまた凝固体期に戻り、また赤子となって成長すると聞いたが、この福福とした頬っぺの幼児が紅砂の父親と言われても釈然としない。

 蘭武の手を引いて、「蘭たん、ジュース飲む?おで、ふぁんたオレンジがいい」なんて、ニコニコしながら話しかけられると、もう駄目だ。紅砂は子ども扱いをして、甘やかしてはいけない、と言ったが、どう見ても可愛い子供にしか見えない。

 自動販売機でジュースを買ったあと、フェリーに乗り込み、海が一望できる甲板の席に座った。すると、尽かさず奏閻が甘えて膝の上に乗ってくる。しかもやたらと赤ん坊のように胸に顔を押し付けてきた。

(結鬼と言うのは、子供に戻ると赤ちゃん返りするのか?)

 そんな事を考えていたら、鮮やかな紅髪を海風に靡かせながら、コンラッド・ヴィルトールがジーナを伴ってやって来た。

「お前……随分と公衆の面前で豪快にセクハラされまくってるな」

「セ、セクハラ?!」

 コンラッドは蘭武の隣にどかっと腰を下ろした。陽の光の下、間近で見る青い瞳はぞくりとするほど美しかった。

「そいつ、見た目は子供でも中身はおっさんだぞ」

「そうだろうけど、この見た目でおっさんと言われてもなあ……」

「せいぜいエスカレートして、血を吸われないようにな」

 蘭武は鼻で笑った。

「だとしてもお前に吸われるよりかはましだろ」

 吐き捨てた途端にこちらを見つめる青く冷たい視線に蘭武の身は凍った。思えば海岸で初めてコンラッドと会った時、身体に落とした血糊をコンラッドは舐め取ったのだ。その時の肌を這う舌の柔らかな感触を思い出し、蘭武は慌てて目をそらした。舌は腹から順に上がって乳房まで吸われた。その感触まで思い出すと今度は羞恥で身を震わせた。

「そりゃ残念。中々美味い血だったけどな」

 コンラッドが身を乗り出し、耳元で囁いた。彼の吐息を感じ反射的にそちらを向くと、深紅に染まった瞳と目が合って血の気が引く。

「おま……」

 素早く飛び退こうとしたが、それよりも早く腕を掴まれて蘭武は逃げようがなかった。
 コンラッドの唇が笑いの形に歪む。

「バーカ、冗談だよ。お前の血なんか二度と口にしたくもねえ。最悪な血だったさ」

 そう言った時にはコンラッドの目は静かな青に戻っていた。

 蘭武はほっと息ついた。だが、安心すると途端に腹が立ってきた。

「だったら、あんなにベロベロ舐めるな!!気色悪い!」

「気色悪いだあ?!」

 流石にカチンときた様子のコンラッドが声を荒げた。

「だってそうじゃん!お前のしたことは最低だぞ!あれじゃあ、セクハラどころかレイプだ!レイプ!!このレイプ殺人魔!」

 蘭武が罵るとコンラッドは片方の眉を上げてその言葉に反論した。

「つーか、お前だってある意味殺人を犯しただろ!俺の心臓、貫きやがって!」

「でも、死んでないじゃん!」

 確かに死んでなければ殺人も糞もない。

「相手が人間だったら死んでるぞ」

「でも、人間じゃないから別にいいじゃん」

「だったらこっちだってレイプじゃねーじゃん。あれは捕食だ、捕食!」

「うわ!その考え方、完全に獣だな。俺の半径2m以内に近付くなよ」

 蘭武は奏閻を抱っこしたまま座席をずらして、そっぽを向いた。
 コンラッドが苛立たしげに舌打ちする。

「分かったよ。但し、危険な状態になっても俺は助けないからな」

「結構ですー。自分の身は自分で守りますー。だから、金輪際、俺らには近付かないで下さいー。声もかけないで下さいー」

 と、言って蘭武はあっかんべーをした。

 その顔を見てコンラッドはフン!と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 蘭武は勝った!と思った。

 膝の上では奏閻がキラキラした瞳で蘭武を見上げていた。

「蘭ちゃん、なんて頼もしい……」

 
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