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桜木episode 1
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「ご、ごめん、秋ちゃん!大丈夫?」
俺は慌てて退こうとしたが、秋ちゃんの腕がそれを止めた。
「証拠──。見せてやろうか?」
「え?……」
「俺がお前を嫌がっていない証拠」
──あ!
俺の後頭部に回された腕が、俺を力強く引き寄せ、唇に柔らかな感触が伝わった。
──?!
これは……あの時と同じ。
まさかの、秋ちゃんからのキス──!!
ゾクリと手の平から、腰の辺りまで味わったことのない感覚が走ると、俺は秋ちゃんから身を離した。
「な、何を……?!」
心臓の鼓動がおかしい。あの月夜の晩と全く同じだ。キスなんて、今まで何回もしてきたし、されても来た。だけど……、秋ちゃんにされた時だけ、何かがおかしい。
「何って、証拠だよ。俺が、お前を嫌いでないって証拠だ。これで分かったろ?」
そう言われた瞬間、顔がぶわっと熱くなる。
嫌いではないという証拠がそれ?!
ならば……、
ひょっとして……、
ある予感が俺の中で膨らむと、全身が熱を帯びる。
つまり、秋ちゃんって……
「俺のこと……好きなの?」
そう訊ねると、今度は秋ちゃんの顔が赤くなった。
「馬鹿!!勘違いするな!!俺はそこまで言ってねぇ!!俺はただ、嫌いじゃねぇって言っただけだ!!普通だ!普通!!」
「あ、そうなんだ……」
猛烈に否定をされ、妙にガッカリする俺が居た。
だったらあの日のことも含めて、紛らわしい真似をしないで欲しい。そう思うと何だかイライラしてきた。
「あんな触れたかどうだか分からないような一瞬のキスなんか、証拠にならない。やっぱ、秋ちゃん。俺の事、嫌いでしょ?」
「──なっ?!」
「そうだ、嫌いなんだ。だから、こうして俺を悩ます事をする。だから、もういいよ。俺も秋ちゃんのこと、今日から嫌いになる!もう秋ちゃんなんか大っ嫌いだ!!だから、安心して」
不貞腐れたように俺が言うと、秋ちゃんは面を食らっていた。
「ちょっと待て!!俺は嫌いじゃねぇって、言ってんのに、証拠……だってしたのに、何でそうなるんだよ?!」
「だって、あんな罰ゲームで渋々ながら、さっと済ませたようなキス。証拠になんてならない!!もっとガッツリやってくれなきゃ、余計に傷付く!!」
何を言ってるんだ、俺は──!?自分でも頭の中がパニックで、整理が出来ない。
「ちょっと待て!何でお前はそんな事で不貞腐れてんだよ!!……まさかとは思うが、……ひょっとして、もっと俺とキスしたいって言うのか?」
秋ちゃんの問いに、俺は素直に頷いた。
「したい!秋ちゃんとなら、もっとたくさんしてみたい!俺の事を嫌いじゃないんだって、俺がちゃんと分かるまで、ずっとずっとしてて欲しい!!」
「あのなあ!!お前が分かるまでって、そんなの今度はこっちが分からねぇよ!!俺がお前を嫌いじゃねぇって言ったら、嫌いじゃねぇの!!いいからそう思っとけ!!この馬鹿!!」
「馬鹿は秋ちゃんの方だ!できないんなら、初めからするな!!」
胸の奥で灰色の渦のようなものがぐるぐる回っている。秋ちゃんが最初からキスなんてしてこなければ、俺の心はこんなに乱されなかったのに……それを今さら出来ないなんて、あんまりだ!
「秋ちゃんにお願いがある」
「な……なんだよ?」
俺は秋ちゃんの目を見つめた。そして、また身をのりだし、秋ちゃんの額に自分の額をくっ付けた。
「もうキスはできないって言うのなら、ただ一言。俺の事……好きだって、言って欲しい」
「──はあ?!ば、ば、馬鹿野郎!!俺がそんな事、言えるか!!」
「なんで?言うだけならキスなんかよりハードル低いでしょ?友達として、親友として好きだって言ってくれればいいんだから」
もう既に秋ちゃんの事を親友の好きとは違うと気付いてしまった癖に、それでも要求してしまう自分がひどく虚しい……。
「どう?友達としてなら別に言えるでしょ。そう言ってくれれば、俺の気はすむんだし、だめ?」
秋ちゃんは唇をぐっと噛み締めていた。口許が富士山の形になって、わなわなと震えている。そんなに言い難いことなのか?軽くひと言だけ、さらっと言ってくれればいいだけなのに──なんでそんな簡単な事すら言ってくれないんだ?
「それも嫌だって言うのなら、最後に俺の方からもう一回キスしてもいい?」
「ば、馬鹿!そ、そんなこと──」
──無理に決まってるだろ!と、言われる前に、俺は唇を重ねた。
秋ちゃんがなんと言おうと、俺は秋ちゃんの事が好きだ!この気持ちをもう抑えることなんて出来ない。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、重ねた唇を外そうと、秋ちゃんが下でもがいている。
「ちょ……待て……さくら……ぎ」
「無理!待てない!だって秋ちゃん、俺のする事、嫌じゃないって言ったよね?」
「い、言った……言った……けど、でも、やっぱお前とは無理だ──彼女がいる奴と、これ以上したくない!!」
秋ちゃんの叫びに、俺は体を硬直させた。見ると秋ちゃんの見尻にはうっすらと涙の粒が膨らんでいた。
「俺は……俺だけを見てくれる奴じゃないと無理!好きになんてなれない!!だから、これ以上……お前とは出来ない!!お願いだから、俺にもう……触れたりしないでくれ!頼むから……俺の事はもうほっといてくれ!!」
涙を浮かべながらひどく切ない声で訴えられ、俺はその場で硬直したまま動けなくなった。
その間に秋ちゃんは俺から離れ、布団を被り、背を向けてしまった。
布団の中で丸くなって震える背を、俺は抱き締めてやりたい衝動にかられたが、今の俺がそれをやったところで、秋ちゃんを癒すことなんて出来ないんだと悟った。
俺は慌てて退こうとしたが、秋ちゃんの腕がそれを止めた。
「証拠──。見せてやろうか?」
「え?……」
「俺がお前を嫌がっていない証拠」
──あ!
俺の後頭部に回された腕が、俺を力強く引き寄せ、唇に柔らかな感触が伝わった。
──?!
これは……あの時と同じ。
まさかの、秋ちゃんからのキス──!!
ゾクリと手の平から、腰の辺りまで味わったことのない感覚が走ると、俺は秋ちゃんから身を離した。
「な、何を……?!」
心臓の鼓動がおかしい。あの月夜の晩と全く同じだ。キスなんて、今まで何回もしてきたし、されても来た。だけど……、秋ちゃんにされた時だけ、何かがおかしい。
「何って、証拠だよ。俺が、お前を嫌いでないって証拠だ。これで分かったろ?」
そう言われた瞬間、顔がぶわっと熱くなる。
嫌いではないという証拠がそれ?!
ならば……、
ひょっとして……、
ある予感が俺の中で膨らむと、全身が熱を帯びる。
つまり、秋ちゃんって……
「俺のこと……好きなの?」
そう訊ねると、今度は秋ちゃんの顔が赤くなった。
「馬鹿!!勘違いするな!!俺はそこまで言ってねぇ!!俺はただ、嫌いじゃねぇって言っただけだ!!普通だ!普通!!」
「あ、そうなんだ……」
猛烈に否定をされ、妙にガッカリする俺が居た。
だったらあの日のことも含めて、紛らわしい真似をしないで欲しい。そう思うと何だかイライラしてきた。
「あんな触れたかどうだか分からないような一瞬のキスなんか、証拠にならない。やっぱ、秋ちゃん。俺の事、嫌いでしょ?」
「──なっ?!」
「そうだ、嫌いなんだ。だから、こうして俺を悩ます事をする。だから、もういいよ。俺も秋ちゃんのこと、今日から嫌いになる!もう秋ちゃんなんか大っ嫌いだ!!だから、安心して」
不貞腐れたように俺が言うと、秋ちゃんは面を食らっていた。
「ちょっと待て!!俺は嫌いじゃねぇって、言ってんのに、証拠……だってしたのに、何でそうなるんだよ?!」
「だって、あんな罰ゲームで渋々ながら、さっと済ませたようなキス。証拠になんてならない!!もっとガッツリやってくれなきゃ、余計に傷付く!!」
何を言ってるんだ、俺は──!?自分でも頭の中がパニックで、整理が出来ない。
「ちょっと待て!何でお前はそんな事で不貞腐れてんだよ!!……まさかとは思うが、……ひょっとして、もっと俺とキスしたいって言うのか?」
秋ちゃんの問いに、俺は素直に頷いた。
「したい!秋ちゃんとなら、もっとたくさんしてみたい!俺の事を嫌いじゃないんだって、俺がちゃんと分かるまで、ずっとずっとしてて欲しい!!」
「あのなあ!!お前が分かるまでって、そんなの今度はこっちが分からねぇよ!!俺がお前を嫌いじゃねぇって言ったら、嫌いじゃねぇの!!いいからそう思っとけ!!この馬鹿!!」
「馬鹿は秋ちゃんの方だ!できないんなら、初めからするな!!」
胸の奥で灰色の渦のようなものがぐるぐる回っている。秋ちゃんが最初からキスなんてしてこなければ、俺の心はこんなに乱されなかったのに……それを今さら出来ないなんて、あんまりだ!
「秋ちゃんにお願いがある」
「な……なんだよ?」
俺は秋ちゃんの目を見つめた。そして、また身をのりだし、秋ちゃんの額に自分の額をくっ付けた。
「もうキスはできないって言うのなら、ただ一言。俺の事……好きだって、言って欲しい」
「──はあ?!ば、ば、馬鹿野郎!!俺がそんな事、言えるか!!」
「なんで?言うだけならキスなんかよりハードル低いでしょ?友達として、親友として好きだって言ってくれればいいんだから」
もう既に秋ちゃんの事を親友の好きとは違うと気付いてしまった癖に、それでも要求してしまう自分がひどく虚しい……。
「どう?友達としてなら別に言えるでしょ。そう言ってくれれば、俺の気はすむんだし、だめ?」
秋ちゃんは唇をぐっと噛み締めていた。口許が富士山の形になって、わなわなと震えている。そんなに言い難いことなのか?軽くひと言だけ、さらっと言ってくれればいいだけなのに──なんでそんな簡単な事すら言ってくれないんだ?
「それも嫌だって言うのなら、最後に俺の方からもう一回キスしてもいい?」
「ば、馬鹿!そ、そんなこと──」
──無理に決まってるだろ!と、言われる前に、俺は唇を重ねた。
秋ちゃんがなんと言おうと、俺は秋ちゃんの事が好きだ!この気持ちをもう抑えることなんて出来ない。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、重ねた唇を外そうと、秋ちゃんが下でもがいている。
「ちょ……待て……さくら……ぎ」
「無理!待てない!だって秋ちゃん、俺のする事、嫌じゃないって言ったよね?」
「い、言った……言った……けど、でも、やっぱお前とは無理だ──彼女がいる奴と、これ以上したくない!!」
秋ちゃんの叫びに、俺は体を硬直させた。見ると秋ちゃんの見尻にはうっすらと涙の粒が膨らんでいた。
「俺は……俺だけを見てくれる奴じゃないと無理!好きになんてなれない!!だから、これ以上……お前とは出来ない!!お願いだから、俺にもう……触れたりしないでくれ!頼むから……俺の事はもうほっといてくれ!!」
涙を浮かべながらひどく切ない声で訴えられ、俺はその場で硬直したまま動けなくなった。
その間に秋ちゃんは俺から離れ、布団を被り、背を向けてしまった。
布団の中で丸くなって震える背を、俺は抱き締めてやりたい衝動にかられたが、今の俺がそれをやったところで、秋ちゃんを癒すことなんて出来ないんだと悟った。
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