奇夜に結ぶ鬼

蓮華空

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「それより、二人ともここで硬直状態ですけど、何を話していたんです?」

 紅砂が訊ねると、答えたのはコンラッドだった。

「お前には関係のないことだ。それより、お前にはしなきゃならない事があるんじゃないのか?」

 紅砂は頷き、取り敢えず、この場はコンラッドに任せることにした。

「それじゃあ、僕はこれで」

 軽く挨拶をかわし、紅砂は卯月と四鵬の元へ飛ぼうとしたが「待て!」と言って、キースが前方を塞ぐ。すると、透かさずコンラッドがキースの前に立ち塞がった。

「待つのはお前だ。それより、さっきの話の続きだ。こいつの事はいいから、俺の質問に答えろよ。お前……明らかに以前と変化しているな?何を口にした?」

 紅砂にはコンラッドの言っている意味が分からなかったが、コンラッドはキースに意識を集中したまま、紅砂に顎をしゃくって先を急げ、と促した。

 紅砂は心の中で礼を言いながら、先を急いだ。なんだかよく分からないが、二人は邂逅してみて、何らかの因縁に気づいたようだった。二人の事情はよく分からないが、このタイミングで何かが動き出したことは紅砂にとって有難い事だった。



*****


 コンラッドはキースから吹き付ける風の臭いに、以前とは違うキースを感じていた。この変化は、アドリエンがよく食事をした後に香ってくる臭いと同じだった。すなわち、高位結鬼の胎児を口にした後の香りと変化だ。

「普段は鈍い癖に、変な所だけは敏感なんだな、コンラッド。お前の言う通りだよ。私はお前の息子?になるのか。そいつを頂いた」

 コンラッドの脳裏で息子を手放してしまったと嘆く、ジーナの姿が甦った。

 聞けば、その子はジーナらを守るため、自らを犠牲にして彼らの元から去ったという。本来なら自分の生存にしか関心を示さないはずの高位結鬼が、産まれたばかりだというのに、自分の命を犠牲にするなど、まず考えられない。それほどその子にとってジーナは特別だったということか……。そして、今なお、悲しみにくれているジーナもまた……。

「本当に……お前が喰らったのか?」

「ああ。名はテラとか言っていたかな?首と胴を真っ二つに引き裂いて美味しく頂いた」

 そうか……と言うと同時に、コンラッドは動いた。そして、空中に鮮血が舞う。鞭のようにしなやかに叩き付けられたコンラッドの腕が、キースの首から頸動脈を裂き、鎖骨から肋骨にかけての骨を全て砕いたのだ。

「ぐぼっ!!」

 と、血泡を吹き、キースはそのまま海へと墜落して行く。コンラッドをそれを逃すまいと追いかけ、さらにキースの頬に拳を叩きつけた。頚椎が折れる嫌な音がすると、キースは海に没していった。

 コンラッドは拳を震わせながら唇を噛んだ。腹腔から押し寄せる感情がなんなのか、自分でもよく分からない。ただ、奴を引き裂きたい。その想いだけが強くコンラッドを動かしていた。

 コンラッドはキースを追って、海に入った。とどめを刺してやろうかと思っていたが、海中で黒い影に囲まれながら踠くキースを見て止めた。

 キースの首から流れ出る血の臭いに誘われ、シュモクザメ達が群れを成してキースの肉を引きちぎっていたからだ。

──そうやって、お前も喰われればいい。

 ジーナの愛した子が、どんな想いで喰われたのか分からないが、同族間で喰われるより、サメに喰われ、自然界に戻った方がいいような気がして、コンラッドは踵を返した。そして、海上に上がると、一刻も早くジーナの元へ帰りたくなった。

 コンラッドは宙へ翻ると、元の場所へと向かって飛んだ。



※※※※※



 その頃、時を同じくして、アドリエンが空に向かって呪詛を吐いていた。

「くそ!!遅い!!遅すぎる!!」

 身体の再生が思うようにいかないジレンマに、アドリエンはイライラしていた。額は未だ、小刀で木の幹に縫い付けられたまま、やっと身体の近くまで戻って来た足に、続けて罵声を浴びせる。

「早くしろ!夜が明けちまうぞ!!」

 足は膝と足首を微妙にくねらせながら、何とか胴体へと到着し、元の位置に戻ると、細胞がまた一つ一つ再生され、繋がっていく。

 足が繋がると、アドリエンは身を持ち上げ、小刀を額に付けたまま、幹から身を離した。

「羅閻の奴……腕を持って行きやがって……、返してもらうと同時に、今度こそ息の根を止めてやる……」

 憎悪に震える身体を起こし、アドリエンは海に向かって歩いて行った。












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