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摩矢episode4
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その日の夕方、桜木は約束通り摩矢家を訪れてくれた。
階下では妹達が歓喜の声を上げている。俺はその泣き声を聞いて取り敢えずほっとした。
数時間が経ち、夜の闇がすっかり濃くなった頃。桜木が帰るところなのか、玄関先が騒がしくなった。
俺はコソコソと部屋の電気を消し、見つからないよう注意しながらカーテンの陰に立って、玄関の様子を覗いた。
『ユウちゃん、今日は本当に来てくれて有り難う』
お袋の声と共に、桜木が玄関から出てきた。
『いえ、こちらこそ暫くご無沙汰していたくせに、突然現れてすいません』
桜木が振り返り、お袋に笑顔を向ける。今日は日曜日だったせいか、久々の私服姿だ。しかも、日中は彼女とデートでもしていたのか、いつもより服装も髪型も決まっている。ヴィンテージもののジーンズをスッキリと着こなし、高そうな皮のジャケットはモデル並の着こなしだ。ただでさえいい男なのに、今日は更に二段階くらいアップしていた。
『ユウちゃん、本当に今日は有り難う!』
『懲りずにまた顔を見せてね!』
『バカ兄貴にはタヒね!とひとこと言っておくから、兄貴の事なんか気にせずまた来てね!』
なんて言う妹達の明るい声が聞こえた。どうやら妹たちは桜木の顔を見て、やっと元気が出たらしい。
──それはそれで良かった。
桜木は『じゃあ、また今度お邪魔します。夕飯、ご馳走さまでした』と、言って手を振って摩矢家の門を抜けた。
街灯の下、ゆっくり駅へと向かう桜木の後ろ姿を見送る。
(ああ……。桜木が行ってしまう……)
こんなに近くに桜木が居るのに、俺は顔すら合わせることが出来ない。
暗い巣穴に一人取り残された子狐の寂しさを感じながら、遠ざかる桜木の背中を見つめた。すると、不意に桜木が足を止め、こっちを見上げた。
俺は慌てて身を隠した。心臓は鼓動を早め、全身が震える。
暫くして俺はもう一度、家の前の路地を確認した。すると、まだ桜木がこちらを見上げている。俺はまた慌てて身を隠した。
(あいつ……いつまでそこにいるんだ?一体、何をやってるんだよ!)
喜びと不安がない交ぜになりながら、俺は深呼吸をして心を落ち着かせた。
そして、
1分……
2分……
3分……
5分くらい経った頃だろうか?
俺は恐る恐る窓の外を覗いた。すると、やはり桜木がまだそこに居た。
(──マジかっ?!何やってるんだよ!あいつ!!)
俺は堪らず桜木に電話をかけた。そして、直ぐに奴が出ると、俺は開口一番。
「てめぇ、いつまでそこに突っ立ってるんだ!!早く帰れっ!!」
と、怒鳴った。
すると、桜木はのんびりした声で、
「だってさぁ、今日の月……すっごく綺麗だよ。丁度、秋ちゃん家の屋根の天辺にぽっかり浮かんでてさあ。秋ちゃんと小5の時に飯塚の温泉で見た月を思い出しちゃった。あの時もすっごい綺麗だったよね。秋ちゃんもそこから出てきて、ちょっと見てみなよ」
「アホか!だからって、この寒い夜にいつまでもそこに突っ立ってるなよ!早く帰れっ!!」
「でも、この月は今見なきゃ損だよ。スーパームーンだ!スーパームーン!!一生に一回見れるかどうかの見ものだよ!いいから秋ちゃんもちょっとだけ出てきなよ!!」
そんなオーバーなことを言って人の気を引こうなどどいう、つまらん小細工に俺は腹を立てた。
窓を勢い良く開け、外灯の下に立つ桜木を睨み付けた。桜木は俺と目が合うと直ぐに破顔し、手招きをした。
「ほらほら、秋ちゃん。早く早く、見てみろよ!薄い雲が今、薄っすらかかってきて、周りの光が虹色に見えるよ!本当にめちゃくちゃ綺麗だからこっち来いって!」
はしゃいだ声で誘われると、流石に俺も気になってくる。渋々窓を開け、屋根に降りると、俺は少し前進して、後ろを振り仰いだ。
そして、息を呑む──。
そこには確かに美しいとしか表現できない淡い虹色の光茫が射していた。
「ほら、めっちゃ綺麗でしょ!」
桜木に言われて俺は「ああ」とだけ返事をした。
階下では妹達が歓喜の声を上げている。俺はその泣き声を聞いて取り敢えずほっとした。
数時間が経ち、夜の闇がすっかり濃くなった頃。桜木が帰るところなのか、玄関先が騒がしくなった。
俺はコソコソと部屋の電気を消し、見つからないよう注意しながらカーテンの陰に立って、玄関の様子を覗いた。
『ユウちゃん、今日は本当に来てくれて有り難う』
お袋の声と共に、桜木が玄関から出てきた。
『いえ、こちらこそ暫くご無沙汰していたくせに、突然現れてすいません』
桜木が振り返り、お袋に笑顔を向ける。今日は日曜日だったせいか、久々の私服姿だ。しかも、日中は彼女とデートでもしていたのか、いつもより服装も髪型も決まっている。ヴィンテージもののジーンズをスッキリと着こなし、高そうな皮のジャケットはモデル並の着こなしだ。ただでさえいい男なのに、今日は更に二段階くらいアップしていた。
『ユウちゃん、本当に今日は有り難う!』
『懲りずにまた顔を見せてね!』
『バカ兄貴にはタヒね!とひとこと言っておくから、兄貴の事なんか気にせずまた来てね!』
なんて言う妹達の明るい声が聞こえた。どうやら妹たちは桜木の顔を見て、やっと元気が出たらしい。
──それはそれで良かった。
桜木は『じゃあ、また今度お邪魔します。夕飯、ご馳走さまでした』と、言って手を振って摩矢家の門を抜けた。
街灯の下、ゆっくり駅へと向かう桜木の後ろ姿を見送る。
(ああ……。桜木が行ってしまう……)
こんなに近くに桜木が居るのに、俺は顔すら合わせることが出来ない。
暗い巣穴に一人取り残された子狐の寂しさを感じながら、遠ざかる桜木の背中を見つめた。すると、不意に桜木が足を止め、こっちを見上げた。
俺は慌てて身を隠した。心臓は鼓動を早め、全身が震える。
暫くして俺はもう一度、家の前の路地を確認した。すると、まだ桜木がこちらを見上げている。俺はまた慌てて身を隠した。
(あいつ……いつまでそこにいるんだ?一体、何をやってるんだよ!)
喜びと不安がない交ぜになりながら、俺は深呼吸をして心を落ち着かせた。
そして、
1分……
2分……
3分……
5分くらい経った頃だろうか?
俺は恐る恐る窓の外を覗いた。すると、やはり桜木がまだそこに居た。
(──マジかっ?!何やってるんだよ!あいつ!!)
俺は堪らず桜木に電話をかけた。そして、直ぐに奴が出ると、俺は開口一番。
「てめぇ、いつまでそこに突っ立ってるんだ!!早く帰れっ!!」
と、怒鳴った。
すると、桜木はのんびりした声で、
「だってさぁ、今日の月……すっごく綺麗だよ。丁度、秋ちゃん家の屋根の天辺にぽっかり浮かんでてさあ。秋ちゃんと小5の時に飯塚の温泉で見た月を思い出しちゃった。あの時もすっごい綺麗だったよね。秋ちゃんもそこから出てきて、ちょっと見てみなよ」
「アホか!だからって、この寒い夜にいつまでもそこに突っ立ってるなよ!早く帰れっ!!」
「でも、この月は今見なきゃ損だよ。スーパームーンだ!スーパームーン!!一生に一回見れるかどうかの見ものだよ!いいから秋ちゃんもちょっとだけ出てきなよ!!」
そんなオーバーなことを言って人の気を引こうなどどいう、つまらん小細工に俺は腹を立てた。
窓を勢い良く開け、外灯の下に立つ桜木を睨み付けた。桜木は俺と目が合うと直ぐに破顔し、手招きをした。
「ほらほら、秋ちゃん。早く早く、見てみろよ!薄い雲が今、薄っすらかかってきて、周りの光が虹色に見えるよ!本当にめちゃくちゃ綺麗だからこっち来いって!」
はしゃいだ声で誘われると、流石に俺も気になってくる。渋々窓を開け、屋根に降りると、俺は少し前進して、後ろを振り仰いだ。
そして、息を呑む──。
そこには確かに美しいとしか表現できない淡い虹色の光茫が射していた。
「ほら、めっちゃ綺麗でしょ!」
桜木に言われて俺は「ああ」とだけ返事をした。
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