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桜木episode 1
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──翌朝。
俺は彼女と別れる決意をした。
昨夜の秋ちゃんの言葉。
『俺だけを見てくれる奴じゃないと無理!』
その言葉がずっと頭の中を占領し、昨夜はあまり眠れなかった。
だったら俺が『秋ちゃんだけを好きだ!』と言ったら、秋ちゃんは俺を受け入れてくれるのか?付き合ってくれるのか?
そう思うと、俺はいてもたってもいられなくなり、危うく深夜なのにも関わらず、スマホを取り出し、彼女に別れのメッセージを送ろうとした。しかし、今まで何度も理由も分からず別れを告げられた経験がある身としては、流石に誠実さに欠けると思い、慌てて手を止めた。
明日の朝になったら、ちゃんと顔を合わせて伝えよう。
そんな事を思いながら、ずっと頭の中でその時の事をシュミレーションしていたら、いつの間にか朝になっていた。
俺は寝不足で腫れた目を擦りながら、気まずい雰囲気の秋ちゃんを連れ、食堂まで行き、担任の松田にバトンタッチして、直ぐさま女子のいる東棟へ向かった。
「あ、桜木くんだ。おはよう」
前方から声をかけてくれたのは、彼女の友達のミキちゃんだった。
「ああ、おはよ。木下は?」
「今、三咲ちゃんの髪の毛を結ってるところだから、もう少ししたら来ると思うよ。呼んで来ようか?」
「あ、いやいいよ。だったら、ここで待ってる。ありがとう」
「分かった。じゃあ私は先に食堂に言ってるね。桜木くんの席も取っとこうか?」
「ああ、よろしく頼む」
はーい。と言ってミキちゃんは食堂に向かい、俺は彼女のいる部屋の前で、壁に凭れて彼女を待った。
やがて、ドアの反対側から話し声が聞こえると、ドアが開き木下が出てきた。
「うわっ!桜木くん!!何、どうしたの?」
「ちょっと話があってさ。朝食を早めに済ませて、少しだけ時間を貰える?」
そう言うと、木下は嬉しそうに「もちろん!」と言った。
その明るい笑顔に少し胸が痛んだ。
秋ちゃんの言う通り、こんなことならもう少し付き合う前に、ちゃんと考えて返事をすれば良かった。今更後悔しても遅いけど……。
きっと俺が感じる木下に対する「好き」と、木下が俺の事を想う「好き」は全然違っている。勿論、最初から双方が同じ比重で相手を好きになるなんて思っていない。そういうのは付き合ってから変化していけばいいことで、俺はそれが出来ると自分では思っていた。
でも、今は頭の中が秋ちゃんの泣き顔でいっぱいになっている。
今だって、松田に秋ちゃんを任せてしまったのが不本意でたまらない。身体は今すぐ回れ右をして、秋ちゃんの元に行きたがっている。
俺はきっと最初から秋ちゃんの事が好きだったんだ。でも、側に居るのが当たり前過ぎて、俺は自分の中でどれほど秋ちゃんの存在が大きかったのか、全然気付いていなかった。
食堂に着くと、既に秋ちゃんは松田ら教師陣に囲まれて食事を取っていた。利き手の使えない秋ちゃんは左手にレンゲを持って不器用に味噌汁を飲んでいる。時折、隣の松田が秋ちゃんの御膳に乗った鯵の開きを解して口許まで運んだ。その姿に少しだけ胸がチクリと痛んだが、秋ちゃんは冷たくそっぽを向いた。その姿に俺はホッとしながらも、松田が「可愛くねぇなあ!」と言わんばかりに口を尖らせ、秋ちゃんの頭をぐしゃぐしゃと撫で回す姿に腹を立てた。
そんな様子を遠目で眺めながら、俺は、気安く秋ちゃんに触るな!、と松田に毒づき、木下らと席に付いた。
「桜木くん、今日のお昼も出来たら一緒に食べよう!」
明るく嬉しそうに言う木下を見て、俺は思うように答えられなかった。ただ、頬を引き吊らせて、うーん、と考え込む振りをした。
「なんで?また摩矢くんのお世話でも頼まれてるの?桜木くん、人が良すぎ。嫌なら嫌って断ればいいと思うよ。摩矢くんとは別にそんなに仲良くはなかったでしょ?」
木下にそんな風に言われて、俺は悲しくなった。
なんで俺と秋ちゃんが、『仲良くない』なんて、言われなきゃならない?
木下に会う、ずっとずっと前から、俺と秋ちゃんはこっそりとだけど、仲良く過ごしてきた。
それなのに、誰にもそれを知られていないなんて……。
「仲良いよ。俺と摩矢はずっと前から、本当は仲が良いんだ」
俺と秋ちゃんの歴史を知らない奴が、俺と秋ちゃんの関係を勝手に決めつけないで欲しい。
そんな想いが俺の口調をきつくさせ、表情も険しくさせた。
木下や周りの人間が気まずそうに顔を見合せ、「そ、そうなんだ……」と、低く答える。
「じゃあ……お昼は一緒に食べられないんだ。折角、付き合ってるのに、私たち……。あんまり一緒にいられないね」
悲しそうに呟く木下に、俺は胸を痛めた。
「ごめん。……だから、今からちょっと二人だけで話がしたいんだけど、いい?」
そう言うと周囲の女友達が、きゃー!と悲鳴を上げた。そして、次々に木下を肘で小突き、やった!やった!と囁いていく。すると、木下は頬を染めながら下を向いて可愛いらしく、「うん」と頷いた。
どうやら彼女らは、大いなる勘違いをしたらしい。
俺は額に手をやり、深いため息をついた。
この状態からどうやって別れ話を切り出す?
指の隙間から秋ちゃんの姿を眺める。
ここをなんとかして突破しないと、俺は秋ちゃんに向かえない。向かう資格がない。
だから、心を鬼にしなければならない。
しかし、それは確実に彼女を傷付ける。
俺はふと、以前、友人から誘われ、登録した創作サイトで見付けた、銀狼という人の詩を思い出した。
俺は彼女と別れる決意をした。
昨夜の秋ちゃんの言葉。
『俺だけを見てくれる奴じゃないと無理!』
その言葉がずっと頭の中を占領し、昨夜はあまり眠れなかった。
だったら俺が『秋ちゃんだけを好きだ!』と言ったら、秋ちゃんは俺を受け入れてくれるのか?付き合ってくれるのか?
そう思うと、俺はいてもたってもいられなくなり、危うく深夜なのにも関わらず、スマホを取り出し、彼女に別れのメッセージを送ろうとした。しかし、今まで何度も理由も分からず別れを告げられた経験がある身としては、流石に誠実さに欠けると思い、慌てて手を止めた。
明日の朝になったら、ちゃんと顔を合わせて伝えよう。
そんな事を思いながら、ずっと頭の中でその時の事をシュミレーションしていたら、いつの間にか朝になっていた。
俺は寝不足で腫れた目を擦りながら、気まずい雰囲気の秋ちゃんを連れ、食堂まで行き、担任の松田にバトンタッチして、直ぐさま女子のいる東棟へ向かった。
「あ、桜木くんだ。おはよう」
前方から声をかけてくれたのは、彼女の友達のミキちゃんだった。
「ああ、おはよ。木下は?」
「今、三咲ちゃんの髪の毛を結ってるところだから、もう少ししたら来ると思うよ。呼んで来ようか?」
「あ、いやいいよ。だったら、ここで待ってる。ありがとう」
「分かった。じゃあ私は先に食堂に言ってるね。桜木くんの席も取っとこうか?」
「ああ、よろしく頼む」
はーい。と言ってミキちゃんは食堂に向かい、俺は彼女のいる部屋の前で、壁に凭れて彼女を待った。
やがて、ドアの反対側から話し声が聞こえると、ドアが開き木下が出てきた。
「うわっ!桜木くん!!何、どうしたの?」
「ちょっと話があってさ。朝食を早めに済ませて、少しだけ時間を貰える?」
そう言うと、木下は嬉しそうに「もちろん!」と言った。
その明るい笑顔に少し胸が痛んだ。
秋ちゃんの言う通り、こんなことならもう少し付き合う前に、ちゃんと考えて返事をすれば良かった。今更後悔しても遅いけど……。
きっと俺が感じる木下に対する「好き」と、木下が俺の事を想う「好き」は全然違っている。勿論、最初から双方が同じ比重で相手を好きになるなんて思っていない。そういうのは付き合ってから変化していけばいいことで、俺はそれが出来ると自分では思っていた。
でも、今は頭の中が秋ちゃんの泣き顔でいっぱいになっている。
今だって、松田に秋ちゃんを任せてしまったのが不本意でたまらない。身体は今すぐ回れ右をして、秋ちゃんの元に行きたがっている。
俺はきっと最初から秋ちゃんの事が好きだったんだ。でも、側に居るのが当たり前過ぎて、俺は自分の中でどれほど秋ちゃんの存在が大きかったのか、全然気付いていなかった。
食堂に着くと、既に秋ちゃんは松田ら教師陣に囲まれて食事を取っていた。利き手の使えない秋ちゃんは左手にレンゲを持って不器用に味噌汁を飲んでいる。時折、隣の松田が秋ちゃんの御膳に乗った鯵の開きを解して口許まで運んだ。その姿に少しだけ胸がチクリと痛んだが、秋ちゃんは冷たくそっぽを向いた。その姿に俺はホッとしながらも、松田が「可愛くねぇなあ!」と言わんばかりに口を尖らせ、秋ちゃんの頭をぐしゃぐしゃと撫で回す姿に腹を立てた。
そんな様子を遠目で眺めながら、俺は、気安く秋ちゃんに触るな!、と松田に毒づき、木下らと席に付いた。
「桜木くん、今日のお昼も出来たら一緒に食べよう!」
明るく嬉しそうに言う木下を見て、俺は思うように答えられなかった。ただ、頬を引き吊らせて、うーん、と考え込む振りをした。
「なんで?また摩矢くんのお世話でも頼まれてるの?桜木くん、人が良すぎ。嫌なら嫌って断ればいいと思うよ。摩矢くんとは別にそんなに仲良くはなかったでしょ?」
木下にそんな風に言われて、俺は悲しくなった。
なんで俺と秋ちゃんが、『仲良くない』なんて、言われなきゃならない?
木下に会う、ずっとずっと前から、俺と秋ちゃんはこっそりとだけど、仲良く過ごしてきた。
それなのに、誰にもそれを知られていないなんて……。
「仲良いよ。俺と摩矢はずっと前から、本当は仲が良いんだ」
俺と秋ちゃんの歴史を知らない奴が、俺と秋ちゃんの関係を勝手に決めつけないで欲しい。
そんな想いが俺の口調をきつくさせ、表情も険しくさせた。
木下や周りの人間が気まずそうに顔を見合せ、「そ、そうなんだ……」と、低く答える。
「じゃあ……お昼は一緒に食べられないんだ。折角、付き合ってるのに、私たち……。あんまり一緒にいられないね」
悲しそうに呟く木下に、俺は胸を痛めた。
「ごめん。……だから、今からちょっと二人だけで話がしたいんだけど、いい?」
そう言うと周囲の女友達が、きゃー!と悲鳴を上げた。そして、次々に木下を肘で小突き、やった!やった!と囁いていく。すると、木下は頬を染めながら下を向いて可愛いらしく、「うん」と頷いた。
どうやら彼女らは、大いなる勘違いをしたらしい。
俺は額に手をやり、深いため息をついた。
この状態からどうやって別れ話を切り出す?
指の隙間から秋ちゃんの姿を眺める。
ここをなんとかして突破しないと、俺は秋ちゃんに向かえない。向かう資格がない。
だから、心を鬼にしなければならない。
しかし、それは確実に彼女を傷付ける。
俺はふと、以前、友人から誘われ、登録した創作サイトで見付けた、銀狼という人の詩を思い出した。
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