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摩矢episode3
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翌日、俺が学校に着くと、既に桜木と木下希美が付き合い始めたという話が学校中に広まっていた。流石と言うかなんと言うか……、桜木を狙う女が何人もいるせいで、こういう話が広まるのは本当に早い。そして、見事桜木をゲットした木下希美は、得意気にその馴れ初めを友人達に話していた。きっとあの女にとって今が一番幸せな時なのだろう。頬を染め、艶々とした肌で朗らかに微笑む姿は、まるで天使のような輝きを放っていた。
対する俺と言ったら気分はドン底。体は辛うじて地面を歩いているが、精神はすっかり地底人だ。
昨日はその後、桜木との時間をどのように過ごしたのか余り覚えていない。長いことトイレに籠っていた俺は、妹らに発見されるや否や、ドア越しから火炎放射のような悪態の総攻撃を受け、渋々トイレから這い出し、そのまま風呂場に逃げたような気がする。
その後はみんなで食卓を囲み、桜木の隣には目をハートにした妹らが張り付き、俺はいつものように隅で寂しく黙々と食事を取っていた。
妹達の笑い声を聞きながら、俺はずっと今後の赤虫とのやり取りに頭を悩ませていた。
(やはり──、赤虫共々桜木とは距離を取った方がいい。想い人に想い人の話をするなんて、これ以上は俺の精神が持ちそうもない)
そう結論に達した頃、桜木は俺の家を後にした。
「じゃあ、秋ちゃん。また明日ね」
玄関先まで見送りに出た俺に、桜木は手を振って微笑んだ。その優しい笑顔を見てしまうと、さっきまでの決意が一瞬で揺らぎそうになる。
「ああ」
と、なんとか答えながらも心では『明日はない』と思っていた。だから、一秒でも長く桜木の姿を網膜に焼き付けておきたくて、冷えた爪先がじんと痺れても、俺はそこに立ち尽くしたまま動けなかった。
◇ ◇ ◇
予礼が鳴ると、俺は教室に慌てて入り自分の席に座った。そして、朝のHRが始まった。
先生が教壇に立ち、出席を取り始めたが、桜木の姿がまだない。珍しいことだった。先生も首を捻りながら「桜木はどうしたんだ?誰か知ってるか?」と生徒達に呼びかけたが、生徒達もみんな首を捻るだけだった。
そういえば今朝は家にも来ていない。俺の携帯に『今日は弁当を作ってあげられない』というメッセージが送られてきたが、俺はてっきり彼女と登校するからだと思っていた。でも、今朝はその彼女とも一緒に居なかった。
(何をやってるんだ……? あいつ──)
俺は妙な胸騒ぎがした。朝から俺に連絡してくるくらいだから寝坊をしている訳ではない。と、言うことは、朝っぱらから何かのトラブルに巻き込まれたのではないのか?
あいつが学校への連絡もなしに登校しないなんて初めてだ。
俺は次第に不安になった。
HRが終わり担任が去って行くと、俺は教室を出て屋上へ続く階段を登った。
(──取り敢えず桜木に電話をしてみよう)
昨夜、徹底して奴を無視しようと決めたばかりなのに、俺はそれどころではなくなっていた。早く桜木の声を聞かなくては落ち着かない。
俺は急いで4階まで駆け上がり、屋上の扉がある踊場まで来て立ち止まった。
俺は舌打ちをした。
踊場の隅に誰かが踞って泣いている。
今すぐUターンして見なかったことにしようと思ったが、タイミング悪く泣いている目とバッチリ合ってしまった。
(──気まずい)
しかも踊場に踞っていたのは同じクラスの三隅洋太というハムスターに似た可愛い系男子だった。俺とは通常交わる事がないタイプだ。それは向こうにとっても同じなのだろう。俺が誰だか分かると三隅は青ざめた顔をして直ぐに震えだした。どう見ても天敵に出会った小動物の反応だ。
「こんな所で何をしている?」
無視しても良かったのだが、こういう小動物系の可愛い奴はどうも好かず、つい、責めるような口調になってしまう。
要はこれも嫉妬の一種だ。可愛い系の奴らは大抵桜木に可愛がられているから、俺からしたら羨ましさの余り憎さ100倍なのだ。
対する俺と言ったら気分はドン底。体は辛うじて地面を歩いているが、精神はすっかり地底人だ。
昨日はその後、桜木との時間をどのように過ごしたのか余り覚えていない。長いことトイレに籠っていた俺は、妹らに発見されるや否や、ドア越しから火炎放射のような悪態の総攻撃を受け、渋々トイレから這い出し、そのまま風呂場に逃げたような気がする。
その後はみんなで食卓を囲み、桜木の隣には目をハートにした妹らが張り付き、俺はいつものように隅で寂しく黙々と食事を取っていた。
妹達の笑い声を聞きながら、俺はずっと今後の赤虫とのやり取りに頭を悩ませていた。
(やはり──、赤虫共々桜木とは距離を取った方がいい。想い人に想い人の話をするなんて、これ以上は俺の精神が持ちそうもない)
そう結論に達した頃、桜木は俺の家を後にした。
「じゃあ、秋ちゃん。また明日ね」
玄関先まで見送りに出た俺に、桜木は手を振って微笑んだ。その優しい笑顔を見てしまうと、さっきまでの決意が一瞬で揺らぎそうになる。
「ああ」
と、なんとか答えながらも心では『明日はない』と思っていた。だから、一秒でも長く桜木の姿を網膜に焼き付けておきたくて、冷えた爪先がじんと痺れても、俺はそこに立ち尽くしたまま動けなかった。
◇ ◇ ◇
予礼が鳴ると、俺は教室に慌てて入り自分の席に座った。そして、朝のHRが始まった。
先生が教壇に立ち、出席を取り始めたが、桜木の姿がまだない。珍しいことだった。先生も首を捻りながら「桜木はどうしたんだ?誰か知ってるか?」と生徒達に呼びかけたが、生徒達もみんな首を捻るだけだった。
そういえば今朝は家にも来ていない。俺の携帯に『今日は弁当を作ってあげられない』というメッセージが送られてきたが、俺はてっきり彼女と登校するからだと思っていた。でも、今朝はその彼女とも一緒に居なかった。
(何をやってるんだ……? あいつ──)
俺は妙な胸騒ぎがした。朝から俺に連絡してくるくらいだから寝坊をしている訳ではない。と、言うことは、朝っぱらから何かのトラブルに巻き込まれたのではないのか?
あいつが学校への連絡もなしに登校しないなんて初めてだ。
俺は次第に不安になった。
HRが終わり担任が去って行くと、俺は教室を出て屋上へ続く階段を登った。
(──取り敢えず桜木に電話をしてみよう)
昨夜、徹底して奴を無視しようと決めたばかりなのに、俺はそれどころではなくなっていた。早く桜木の声を聞かなくては落ち着かない。
俺は急いで4階まで駆け上がり、屋上の扉がある踊場まで来て立ち止まった。
俺は舌打ちをした。
踊場の隅に誰かが踞って泣いている。
今すぐUターンして見なかったことにしようと思ったが、タイミング悪く泣いている目とバッチリ合ってしまった。
(──気まずい)
しかも踊場に踞っていたのは同じクラスの三隅洋太というハムスターに似た可愛い系男子だった。俺とは通常交わる事がないタイプだ。それは向こうにとっても同じなのだろう。俺が誰だか分かると三隅は青ざめた顔をして直ぐに震えだした。どう見ても天敵に出会った小動物の反応だ。
「こんな所で何をしている?」
無視しても良かったのだが、こういう小動物系の可愛い奴はどうも好かず、つい、責めるような口調になってしまう。
要はこれも嫉妬の一種だ。可愛い系の奴らは大抵桜木に可愛がられているから、俺からしたら羨ましさの余り憎さ100倍なのだ。
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