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桜木episode 1
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じわりと浮かんできた涙を俺は何とか堪えた。辛いのは俺なんかより、きっと秋ちゃんの方なのに……。
「秋ちゃん。……一つ、訊いていい?
やっぱり……学校を辞めたい、って言ったのは……俺が居るから?本当は……俺がウザくてどうしようもないから?……そういえば、俺が居なくなったら精々するって、言ってたもんね……」
あれは秋ちゃんなりの売り言葉に買い言葉で本心ではないと、勝手に思い込んでいた。けど、きっとそうじゃないんだ。
俺は秋ちゃんの銀髪から手を離した。
(もう……、秋ちゃんに二度と触れられない……。触れちゃいけないんだ……)
「ごめんね、秋ちゃん。……俺に触れられるのも、ずっとずっと嫌だった?」
思えばアロママッサージも、初めはすごい拒否られた。でも、日がな一日、刺繍をしている秋ちゃんが、首や肩を痛そうにしていたから、何かしてあげたくて、あれも俺が無理矢理始めたことだった。
「秋ちゃんの気持ちも考えず、嫌なことばっかりしちゃってごめんね。お風呂でのことも……本当にごめん……。こんな奴……友達でもなんでもないよね。俺は嫌われて当然だ……。だから、この修学旅行が終わったら、俺は秋ちゃんの前から消えるから、もう……纏わりついたりなんかしないから、今度こそ絶対に家にも行かないし、連絡先も削除する。俺の存在が鬱陶しいって言うのなら、学校も俺の方が辞めるよ。秋ちゃんが辞める必要はない。俺は……、秋ちゃんが幸せでいてくれれば、それだけでいいから……」
そう思いを固めた瞬間、突然、鼻っ柱を摘まれた。
「いてて!」
「ばーか」
手を離され、目を開けると、少し呆れ顔の秋ちゃんと目が合った。
「な、な、何するの?」
「お前……なに、一人で重く受け止めてんだよ?」
「だ、だって、いつも俺は秋ちゃんの嫌がる事ばかりしてるって言うから……」
「嫌がることばかりしているからって、俺はお前が嫌いとは言ってないぞ」
「でも……、普通は嫌がることをしてきたら、そいつのことが嫌いになるもんでしょ?」
「そうでもねぇよ」
「は?!」
俺はすっとんきょうな声を上げた。普通だったらどんなに好きな人でも、嫌なことばかりしてきたら嫌いになるもんじゃないのか? だから、世の中、別れ話や離婚が尽きない訳で……。なのに、秋ちゃんの世界ではその方程式が成り立たないらしい。
俺は秋ちゃんの顔をまじまじと見つめた。そんな事をしたって、秋ちゃんの内面の世界までは見えないと言うのに……すると、秋ちゃんの方が俺の疑問を察したのか、重々しく口を開いた。
「あのさ、他の奴がどうだか知らねぇけど、俺の場合は、全く初めての経験っていうのが全てにおいて嫌なだけなんだよ。一つのことに拘って集中している時が一番幸福でいられるっていうかさ。だから、お前に色々勧められ、色々なことを体験させられるのは、正直その集中を破壊されるから嫌なんだけど……」
「嫌なんだけど?」
「どういう訳か結果はいつも嫌じゃないんだ」
俺はきょとんとして秋ちゃんを見つめた。
「嫌な筈なのに、嫌じゃないの?」
再度問うと、秋ちゃんは頷いた。
「じゃあ、今日のお風呂でのことも?」
すると、秋ちゃんは一瞬だけ身を固め、躊躇いがちに頷いた。
俺はその様子を見て、溜め息を付いた。
「秋ちゃん。それは違うんじゃ……だって、秋ちゃん。あの時、泣いてたじゃん!」
指摘すると、秋ちゃんは真っ赤になって、布団の中に顔を埋めてしまった。
「秋ちゃん、無理しないで正直に言って。流石にあれは嫌だったんでしょ?」
「別に嫌じゃない!」
布団の山がそう答える。
が、布団に言われても何だか信じられない。
「顔も見せないで言われてもなぁ……。本当に嫌じゃなかったって言うのなら、ちゃんと顔を見せて、そう言ってくれる?」
すると、暫しの沈黙の後、モゾモゾと布団の端からひょこっと目だけが現れた。
しかし、秋ちゃん特有の暗い市松人形のような瞳で、こちらをじっと睨み付けてくるもんだから、流石の俺も怖くなって、「ごめん……。また無茶言い過ぎた……。こうやって俺はいつも秋ちゃんに無理強いをさせて嫌がられてるんだよな。だから、もういい。俺は消えるよ」と言って、身を起こそうとした途端、腕を掴まれ、俺は秋ちゃんの上に覆い被さる形で倒れこんでしまった。
「秋ちゃん。……一つ、訊いていい?
やっぱり……学校を辞めたい、って言ったのは……俺が居るから?本当は……俺がウザくてどうしようもないから?……そういえば、俺が居なくなったら精々するって、言ってたもんね……」
あれは秋ちゃんなりの売り言葉に買い言葉で本心ではないと、勝手に思い込んでいた。けど、きっとそうじゃないんだ。
俺は秋ちゃんの銀髪から手を離した。
(もう……、秋ちゃんに二度と触れられない……。触れちゃいけないんだ……)
「ごめんね、秋ちゃん。……俺に触れられるのも、ずっとずっと嫌だった?」
思えばアロママッサージも、初めはすごい拒否られた。でも、日がな一日、刺繍をしている秋ちゃんが、首や肩を痛そうにしていたから、何かしてあげたくて、あれも俺が無理矢理始めたことだった。
「秋ちゃんの気持ちも考えず、嫌なことばっかりしちゃってごめんね。お風呂でのことも……本当にごめん……。こんな奴……友達でもなんでもないよね。俺は嫌われて当然だ……。だから、この修学旅行が終わったら、俺は秋ちゃんの前から消えるから、もう……纏わりついたりなんかしないから、今度こそ絶対に家にも行かないし、連絡先も削除する。俺の存在が鬱陶しいって言うのなら、学校も俺の方が辞めるよ。秋ちゃんが辞める必要はない。俺は……、秋ちゃんが幸せでいてくれれば、それだけでいいから……」
そう思いを固めた瞬間、突然、鼻っ柱を摘まれた。
「いてて!」
「ばーか」
手を離され、目を開けると、少し呆れ顔の秋ちゃんと目が合った。
「な、な、何するの?」
「お前……なに、一人で重く受け止めてんだよ?」
「だ、だって、いつも俺は秋ちゃんの嫌がる事ばかりしてるって言うから……」
「嫌がることばかりしているからって、俺はお前が嫌いとは言ってないぞ」
「でも……、普通は嫌がることをしてきたら、そいつのことが嫌いになるもんでしょ?」
「そうでもねぇよ」
「は?!」
俺はすっとんきょうな声を上げた。普通だったらどんなに好きな人でも、嫌なことばかりしてきたら嫌いになるもんじゃないのか? だから、世の中、別れ話や離婚が尽きない訳で……。なのに、秋ちゃんの世界ではその方程式が成り立たないらしい。
俺は秋ちゃんの顔をまじまじと見つめた。そんな事をしたって、秋ちゃんの内面の世界までは見えないと言うのに……すると、秋ちゃんの方が俺の疑問を察したのか、重々しく口を開いた。
「あのさ、他の奴がどうだか知らねぇけど、俺の場合は、全く初めての経験っていうのが全てにおいて嫌なだけなんだよ。一つのことに拘って集中している時が一番幸福でいられるっていうかさ。だから、お前に色々勧められ、色々なことを体験させられるのは、正直その集中を破壊されるから嫌なんだけど……」
「嫌なんだけど?」
「どういう訳か結果はいつも嫌じゃないんだ」
俺はきょとんとして秋ちゃんを見つめた。
「嫌な筈なのに、嫌じゃないの?」
再度問うと、秋ちゃんは頷いた。
「じゃあ、今日のお風呂でのことも?」
すると、秋ちゃんは一瞬だけ身を固め、躊躇いがちに頷いた。
俺はその様子を見て、溜め息を付いた。
「秋ちゃん。それは違うんじゃ……だって、秋ちゃん。あの時、泣いてたじゃん!」
指摘すると、秋ちゃんは真っ赤になって、布団の中に顔を埋めてしまった。
「秋ちゃん、無理しないで正直に言って。流石にあれは嫌だったんでしょ?」
「別に嫌じゃない!」
布団の山がそう答える。
が、布団に言われても何だか信じられない。
「顔も見せないで言われてもなぁ……。本当に嫌じゃなかったって言うのなら、ちゃんと顔を見せて、そう言ってくれる?」
すると、暫しの沈黙の後、モゾモゾと布団の端からひょこっと目だけが現れた。
しかし、秋ちゃん特有の暗い市松人形のような瞳で、こちらをじっと睨み付けてくるもんだから、流石の俺も怖くなって、「ごめん……。また無茶言い過ぎた……。こうやって俺はいつも秋ちゃんに無理強いをさせて嫌がられてるんだよな。だから、もういい。俺は消えるよ」と言って、身を起こそうとした途端、腕を掴まれ、俺は秋ちゃんの上に覆い被さる形で倒れこんでしまった。
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