13 / 79
摩矢episode2
13
しおりを挟む
桜木は戸棚からトリートメントオイルと精油を取り出してきた。
「今日はどの香りがいい?リラックスなら断然ラベンダーだけど、ネロリやゼラニウムもブレンドする?気持ちをスッキリさせたいならペパーミントやユーカリってのもいいと思うけど」
脇で桜木が精油のビンを出して準備している。桜木はアロマサロンを開いている母親の影響でマッサージが得意だ。お陰で俺はいつもこいつの手で癒されている。
俺は瞼にラベンダーの冷湿布を貼ったままネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外した。
「今日はラベンダーで頼む。あとマジョラムも追加して」
「了解!──秋ちゃんって本当にマジョラム好きだね。毎回、ブレンドしてる」
「まあな」
いつもマジョラムを追加するのは念のためだ。マジョラムには性的興奮を鎮める作用があるらしい。好きな奴にマッサージをされるんだ。途中で変な気を起こして、妙な部分が勃ち上がっても困る。
「オイルはセントジョンズワートにマカダミアナッツブレンドでいくよ」
俺は無言で右手を上げ、OKのサインを出した。すると、精油のいい香りが桜木の方からしてきた。
──じゃあ、失礼します、と言って桜木の掌が肩に触れる。ゆっくりと肩から首の辺りまで満遍なくオイルが浸透していき、精油の香りが部屋一杯に充満していくと、俺は大きく息を吸った。
「秋ちゃん、首の辺りの緊張が酷すぎ。これだといつか体を壊しちゃうよ。右手も酷使してるなあ~。
秋ちゃんの刺繍作品は見事で俺も大好きだけど、これはやっぱりやり過ぎだよ。だから今度一緒にどっか旅行にでも出掛けようか?」
俺は一瞬、何を言っているのか分からなくて絶句した。本当にこいつの頭の中だけはよく分からない。
「お前はアホか?彼女が出来たんだから彼女に時間を割けって、俺はさっき忠告したよな?」
「そうだけどさあ。秋ちゃんって俺が構わなかったらずっと針と糸じゃん」
「いいだろ別にそれでも」
「良くないよ。秋ちゃんは俺が声をかけなきゃ寝食も忘れて刺繍に集中しちゃうだろ。それだといつか絶対に体を壊すから心配で目が離せないよ」
「ふん!そんなの余計なお世話だ!俺の事なんか放っておけよ!」
どうして俺はこんな可愛げのない言い方しか出来ないのだろう……。だが、そんな態度を見せても桜木は気にした風もなく、優しい声をかけてくれた。
「だったら、俺に余計なお世話をされないよう、いい加減ほどほどってのを学ぼうなぁ」
鼓膜に響いた色気のある声に思わず身を震わせる。そして、桜木は俺の頭をくしゃくしゃと優しく撫で回した。桜木はちっとも気を悪くしていないようだ。その穏やかさに、俺の涙腺は緩みかかって、唇をそっと噛み締めた。
「ああ、そうかぁ……それか秋ちゃんも彼女を作ればいいんだよなあ。そうすれば俺も安心して彼女に時間を割けると思うし、そうなったら一石二鳥じゃない?どう?人嫌いとか言ってないで、実際、いい子も一杯いるんだし、前向きに考えてみない?タイプを教えてくれれば俺も探すからさ。秋ちゃんってすごく人から誤解されやすいけど、いつも周りをよく見てるから、秋ちゃんさえその気になったら誰とでも上手く付き合えると思うんだよねー」
(馬鹿野郎!それが出来たら俺は今日までこんなに苦しんでねえーつーの!)
俺は瞼の上のコットンをずらして下から桜木の美貌を睨み付けた。
「俺は生涯独身一生童貞でいるから」
桜木は眉をひそめ、一瞬怯んだ。
「えっ?! まだ言ってるのそれ? ──そんな寂しいこと言うなよ……」
「全然寂しくないから大丈夫!」
(俺はお前以外受け付けねーんだから寂しいも糞もねぇーんだよ!)
「しかも一生童貞って……、秋ちゃんは格好いいんだから、それじゃあ勿体無いと思うよ。セックスだって一度くらいしてみりゃいいのに、気持ちいいぞ」
「──あ"?」
こいつは俺の前でなんつーこと言いやがる……。
セックスが気持ちいいなんて言うから、お陰でこっちはお前が女とやってるところを想像しちまったじゃねーか!
「今日はどの香りがいい?リラックスなら断然ラベンダーだけど、ネロリやゼラニウムもブレンドする?気持ちをスッキリさせたいならペパーミントやユーカリってのもいいと思うけど」
脇で桜木が精油のビンを出して準備している。桜木はアロマサロンを開いている母親の影響でマッサージが得意だ。お陰で俺はいつもこいつの手で癒されている。
俺は瞼にラベンダーの冷湿布を貼ったままネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外した。
「今日はラベンダーで頼む。あとマジョラムも追加して」
「了解!──秋ちゃんって本当にマジョラム好きだね。毎回、ブレンドしてる」
「まあな」
いつもマジョラムを追加するのは念のためだ。マジョラムには性的興奮を鎮める作用があるらしい。好きな奴にマッサージをされるんだ。途中で変な気を起こして、妙な部分が勃ち上がっても困る。
「オイルはセントジョンズワートにマカダミアナッツブレンドでいくよ」
俺は無言で右手を上げ、OKのサインを出した。すると、精油のいい香りが桜木の方からしてきた。
──じゃあ、失礼します、と言って桜木の掌が肩に触れる。ゆっくりと肩から首の辺りまで満遍なくオイルが浸透していき、精油の香りが部屋一杯に充満していくと、俺は大きく息を吸った。
「秋ちゃん、首の辺りの緊張が酷すぎ。これだといつか体を壊しちゃうよ。右手も酷使してるなあ~。
秋ちゃんの刺繍作品は見事で俺も大好きだけど、これはやっぱりやり過ぎだよ。だから今度一緒にどっか旅行にでも出掛けようか?」
俺は一瞬、何を言っているのか分からなくて絶句した。本当にこいつの頭の中だけはよく分からない。
「お前はアホか?彼女が出来たんだから彼女に時間を割けって、俺はさっき忠告したよな?」
「そうだけどさあ。秋ちゃんって俺が構わなかったらずっと針と糸じゃん」
「いいだろ別にそれでも」
「良くないよ。秋ちゃんは俺が声をかけなきゃ寝食も忘れて刺繍に集中しちゃうだろ。それだといつか絶対に体を壊すから心配で目が離せないよ」
「ふん!そんなの余計なお世話だ!俺の事なんか放っておけよ!」
どうして俺はこんな可愛げのない言い方しか出来ないのだろう……。だが、そんな態度を見せても桜木は気にした風もなく、優しい声をかけてくれた。
「だったら、俺に余計なお世話をされないよう、いい加減ほどほどってのを学ぼうなぁ」
鼓膜に響いた色気のある声に思わず身を震わせる。そして、桜木は俺の頭をくしゃくしゃと優しく撫で回した。桜木はちっとも気を悪くしていないようだ。その穏やかさに、俺の涙腺は緩みかかって、唇をそっと噛み締めた。
「ああ、そうかぁ……それか秋ちゃんも彼女を作ればいいんだよなあ。そうすれば俺も安心して彼女に時間を割けると思うし、そうなったら一石二鳥じゃない?どう?人嫌いとか言ってないで、実際、いい子も一杯いるんだし、前向きに考えてみない?タイプを教えてくれれば俺も探すからさ。秋ちゃんってすごく人から誤解されやすいけど、いつも周りをよく見てるから、秋ちゃんさえその気になったら誰とでも上手く付き合えると思うんだよねー」
(馬鹿野郎!それが出来たら俺は今日までこんなに苦しんでねえーつーの!)
俺は瞼の上のコットンをずらして下から桜木の美貌を睨み付けた。
「俺は生涯独身一生童貞でいるから」
桜木は眉をひそめ、一瞬怯んだ。
「えっ?! まだ言ってるのそれ? ──そんな寂しいこと言うなよ……」
「全然寂しくないから大丈夫!」
(俺はお前以外受け付けねーんだから寂しいも糞もねぇーんだよ!)
「しかも一生童貞って……、秋ちゃんは格好いいんだから、それじゃあ勿体無いと思うよ。セックスだって一度くらいしてみりゃいいのに、気持ちいいぞ」
「──あ"?」
こいつは俺の前でなんつーこと言いやがる……。
セックスが気持ちいいなんて言うから、お陰でこっちはお前が女とやってるところを想像しちまったじゃねーか!
0
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる