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桜木episode 1
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「先生!秋ちゃんを探す時、念のため押し入れとか、人が普通入らなそうな所も探してみましたか?」
「──は?!お、押し入れ?」
「あ、その様子なら見てませんね!秋ちゃんはストレスが溜まると狭くて暗い所に入る習性があって……。だから、ひょっとしたらまだ部屋にいるのかもしれない!俺、ちょっと見てきます!!」
「あー、おい!ちょっと待て!俺も行く!!」
みーちゃんも付いてこようとしていたが、そのまま女子達と共に広間でのレクに参加してもらうことにした。そして、俺と松田は急いで秋ちゃんの居た部屋に向かった。
部屋に着くと誰もいない和室に、まだ手を付けていない夕食の膳が残されていた。
「桜木、マジで摩矢が押し入れに居ると思うのか?」
松田の疑問に答える間もなく、俺は押し入れに手を掛けた。
中には布団がびっしりと敷き詰まっていて、人など入る余地がない。
「お前……流石にこんな所には居ないだろう?」
松田が呆れたように言ったが、俺は構わず反対側の押し入れを開けてみた。
こちらにも布団が入っていたが、先程より詰まっている様子はない。しかも奥に少し空間があるようだ。
俺は目を凝らして奥を覗き込んだ。すると、布団と布団の僅かな隙間から秋ちゃんの銀髪が見えた。
「い、居た!!」
俺は急いで布団を掻き出し、奥で丸くなっている秋ちゃんの肩に触れた。背後では、「マジかよ?!」と驚く松田の声がする。
「秋ちゃん!」
呼び掛けても返事がない。
肩を揺すって抱き寄せてみると、秋ちゃんは穏やかな寝息を立てていた。
「寝てる……」
「は?!こんなところで!!」
俺は身を屈めて秋ちゃんを押し入れから引き摺り出した。すると、腹の前に置いていた秋ちゃんの手が角度を変えてハラリと落ち、握っていた薬の包装が床に落ちた。
「ん?何の薬だ?風邪薬??」
松田が落ちた包装を拾い、まじまじと見つめる。
「多分……睡眠薬だと思います」
「睡眠薬ぅ~!?」
「秋ちゃんは環境が変わると眠れない質なので……」
松田にそう説明をすると、松田は深い溜め息を付いた。
「そういえばこいつ……。新幹線の中で俺に触れられるのをすごく嫌がったよなあ」
松田が意味深な上目遣いをこちらに寄越した。
「それがなにか?」
「人に触られるのが駄目。人とのコミュニケーションを取るのも苦手。ストレスが溜まると狭い所に潜り込む。環境が変わると眠れないから睡眠薬が必要…………。桜木……。こいつ……発達障害の検査とか受けたことあるのか?」
「え?!いえ……そんな話しは一度も…………」
俺は秋ちゃんの肩をぎゅっと抱いた。
松田が深刻そうな顔をするもんだから、俺は少し不安になった。
「ひょっとしたら摩矢は……高機能自閉症じゃねぇかなあ……」
「な……なんですか……それ?」
「発達障害の一種だよ。知的に遅れはないが、普通の人とは違う世界感覚で生きているから、どうしてもストレスや緊張を強いられてしまうんだ。──って、俺が安易にそんな事を言ってはいけないな……。摩矢が本当にそうなのかはちゃんとした医療機関で検査してみないと分からないけど、俺も一応教師だ。色んな子を見ている。だから、そんな予感がするだけだ。……けど、あくまで俺個人の見解だから、──そんな顔すんなよ」
いつもの松田らしい軽い調子ではなく、妙に優しいトーンで言うもんだから、俺はますます不安になった。
「そ、その……障害って……人に……触れられるのが駄目なんですか?」
「ああ、通常の人よりストレスになるな。しかも、人だけじゃなく、この障害は感覚過敏もあって、肌触りとかもにも拘る傾向にある。……心当たりでもあるのか?」
「は、はい……。秋ちゃんは……下着や部屋着、布団の重さや枕の高さまで拘りがあります……」
「そうか……。まあ、でも、それだけで決まる診断でもないから、そんな心配するな」
松田が安心させるように、俺の頭をくしゃくしゃと撫で付けた。しかし、睡眠薬を飲んで、穏やかに眠る秋ちゃんを見ていると、俺の目からは次第に涙が溢れてきた。
ここに来る前。車の中で母さんが言った事を思い出す。
『秋人くんはみんなとは違う視点から世界を見ているのね』
そんな風に……俺は一度だって思った事はなかった。
俺は自分が心地良ければ、大抵の人は心地が良いと思っていたし、特に秋ちゃんは、いつも俺の側で笑ってくれるから、世界が違うなんてこと……思いもよらなかった。
俺って奴は、誰よりも知っているつもりで、ちっとも秋ちゃんの事を知らなかったんだ。
「兎も角、摩矢をどうしたものか……?」
松田の呟きに、俺は顔を上げた。
「──は?!お、押し入れ?」
「あ、その様子なら見てませんね!秋ちゃんはストレスが溜まると狭くて暗い所に入る習性があって……。だから、ひょっとしたらまだ部屋にいるのかもしれない!俺、ちょっと見てきます!!」
「あー、おい!ちょっと待て!俺も行く!!」
みーちゃんも付いてこようとしていたが、そのまま女子達と共に広間でのレクに参加してもらうことにした。そして、俺と松田は急いで秋ちゃんの居た部屋に向かった。
部屋に着くと誰もいない和室に、まだ手を付けていない夕食の膳が残されていた。
「桜木、マジで摩矢が押し入れに居ると思うのか?」
松田の疑問に答える間もなく、俺は押し入れに手を掛けた。
中には布団がびっしりと敷き詰まっていて、人など入る余地がない。
「お前……流石にこんな所には居ないだろう?」
松田が呆れたように言ったが、俺は構わず反対側の押し入れを開けてみた。
こちらにも布団が入っていたが、先程より詰まっている様子はない。しかも奥に少し空間があるようだ。
俺は目を凝らして奥を覗き込んだ。すると、布団と布団の僅かな隙間から秋ちゃんの銀髪が見えた。
「い、居た!!」
俺は急いで布団を掻き出し、奥で丸くなっている秋ちゃんの肩に触れた。背後では、「マジかよ?!」と驚く松田の声がする。
「秋ちゃん!」
呼び掛けても返事がない。
肩を揺すって抱き寄せてみると、秋ちゃんは穏やかな寝息を立てていた。
「寝てる……」
「は?!こんなところで!!」
俺は身を屈めて秋ちゃんを押し入れから引き摺り出した。すると、腹の前に置いていた秋ちゃんの手が角度を変えてハラリと落ち、握っていた薬の包装が床に落ちた。
「ん?何の薬だ?風邪薬??」
松田が落ちた包装を拾い、まじまじと見つめる。
「多分……睡眠薬だと思います」
「睡眠薬ぅ~!?」
「秋ちゃんは環境が変わると眠れない質なので……」
松田にそう説明をすると、松田は深い溜め息を付いた。
「そういえばこいつ……。新幹線の中で俺に触れられるのをすごく嫌がったよなあ」
松田が意味深な上目遣いをこちらに寄越した。
「それがなにか?」
「人に触られるのが駄目。人とのコミュニケーションを取るのも苦手。ストレスが溜まると狭い所に潜り込む。環境が変わると眠れないから睡眠薬が必要…………。桜木……。こいつ……発達障害の検査とか受けたことあるのか?」
「え?!いえ……そんな話しは一度も…………」
俺は秋ちゃんの肩をぎゅっと抱いた。
松田が深刻そうな顔をするもんだから、俺は少し不安になった。
「ひょっとしたら摩矢は……高機能自閉症じゃねぇかなあ……」
「な……なんですか……それ?」
「発達障害の一種だよ。知的に遅れはないが、普通の人とは違う世界感覚で生きているから、どうしてもストレスや緊張を強いられてしまうんだ。──って、俺が安易にそんな事を言ってはいけないな……。摩矢が本当にそうなのかはちゃんとした医療機関で検査してみないと分からないけど、俺も一応教師だ。色んな子を見ている。だから、そんな予感がするだけだ。……けど、あくまで俺個人の見解だから、──そんな顔すんなよ」
いつもの松田らしい軽い調子ではなく、妙に優しいトーンで言うもんだから、俺はますます不安になった。
「そ、その……障害って……人に……触れられるのが駄目なんですか?」
「ああ、通常の人よりストレスになるな。しかも、人だけじゃなく、この障害は感覚過敏もあって、肌触りとかもにも拘る傾向にある。……心当たりでもあるのか?」
「は、はい……。秋ちゃんは……下着や部屋着、布団の重さや枕の高さまで拘りがあります……」
「そうか……。まあ、でも、それだけで決まる診断でもないから、そんな心配するな」
松田が安心させるように、俺の頭をくしゃくしゃと撫で付けた。しかし、睡眠薬を飲んで、穏やかに眠る秋ちゃんを見ていると、俺の目からは次第に涙が溢れてきた。
ここに来る前。車の中で母さんが言った事を思い出す。
『秋人くんはみんなとは違う視点から世界を見ているのね』
そんな風に……俺は一度だって思った事はなかった。
俺は自分が心地良ければ、大抵の人は心地が良いと思っていたし、特に秋ちゃんは、いつも俺の側で笑ってくれるから、世界が違うなんてこと……思いもよらなかった。
俺って奴は、誰よりも知っているつもりで、ちっとも秋ちゃんの事を知らなかったんだ。
「兎も角、摩矢をどうしたものか……?」
松田の呟きに、俺は顔を上げた。
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