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朝鮮半島から帰来島の海岸に降り立ったアドリエンとキースは周囲を見回し、コンラッドの気配を探した。だが、穏やかに寄せては返す海のさざ波の音以外、何も感じなかった。
「なんだ、ここは?本当にしけた所だな。こんな所に人が住んでいるのか?」
「12月の海だし、今は深夜ですからね。人は北風の冷たい海岸付近には近寄らないと思います。それより、低位結鬼の気配は感じられますか?」
「いや、それもない……」
「アドリエン様でも感じられませんか?」
「あいつらはなんだかんだ言って、長寿だからな。奏閻に至っては何度も繁殖期を乗り越え、数万年は生きている。今は幼児の形でアホとしか思えないが、決して侮れない奴だ」
「ええ、──しかし、ここからどうやって奴らを探します?コンラッドに至ってはここまで来て気配すら感じない。奴は本当にこの島に来たのでしょうか?」
アドリエンもそれが気になっていた。かといってあのコンラッドが命令を無視するとも思えない。いつも気怠げで、やる気のない奴だが、飄々と命令には従った。それなのに、コンラッドの気配がこの島にはまるでない。
「それともまさか、奴は返り討ちにあってもう居ない……とか?」
キースが楽しげにアドリエンに問うた。
アドリエンはキースを睨んだ。
コンラッドはアドリエンの分身。いわばクローンなのだ。返り討ちに合ったとしたら、つまり、アドリエン自身を馬鹿にしているとも言える。それほどの力をキースは得たということか……?
「何処かでサボっているだけかもしれん。──行くぞ」
海岸沿いの堤防をひらりと越え、アドリエンは石壁が連なる民家へと歩いて行った。キースもその後ろに付く。
「当てはあるんですか?まさかこの時間に人を叩き起こして話を聞くとか?」
「悪いか?」
キースは呆れたようにため息を付いた。
「ええ、それは止めておきましょう。いくら孤島とはいえ、人間達が騒ぎ出すと面倒です」
「では、朝になるまで待てと言うのか?」
「そうは言っていません。実はある程度この島について調べておきました。取り敢えず、この島の人間達が信じる羅閻信仰。その要である羅遠家と羅遠家が守る社の位置は確認しています。そこへ行ってみましょう。だだ、奏閻が逃げた以上、今もそこに居るとは限りませんけどね」
キースはアドリエンを追い抜き、民家の密集した方向とは逆の暗い山道の方へと歩き出した。
アドリエンも渋々キースの後に着いていった。
古臭い石壁の道が終わると、以外にもしっかりと舗装された路へと変わり、目の前に小ぢんまりとした旅館が現れた。クラゲを逆さにしたような湯のマークの暖簾がかけてある。帰来島の南西、母島にある唯一の温泉宿だった。
深夜、12時を回った時間だ。人の気配など、ほとんどないはずなのに、その温泉宿から、今まで感じた事のない甘い香りが漂ってきた。
アドリエンとキースは互いに顔を見合わせた。
血の香りとも違う。花やある種の植物の香りとも違う。強いていうなら、昆虫などを惑わすある種のフェロモンのような感じがした。
「なんだ?この匂いは?」
アドリエンは口許を押さえて言った。その押さえた手の下では、鋭い乱杭歯が伸びていた。
キースも同じだった。口許に手を添え、香りのする温泉宿を見つめている。
「わかりません。私も初めて嗅ぐ香りです」
「罠だと思うか?」
「そうですね……。その可能性もあるかと思いますが、だとしても、この香りがなんなのか?私は知りたい……」
キースは初めて嗅ぐ甘く誘うような香りに興味津々だ。
「確かに」
アドリエンも同意した。
「罠だとしたら、私が犠牲になりますから、行ってみませんか?」
「いいだろう」
アドリエンとキースは得体のしれない芳香を放つ温泉宿の屋根へと舞った。
「なんだ、ここは?本当にしけた所だな。こんな所に人が住んでいるのか?」
「12月の海だし、今は深夜ですからね。人は北風の冷たい海岸付近には近寄らないと思います。それより、低位結鬼の気配は感じられますか?」
「いや、それもない……」
「アドリエン様でも感じられませんか?」
「あいつらはなんだかんだ言って、長寿だからな。奏閻に至っては何度も繁殖期を乗り越え、数万年は生きている。今は幼児の形でアホとしか思えないが、決して侮れない奴だ」
「ええ、──しかし、ここからどうやって奴らを探します?コンラッドに至ってはここまで来て気配すら感じない。奴は本当にこの島に来たのでしょうか?」
アドリエンもそれが気になっていた。かといってあのコンラッドが命令を無視するとも思えない。いつも気怠げで、やる気のない奴だが、飄々と命令には従った。それなのに、コンラッドの気配がこの島にはまるでない。
「それともまさか、奴は返り討ちにあってもう居ない……とか?」
キースが楽しげにアドリエンに問うた。
アドリエンはキースを睨んだ。
コンラッドはアドリエンの分身。いわばクローンなのだ。返り討ちに合ったとしたら、つまり、アドリエン自身を馬鹿にしているとも言える。それほどの力をキースは得たということか……?
「何処かでサボっているだけかもしれん。──行くぞ」
海岸沿いの堤防をひらりと越え、アドリエンは石壁が連なる民家へと歩いて行った。キースもその後ろに付く。
「当てはあるんですか?まさかこの時間に人を叩き起こして話を聞くとか?」
「悪いか?」
キースは呆れたようにため息を付いた。
「ええ、それは止めておきましょう。いくら孤島とはいえ、人間達が騒ぎ出すと面倒です」
「では、朝になるまで待てと言うのか?」
「そうは言っていません。実はある程度この島について調べておきました。取り敢えず、この島の人間達が信じる羅閻信仰。その要である羅遠家と羅遠家が守る社の位置は確認しています。そこへ行ってみましょう。だだ、奏閻が逃げた以上、今もそこに居るとは限りませんけどね」
キースはアドリエンを追い抜き、民家の密集した方向とは逆の暗い山道の方へと歩き出した。
アドリエンも渋々キースの後に着いていった。
古臭い石壁の道が終わると、以外にもしっかりと舗装された路へと変わり、目の前に小ぢんまりとした旅館が現れた。クラゲを逆さにしたような湯のマークの暖簾がかけてある。帰来島の南西、母島にある唯一の温泉宿だった。
深夜、12時を回った時間だ。人の気配など、ほとんどないはずなのに、その温泉宿から、今まで感じた事のない甘い香りが漂ってきた。
アドリエンとキースは互いに顔を見合わせた。
血の香りとも違う。花やある種の植物の香りとも違う。強いていうなら、昆虫などを惑わすある種のフェロモンのような感じがした。
「なんだ?この匂いは?」
アドリエンは口許を押さえて言った。その押さえた手の下では、鋭い乱杭歯が伸びていた。
キースも同じだった。口許に手を添え、香りのする温泉宿を見つめている。
「わかりません。私も初めて嗅ぐ香りです」
「罠だと思うか?」
「そうですね……。その可能性もあるかと思いますが、だとしても、この香りがなんなのか?私は知りたい……」
キースは初めて嗅ぐ甘く誘うような香りに興味津々だ。
「確かに」
アドリエンも同意した。
「罠だとしたら、私が犠牲になりますから、行ってみませんか?」
「いいだろう」
アドリエンとキースは得体のしれない芳香を放つ温泉宿の屋根へと舞った。
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