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「マジか?!──で?奴らは四鵬を追っているのか?」
「いや、それはまだ……。僕が何とかそうならないように阻止します。ですから、念のため父さんにも迎えに来てほしいんです!」
「あのなあ。前々から言っているけど、高位の奴におで達低位の奴が何かしようとしても無駄だぞ。四鵬と卯月ちゃんには悪いけど諦めろ」
奏閻の言葉に紅砂は唇を噛み締めた。やはり、父さんに頼むことは無駄だったか……。
「そうですか……分かりました。では、父さん。ここでさよならですね。僕が居なくなっても貴方は生き延びて下さい」
電話口で奏閻のため息が聞こえる。
「ったく、おめぇはまた直ぐにそれだ。おでの教えをおめぇはちっとも聞きやしない。おではもう知らんど!勝手に消えろ!!」
怒鳴るなり、通話を切られてしまった。
「やっぱダメだったか……」
奏閻は徹底した自己保存の本能的で生きている。その直感は結鬼の中でも最長齢と言われる奏閻だからこそ鋭く正確だ。つまり、奏閻が動かないということは、今の状況はかなり厳しい状況だという証明でもある。
紅砂は天に向かって飛翔した。海岸沿い──それも本土に近い場所へと身を翻す。すると、右の前方にキースの姿が見えた。山の木々達に触れるか触れないかの位置で真っ直ぐ海岸へと向かっていた。
紅砂の脈が焦りで早くなる。後を追いかけるにも、高位であるキースの方が飛翔速度が速い。このままでは紅砂が止めるより早く、四鵬と卯月に追い付いてしまう。
せめて反対方向から奏閻が来てくれれば、まだ勝機はあったのに……。
紅砂が絶望と共に唇を噛み締めた時、キースの更に前方から深紅の髪を靡かせたコンラッドがこちらに向かっているのが見えた。
「何故、彼がこんなところに……?」
──まさか父さんが……。彼がこちらへ向かうよう仕向けてくれたのか?
だが、いくらなんでも時間的に早すぎる。
コンラッドの目的が分からないまま、キースとの距離が縮まってきていた。
このまま二人は対峙することになるのかと思いきや、二人とも相手に一瞥を送っただけで興味もなさそうに通り過ぎた。
高位結鬼ともなると、自分の目的とするもの以外、あまり目に入らないらしい。
キースを通り過ぎたコンラッドは真っ直ぐ紅砂の元にやって来た。
風に靡く赤髪の合間から、何を考えているのか分からない青い瞳が紅砂を一瞥する。
「無事だったみたいだな」
コンラッドの第一声に、紅砂は首を傾げた。彼に身を案じてもらえるような親密な関係ではない筈だ。それどころか高位であるコンラッドからしたら紅砂など虫けらに等しいだろう。
「な、何故あなたがここに?」
疑い深げに紅砂が訊ねると、コンラッドは顔をしかめてこう言った。
「アドリエンの気配を感じて、それをうっかり蘭武の前で口にしてしまったんだ。そしたら、お前の事が心配だと言って、蘭武が暴れ出すから、仕方なく俺が……」
「な……なるほど。しかし、それであの娘が納得しましたか?」
「いや、納得しないから柱に縛り付けて眠らせておいた。しかし、何なんだあいつは?何であいつは俺を恐れない?力関係は以前の浜辺でその身にしっかりと味わっている筈だ」
「あー、だから、力ではないってことですよ。……彼女はあなたを敵と認識していないと言うことです。むしろ、どこか認めているんじゃないですか?……男として」
コンラッドのこめかみが僅かに動いた。いつも固い表情の彼が微かに示した感情の印。この印が一体なにを示しているのか?紅砂は少し賭けてみることにした。
「僕の事は心配ない。それより、男を上げるために先ほど通り過ぎたあなたのお仲間を止めてもらえませんか?彼は蘭武の弟を狙っています。僕が無事でも、弟のために結鬼の母体としてその身を犠牲にしたのに、呆気なくここで弟を失ったらそれこそ彼女は気が狂いかねない」
青い瞳は静かに紅砂を見つめた。そして、妙に冷めたというか、呆れたような溜め息を一つこぼすと、コンラッドは赤髪をがしゃがしゃとかきむしった。
「お前の物言いは何だかいつも腹立たしく感じる。俺に何とかしてもらいたいならはっきりそう言えよ」
「いいんですか?あなたは誇り高き高位結鬼で僕は……」
「俺には高位だとか低位だとか、そんな事どうでもいい。あの弟。四鵬ってのを助けりゃそれでいいんだろ?」
「お、お願いできますか?!」
「ここまで来たんだ。いいだろう」
「有り難う御座います!この恩はいずれ返します!」
四鵬と卯月の事はコンラッドに任せて、紅砂は元の森へと戻った。
龍一にアドリエンの処理を任せたが、紅砂は一抹の不安を覚えていた。
対高位結鬼用の溶解剤でアドリエンの身体を溶かし出したとはいえ、彼らの再生力は並みではない。キースがアドリエンの首をアドリエンの半身に放り投げた時、龍一が砕いたはずの骨は既に再生していた。龍一の元に溶解剤はもうない。と、いうことは筋肉が再生する前に骨を砕いていくしかないのだが、その作業には相当の体力が必要だ。体力が尽きた時、龍一の身が危ない。ある程度で見切りをつけてどこか遠くへ逃げてくれていればいいが、それもやはり心配だ。
紅砂は先を急いだ。
間もなく龍一がいる地点の上空に達する。
その時──!紅砂の耳に龍一の悲鳴が聞こえた。
「しまった!!遅かったか!」
現場に駆け付けた紅砂の目に、足首をアドリエンに噛まれた龍一の姿が飛び込んできた。
「まずい!!」
紅砂は直ぐ様、龍一の元へと着地し、アドリエンの首を掴んだ。そして、両方の眼窩に指を突っ込み、引き離そうとする。しかし、アドリエンはスッポンの如く龍一を離さない。これ以上、無理をしたら、龍一の足が引きちぎられてしまう。
紅砂は仕方なく、右手でアドリエンの頭を掴んだまま、左手を自分の口許に寄せて手首を噛み切った。
鮮血がアドリエンの首に降りかかる。
アドリエンが龍一を離した。
やはり、龍一の血より同族である紅砂の血の方が、アドリエンにとっては好ましいようだ。
況してや紅砂は卯月と契りを交わしている。これは同じ低位結鬼の血と比べても高位結鬼にとっては、格別なものになる。その証拠に、僅かな紅砂の血でアドリエンの再生速度が上がった。
方々に散っていたはずのアドリエンの細胞が瞬く間に、一つに集まって形を為してゆく。
その速度は紅砂にしても、アドリエンにしても想像以上だった。
アドリエンの首が胴体と繋がった。続いて足。筋肉は至るところまだ削げ落ちていたが、内蔵が再生しつつあった。さっき潰したはずの目も元通りになる。
「なんだお前の血は?500年前と随分と違う。女に手を付けた奴の血はこんなにも力を与えてくれるのか?なるほどね。僕たちの歴史が共食いになるのも頷ける」
紅砂の身に緊張が走った。
「いや、それはまだ……。僕が何とかそうならないように阻止します。ですから、念のため父さんにも迎えに来てほしいんです!」
「あのなあ。前々から言っているけど、高位の奴におで達低位の奴が何かしようとしても無駄だぞ。四鵬と卯月ちゃんには悪いけど諦めろ」
奏閻の言葉に紅砂は唇を噛み締めた。やはり、父さんに頼むことは無駄だったか……。
「そうですか……分かりました。では、父さん。ここでさよならですね。僕が居なくなっても貴方は生き延びて下さい」
電話口で奏閻のため息が聞こえる。
「ったく、おめぇはまた直ぐにそれだ。おでの教えをおめぇはちっとも聞きやしない。おではもう知らんど!勝手に消えろ!!」
怒鳴るなり、通話を切られてしまった。
「やっぱダメだったか……」
奏閻は徹底した自己保存の本能的で生きている。その直感は結鬼の中でも最長齢と言われる奏閻だからこそ鋭く正確だ。つまり、奏閻が動かないということは、今の状況はかなり厳しい状況だという証明でもある。
紅砂は天に向かって飛翔した。海岸沿い──それも本土に近い場所へと身を翻す。すると、右の前方にキースの姿が見えた。山の木々達に触れるか触れないかの位置で真っ直ぐ海岸へと向かっていた。
紅砂の脈が焦りで早くなる。後を追いかけるにも、高位であるキースの方が飛翔速度が速い。このままでは紅砂が止めるより早く、四鵬と卯月に追い付いてしまう。
せめて反対方向から奏閻が来てくれれば、まだ勝機はあったのに……。
紅砂が絶望と共に唇を噛み締めた時、キースの更に前方から深紅の髪を靡かせたコンラッドがこちらに向かっているのが見えた。
「何故、彼がこんなところに……?」
──まさか父さんが……。彼がこちらへ向かうよう仕向けてくれたのか?
だが、いくらなんでも時間的に早すぎる。
コンラッドの目的が分からないまま、キースとの距離が縮まってきていた。
このまま二人は対峙することになるのかと思いきや、二人とも相手に一瞥を送っただけで興味もなさそうに通り過ぎた。
高位結鬼ともなると、自分の目的とするもの以外、あまり目に入らないらしい。
キースを通り過ぎたコンラッドは真っ直ぐ紅砂の元にやって来た。
風に靡く赤髪の合間から、何を考えているのか分からない青い瞳が紅砂を一瞥する。
「無事だったみたいだな」
コンラッドの第一声に、紅砂は首を傾げた。彼に身を案じてもらえるような親密な関係ではない筈だ。それどころか高位であるコンラッドからしたら紅砂など虫けらに等しいだろう。
「な、何故あなたがここに?」
疑い深げに紅砂が訊ねると、コンラッドは顔をしかめてこう言った。
「アドリエンの気配を感じて、それをうっかり蘭武の前で口にしてしまったんだ。そしたら、お前の事が心配だと言って、蘭武が暴れ出すから、仕方なく俺が……」
「な……なるほど。しかし、それであの娘が納得しましたか?」
「いや、納得しないから柱に縛り付けて眠らせておいた。しかし、何なんだあいつは?何であいつは俺を恐れない?力関係は以前の浜辺でその身にしっかりと味わっている筈だ」
「あー、だから、力ではないってことですよ。……彼女はあなたを敵と認識していないと言うことです。むしろ、どこか認めているんじゃないですか?……男として」
コンラッドのこめかみが僅かに動いた。いつも固い表情の彼が微かに示した感情の印。この印が一体なにを示しているのか?紅砂は少し賭けてみることにした。
「僕の事は心配ない。それより、男を上げるために先ほど通り過ぎたあなたのお仲間を止めてもらえませんか?彼は蘭武の弟を狙っています。僕が無事でも、弟のために結鬼の母体としてその身を犠牲にしたのに、呆気なくここで弟を失ったらそれこそ彼女は気が狂いかねない」
青い瞳は静かに紅砂を見つめた。そして、妙に冷めたというか、呆れたような溜め息を一つこぼすと、コンラッドは赤髪をがしゃがしゃとかきむしった。
「お前の物言いは何だかいつも腹立たしく感じる。俺に何とかしてもらいたいならはっきりそう言えよ」
「いいんですか?あなたは誇り高き高位結鬼で僕は……」
「俺には高位だとか低位だとか、そんな事どうでもいい。あの弟。四鵬ってのを助けりゃそれでいいんだろ?」
「お、お願いできますか?!」
「ここまで来たんだ。いいだろう」
「有り難う御座います!この恩はいずれ返します!」
四鵬と卯月の事はコンラッドに任せて、紅砂は元の森へと戻った。
龍一にアドリエンの処理を任せたが、紅砂は一抹の不安を覚えていた。
対高位結鬼用の溶解剤でアドリエンの身体を溶かし出したとはいえ、彼らの再生力は並みではない。キースがアドリエンの首をアドリエンの半身に放り投げた時、龍一が砕いたはずの骨は既に再生していた。龍一の元に溶解剤はもうない。と、いうことは筋肉が再生する前に骨を砕いていくしかないのだが、その作業には相当の体力が必要だ。体力が尽きた時、龍一の身が危ない。ある程度で見切りをつけてどこか遠くへ逃げてくれていればいいが、それもやはり心配だ。
紅砂は先を急いだ。
間もなく龍一がいる地点の上空に達する。
その時──!紅砂の耳に龍一の悲鳴が聞こえた。
「しまった!!遅かったか!」
現場に駆け付けた紅砂の目に、足首をアドリエンに噛まれた龍一の姿が飛び込んできた。
「まずい!!」
紅砂は直ぐ様、龍一の元へと着地し、アドリエンの首を掴んだ。そして、両方の眼窩に指を突っ込み、引き離そうとする。しかし、アドリエンはスッポンの如く龍一を離さない。これ以上、無理をしたら、龍一の足が引きちぎられてしまう。
紅砂は仕方なく、右手でアドリエンの頭を掴んだまま、左手を自分の口許に寄せて手首を噛み切った。
鮮血がアドリエンの首に降りかかる。
アドリエンが龍一を離した。
やはり、龍一の血より同族である紅砂の血の方が、アドリエンにとっては好ましいようだ。
況してや紅砂は卯月と契りを交わしている。これは同じ低位結鬼の血と比べても高位結鬼にとっては、格別なものになる。その証拠に、僅かな紅砂の血でアドリエンの再生速度が上がった。
方々に散っていたはずのアドリエンの細胞が瞬く間に、一つに集まって形を為してゆく。
その速度は紅砂にしても、アドリエンにしても想像以上だった。
アドリエンの首が胴体と繋がった。続いて足。筋肉は至るところまだ削げ落ちていたが、内蔵が再生しつつあった。さっき潰したはずの目も元通りになる。
「なんだお前の血は?500年前と随分と違う。女に手を付けた奴の血はこんなにも力を与えてくれるのか?なるほどね。僕たちの歴史が共食いになるのも頷ける」
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