どこまでも近くて遠い君

蓮華空

文字の大きさ
15 / 79
摩矢episode2

15

しおりを挟む
「その子はさあ、好きになっちゃいけない人を好きになっちゃって、ずっと辛い片想いをしてるんだよね。秋ちゃんは俺に〝来る者拒まず〝で付き合うのは良くないって言うけど、その子の詞を読むと片想いって本当に辛そうでさあ……。だから俺は告白してくる子はどんな子でも抱き締めてやりたくなっちゃうんだよね」  

「……あ、そう……」

 俺は何とか気のない返事を返したが、心境は尋常じゃない混沌に陥っていた。



 世界は、真っ白な海原だった──。



 マジかよ…………なんなんだよ…………この有り得ない現実は???



 俺は今にも泣きたい気持ちになった。



 そもそもこんな身近な人間があの糞詩を読みに来るなんて思いもよらないし、ましてやそれが桜木だなんて事……誰が想像出来る???



 しかし、現実に桜木の口から紡ぎ出される歌は、紛れもなく俺が桜木を想って書いた詩だった。

 それを桜木の口から聴かされるなんて、これはなんの拷問か━━?!

 しかも、桜木が来る者拒まず女を受け入れていたのは、俺の詩を読んで片想いが辛そうだからだとっ?!!
 つまり、俺が桜木と女共を結び付けていたというのか?!そんな現実、あんまりじゃねえか?!

 いつも俺を地獄に突き落としているのも桜木なら、そこから救ってくれた赤虫も桜木だったなんて?!こんな不毛な因果があってたまるかっ!!

 こいつは俺のなんなんだ?? 悪魔か? 仏か?

 どうやら俺の世界は、自分が思っている以上に桜木中心で回っていたらしい。


 桜木は尚も俺の怨念歌を優しく滑らかに歌い続けた。それにしてもよくもまあ、あんな陰気な詩をこんな優しさ溢れる穏やかな曲に仕立てあげたもんだ。こいつの作曲のセンスはマジで天才なんじゃないのか?!

「あ!そうだ秋ちゃん。眠くなったらこのまま寝ちゃってもいいからね」

(──って、んな歌を聴かされて眠れるか阿保っ━━!!)

 俺はいよいよ耐えきれず、「やっぱもう無理!!」と言って勢いよく起き上がった。

「どうしたの、秋ちゃん?」

 きょとんとしている桜木に「トイレ!!」とだけ言って俺は脱兎の如くその場から立ち去った。


「あ、そう……」

 と、茫然としている桜木を尻目に、俺は素早く釣り梯子を下ろして階下に降りた。
 
 どうにもこうにも頭の中がパニックだ!

 俺は一人、トイレに飛び込み鍵を閉めて、その場に踞った。

 ずっと失恋の救い神だと思っていた赤虫が実は桜木だったなんて……。

 俺はこれからどうやって心の傷を癒せばいいんだ?!







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

処理中です...