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摩矢episode 6
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「ま、待て!桜木!!お前がそんな怒るような事は何もないぞ!!」
俺が訴えても獣化した桜木には何の効力もなかった。桜木はずんずんと俺達に近づき、松田を掴むと、腕力で起き上がらせ、いきなり頭突きをかました。
ゴツン!と鈍い音と共に、松田の「痛ぇ!」と言う声が上がる。
「落ち着け!桜木!!」
俺は叫んだが、一向に桜木は俺の声に耳を傾けない。
「秋ちゃんは黙ってて!!」
桜木は俺の方を見ずに叫んだ。
頭突きを受けた松田は畳に膝をついたままだったが、俺をチラリと見て、余裕の表情を浮かべた。
「安心しろ、摩矢!!俺が高校生の餓鬼にやられる訳がねぇ!格が違うってことを思い知らせてやる!さあ、来い!桜木!!今のお前に、言葉は通用しねぇよなぁ!」
松田は立ち上がると、余裕の構えで桜木を挑発した。そして、その態度が更に桜木を刺激したらしい。眉間に皺を寄せた表情は、瞳孔が完全に開いて、人間らしい感情がない。
──こ、こいつはやばいっ!!!
「ま、待て!!桜木っ!!」
俺は間に立ち塞がって止めようとしたが、桜木はその横を難なくすり抜け、松田に拳を奮った。
「うお!」と言って、松田は寸前でそれをかわす。
「さ、桜木……、おま……スピード、やばくねぇ?……格闘技……素人の筈だよなあ……?」
松田が驚きの表情で確認する。桜木はそれを無視してまた踏み込んだ。二人の拳が何度か空を切る。重量級の二人の殴り合いに、怪我をしている俺には為す術もない。
防戦一方だった松田の背が、障子にぶつかった。桜木はそこへ、間髪入れずに拳を叩きつける。が、寸での所で松田が避けて、障子が2枚、憐れなほどに崩れ去った。
──おいおい……。このホテルの部屋、どうする気だよ?
続けて桜木は松田の股間に向けて前蹴りを駆使する。しかし、松田はその足を掴んで、桜木のバランスを崩した。そして、そのまま床に引き倒す。
「はははは!馬鹿め!寝技に持ち込んだら、もうお前の勝ち目はない!ドレイシー柔術15年の俺の技を、とくと味わえ!」
松田は素早く桜木の首に腕を巻き、チョークの体勢に入った。苦しそうに桜木が足をバタつかせる。
「二人とも!!もう止めろ!!」
俺が悲痛な叫びで懇願すると、松田は軽く「分かってる、分かってる」と返した。でも、一向に腕を緩める気はない。
──どこが分かっているというのか?
俺が心配そうに見つめる中、松田は桜木にチョークを決めたまま立ち上がると「桜木!お前はこのままちょっと表に来い!」と言って、桜木を引き摺り出した。そして、俺には気持ちの悪い程の甘い声で「秋ちゃんは心配しないで、ちゃんと寝んねしてるんだぞ~。いい子だからねぇ~」と言って、桜木を連れ、部屋を出ていった。
この状況……。
ちゃんと寝てろと言われたって、そんな事、出来る筈がない。
俺は痛む足を庇いながら、彼らの後を追った。
俺が外に続く鉄のドアに辿り着くと、その向こう側で、二人の話し声が聞こえた。
二人は俺の監視の手前、遠くに行くつもりはないらしい。
俺は一先ずドアに張り付いて、二人の会話に耳を傾けた。
「いや~、参った、参った。桜木が摩矢のことを、こんな大事に想ってるなんて知らなかったわぁ。でも、ちょっと常軌を逸してるぞ。そんなに秋ちゃんの事が好き?」
「好き 大好き」
松田の質問に、桜木は直球で答えた。
「だから、あんたはもう秋ちゃんに触らないでもらえます?」
「ん~、でもなぁ~。それは摩矢の気持ちによるんじゃない? 俺も長いこと誤解してたけど、摩矢って、餓鬼の頃、あんま大人に甘えられなかったんだって? 『可愛くないって、ずっと言われてきたんですぅ。だから、俺が可愛いわけないっ!』なんて、いじけたように目を伏せて言うんだもん!あれはめっちゃ可愛かったわぁ!!なんであれが今まで可愛くないって言われてきちゃったんだろうなぁ。だから、俺はつい「可愛いv」って連発してやっちゃった。そしたら、布団を被って中で、ピーピー泣いてんだよ!あの摩矢がだよぉ?!!それがまた滅っ茶苦っ茶、可愛い顔で泣いてて、思わず、ぎゅうって抱き締めてやったら、安心して俺の腕の中で眠ってさあ。その寝顔のまたキュートなことっ!キュートなことっ!!そもそもよく見たら、あいつって、実は綺麗な顔立ちしてるんだよなあ。鋭い目付きも、目を閉じりゃあ、あどけない寝顔で、すーすー俺の腕枕で、無防備に寝てるんだから、びっくりだろ?!あの氷の大魔王みたいな奴が、俺の胸の中で、丸っきり子供に返ったんだ!だから、桜木!!安心しろ!摩矢は俺の大人の魅力、アーンド、包容力で癒してやるから、お前は幼馴染みの事なんか忘れて、彼女とずっといちゃこらやっててもいいぞ!摩矢は俺に任せとけ!!」
次の瞬間、ダーン!!と鉄のドアを叩く音が響き渡った。
その爆音で俺の耳はジンジンする。
「あんた自分が教師だってこと、忘れんなよっ!!!!」
桜木の怒号が廊下に響き渡る。
「いいかっ!!それ以上秋ちゃんに妙な真似をしてみろ!!犯罪だからなっ!!そん時は俺があんたを訴えて、必ずや地獄に叩き落としてやる!覚悟しておけっ!!!!」
しん……と辺りが静まり返った。
「……はは、……今日は何だかすげえ1日だなあ。摩矢のあり得ない一面を見れたかと思ったら、今度は桜木か……。しかも、こっちの方は、鳥肌が立つほど恐ろしいわ……。お前にも、そんな、おっかねぇ面があったんだなぁ……」
「話をはぐらかすなよ!あんた、秋ちゃんに一体何をした? 絶対、腕枕以外、何かしただろ? 可愛い寝顔を見ながら、どこに触れた? 尻か? 股間か? 胸か? それとも唇を奪ったか? ──正直に言えっ!!このセクハラ教師っ!!!!」
──ダン!と、また桜木がドアをぶっ叩いた。
「ば、馬鹿だなぁ。いくら可愛く見えたって、俺は教師だ。生徒に対して、人に言えない妙な真似をする訳ないだろぉ。俺だって職は失いたくはねぇよ」
「でも……誰も居ない密室だった。そして、相手は眠ってた」
「そうだけどさぁ。相手は男子生徒だ。腕枕で寝かしてやる以外、本当に何もしてないさぁ」
「いや、してる!」
桜木は断言した。
「は!何で見てもいないのにそう思う?」
「俺の勘。だって、あんた得意気に話している間、いやらしく鼻の下伸ばしていた!今日は大した事してなくても、明日は何をするか分からねえ!そういう面してた!!」
「ばっか馬鹿しい!!そんな事で人を犯罪者にするなっ!」
「でも、必ずあんたは秋ちゃんに何かしてる筈。俺には解るんだよ。秋ちゃんの様子で……、さっき、あり得ない程、秋ちゃんは混乱してたっ!!」
桜木の低くて苦しげな声が辺りに響き渡った。
俺が訴えても獣化した桜木には何の効力もなかった。桜木はずんずんと俺達に近づき、松田を掴むと、腕力で起き上がらせ、いきなり頭突きをかました。
ゴツン!と鈍い音と共に、松田の「痛ぇ!」と言う声が上がる。
「落ち着け!桜木!!」
俺は叫んだが、一向に桜木は俺の声に耳を傾けない。
「秋ちゃんは黙ってて!!」
桜木は俺の方を見ずに叫んだ。
頭突きを受けた松田は畳に膝をついたままだったが、俺をチラリと見て、余裕の表情を浮かべた。
「安心しろ、摩矢!!俺が高校生の餓鬼にやられる訳がねぇ!格が違うってことを思い知らせてやる!さあ、来い!桜木!!今のお前に、言葉は通用しねぇよなぁ!」
松田は立ち上がると、余裕の構えで桜木を挑発した。そして、その態度が更に桜木を刺激したらしい。眉間に皺を寄せた表情は、瞳孔が完全に開いて、人間らしい感情がない。
──こ、こいつはやばいっ!!!
「ま、待て!!桜木っ!!」
俺は間に立ち塞がって止めようとしたが、桜木はその横を難なくすり抜け、松田に拳を奮った。
「うお!」と言って、松田は寸前でそれをかわす。
「さ、桜木……、おま……スピード、やばくねぇ?……格闘技……素人の筈だよなあ……?」
松田が驚きの表情で確認する。桜木はそれを無視してまた踏み込んだ。二人の拳が何度か空を切る。重量級の二人の殴り合いに、怪我をしている俺には為す術もない。
防戦一方だった松田の背が、障子にぶつかった。桜木はそこへ、間髪入れずに拳を叩きつける。が、寸での所で松田が避けて、障子が2枚、憐れなほどに崩れ去った。
──おいおい……。このホテルの部屋、どうする気だよ?
続けて桜木は松田の股間に向けて前蹴りを駆使する。しかし、松田はその足を掴んで、桜木のバランスを崩した。そして、そのまま床に引き倒す。
「はははは!馬鹿め!寝技に持ち込んだら、もうお前の勝ち目はない!ドレイシー柔術15年の俺の技を、とくと味わえ!」
松田は素早く桜木の首に腕を巻き、チョークの体勢に入った。苦しそうに桜木が足をバタつかせる。
「二人とも!!もう止めろ!!」
俺が悲痛な叫びで懇願すると、松田は軽く「分かってる、分かってる」と返した。でも、一向に腕を緩める気はない。
──どこが分かっているというのか?
俺が心配そうに見つめる中、松田は桜木にチョークを決めたまま立ち上がると「桜木!お前はこのままちょっと表に来い!」と言って、桜木を引き摺り出した。そして、俺には気持ちの悪い程の甘い声で「秋ちゃんは心配しないで、ちゃんと寝んねしてるんだぞ~。いい子だからねぇ~」と言って、桜木を連れ、部屋を出ていった。
この状況……。
ちゃんと寝てろと言われたって、そんな事、出来る筈がない。
俺は痛む足を庇いながら、彼らの後を追った。
俺が外に続く鉄のドアに辿り着くと、その向こう側で、二人の話し声が聞こえた。
二人は俺の監視の手前、遠くに行くつもりはないらしい。
俺は一先ずドアに張り付いて、二人の会話に耳を傾けた。
「いや~、参った、参った。桜木が摩矢のことを、こんな大事に想ってるなんて知らなかったわぁ。でも、ちょっと常軌を逸してるぞ。そんなに秋ちゃんの事が好き?」
「好き 大好き」
松田の質問に、桜木は直球で答えた。
「だから、あんたはもう秋ちゃんに触らないでもらえます?」
「ん~、でもなぁ~。それは摩矢の気持ちによるんじゃない? 俺も長いこと誤解してたけど、摩矢って、餓鬼の頃、あんま大人に甘えられなかったんだって? 『可愛くないって、ずっと言われてきたんですぅ。だから、俺が可愛いわけないっ!』なんて、いじけたように目を伏せて言うんだもん!あれはめっちゃ可愛かったわぁ!!なんであれが今まで可愛くないって言われてきちゃったんだろうなぁ。だから、俺はつい「可愛いv」って連発してやっちゃった。そしたら、布団を被って中で、ピーピー泣いてんだよ!あの摩矢がだよぉ?!!それがまた滅っ茶苦っ茶、可愛い顔で泣いてて、思わず、ぎゅうって抱き締めてやったら、安心して俺の腕の中で眠ってさあ。その寝顔のまたキュートなことっ!キュートなことっ!!そもそもよく見たら、あいつって、実は綺麗な顔立ちしてるんだよなあ。鋭い目付きも、目を閉じりゃあ、あどけない寝顔で、すーすー俺の腕枕で、無防備に寝てるんだから、びっくりだろ?!あの氷の大魔王みたいな奴が、俺の胸の中で、丸っきり子供に返ったんだ!だから、桜木!!安心しろ!摩矢は俺の大人の魅力、アーンド、包容力で癒してやるから、お前は幼馴染みの事なんか忘れて、彼女とずっといちゃこらやっててもいいぞ!摩矢は俺に任せとけ!!」
次の瞬間、ダーン!!と鉄のドアを叩く音が響き渡った。
その爆音で俺の耳はジンジンする。
「あんた自分が教師だってこと、忘れんなよっ!!!!」
桜木の怒号が廊下に響き渡る。
「いいかっ!!それ以上秋ちゃんに妙な真似をしてみろ!!犯罪だからなっ!!そん時は俺があんたを訴えて、必ずや地獄に叩き落としてやる!覚悟しておけっ!!!!」
しん……と辺りが静まり返った。
「……はは、……今日は何だかすげえ1日だなあ。摩矢のあり得ない一面を見れたかと思ったら、今度は桜木か……。しかも、こっちの方は、鳥肌が立つほど恐ろしいわ……。お前にも、そんな、おっかねぇ面があったんだなぁ……」
「話をはぐらかすなよ!あんた、秋ちゃんに一体何をした? 絶対、腕枕以外、何かしただろ? 可愛い寝顔を見ながら、どこに触れた? 尻か? 股間か? 胸か? それとも唇を奪ったか? ──正直に言えっ!!このセクハラ教師っ!!!!」
──ダン!と、また桜木がドアをぶっ叩いた。
「ば、馬鹿だなぁ。いくら可愛く見えたって、俺は教師だ。生徒に対して、人に言えない妙な真似をする訳ないだろぉ。俺だって職は失いたくはねぇよ」
「でも……誰も居ない密室だった。そして、相手は眠ってた」
「そうだけどさぁ。相手は男子生徒だ。腕枕で寝かしてやる以外、本当に何もしてないさぁ」
「いや、してる!」
桜木は断言した。
「は!何で見てもいないのにそう思う?」
「俺の勘。だって、あんた得意気に話している間、いやらしく鼻の下伸ばしていた!今日は大した事してなくても、明日は何をするか分からねえ!そういう面してた!!」
「ばっか馬鹿しい!!そんな事で人を犯罪者にするなっ!」
「でも、必ずあんたは秋ちゃんに何かしてる筈。俺には解るんだよ。秋ちゃんの様子で……、さっき、あり得ない程、秋ちゃんは混乱してたっ!!」
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