どこまでも近くて遠い君

蓮華空

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摩矢episode 6

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 俺は思わず嗚咽を洩らした。

 俺が今まで投稿してきた詩は、桜木に対する酸いも甘いも織り交ざった、どうしようもない想いだった。

 謂わばそれを吐き出すための、ごみ溜めに過ぎなかった筈の場所なのに、そこから桜木が俺に対する気持ちに気付いてくれたなんて……!!

 俺は何よりもそれが嬉しくて堪らなかった。

 毎度、毎度、血を吐く思いで書き綴った詩。桜木に彼女が出来る度、涙を溢さない日は無かった。

 あの苦い日々を思い出すと、俺はそれだけでまた涙が溢れる。

 そして、俺は布団の中で、声を押し殺して泣いた。




「摩矢?どうしたんだ?お前……震えているみたいだけど、大丈夫か?」

 ……いけね、松田が近くに居たんだった。

「だ……スン……大丈夫です……スンスン!」

 答えながら所々つい鼻を啜ってしまった。すると、「ちょっとお前、顔を見せろ!大丈夫と言われても、なんかもう信じられん!」と、今度は布団の中に手を突っ込んできた。

「いや、マジで……大丈夫だから、触るなって!」

 もぞもそもと、俺は松田の手から逃げようと試みた。が、松田の腕力は俺より遥かに強く、俺は頭をがっちり捕らえられてしまった。

「いいから、取り敢えず俺に顔を見せろ!本当に大丈夫か、俺が自分で確認する!」

 松田の馬鹿力で、俺は遂に布団から引き摺り出された。

「──!?」

 そして、松田は俺の顔を見るなり、驚いた顔をして動きを止めた。

「何だお前……泣いてたのかよ……」

「う、うるせぇ……恥ずかしいから、見るなよ……」

 俺は堪らず、目を逸らせる。それがまた松田の目にどう映ったのか分からないが、次の瞬間、勢いよく引き寄せられ、またがっちりとホールドされた。

「そっか!分かった!!やっぱりお前、愛情に餓えてたんだなあ!!急に俺から優しくされて、思わず泣いちゃうくらいにっ!だったら俺が目一杯可愛がってやるっ!!」

「いや、違う……それ、激しく誤解してるから!!いいから、離せって!!」

「いいんだ。いいんだ。もう照れることはない!俺が存分に可愛がってやるから、安心しろっ!」

 そう言って、抱き締めながら俺の頭をグリグリ撫でる。俺は手足をジタバタさせながら、松田のホールドから逃れようとしたが、上手くいかない。

「違うって、馬鹿!!俺はそんな事で泣いていた訳じゃなくて!!」

 無駄にぶ厚い胸板に、むぎゅうむぎゅうと押し付けられ、息が苦しい。

「いい、いい。もう何も言わなくていいから、お前の気持ちは解った!お前はただ、俺の腕で泣いてろぉぉぉ!!!」

 違うって言ってるのに、言えば言うほど、暑苦しい腕にがっちりホールドされるから、俺は一先ず抵抗するのを止めた。それよりも、早く気持ちを落ち着けて、いつもの俺に戻った方が松田も納得して、離してくれるかもしれない。

 俺は心を落ち着けるため、松田の腕の中で、ゆっくりと目を閉じた。





*******




 ふと、気が付くと、時計の針の音だけが静かに聞こえた。

 身体はとても温かくて心地よい。

 俺はゆっくり目を開けて、顔を上げる。

「……あ!」

 俺を見下ろす松田と目が合った。

「起きたか?」

 なんと、俺はそのまま松田の腕の中で眠ってしまっていた。

「今、何時?」

「もうすぐお昼だ。ゆっくり休めたか?」

 妙に慈愛に満ちた声と顔で言われ、俺は青ざめた。チャランポランでふざけた松田らしくなくて、気持ち悪い。

「あ、いや……その……」

 思わず言葉に詰まる。長い時間、腕を借りていて、なんと言い返せばいいのやら……。

 迷っていると、徐に松田の手が俺の顎にかかり、くいっと上を向かされた。そして、松田の顔が近付き、額と額がくっつく。

「熱はないようだし、昼飯はちゃんと食えるよな?」

「あ、は……はあ……」

 額をくっ付けたまま、桜木以外の男のアップが、俺の目の前で固定されている。この状況を抜け出したいけど、俺の身体は未だ、松田にしっかりホールドされていて動けない。

 次第に俺は、無防備にこいつの腕で深く眠ってしまった事に恥かしさを覚えた。みるみる顔が赤くなる。すると、松田がふっと笑い、そして、次の瞬間、ちゅっ!と、俺の唇に何かが触れた。

「な、な、な、何っ──?!」

 俺が吃りながら訊くと、松田はにっこりと笑って「悪ぃ、可愛いから、つい」と言った。

 ──馬鹿野郎ぅ~!!だからってそんな事していいと思ってんのかぁぁぁ!!!!!!

 一瞬とはいえ、桜木以外の男に、唇を許してしまった俺のショックはでかい。

 一言文句を言おうと身を乗り出し、松田の襟首を掴んだ途端、入り口の襖がすっと開いた。

「松田先生!昼になったんで、交代しま……」

 で、桜木の声は途絶えた。そして、足元にバサッと弁当らしきものが落ちる。

「な、何してるんですか……? 先生……秋ちゃん……」

 驚くのも無理はない。今の俺達の状態は、ひとつの布団で、抱き合っているような体勢だ。しかも、今の俺ときたら、松田の襟を掴んで、引き寄せようとしている。どう考えても教師と生徒の関係からして、不適切な格好だ。

「ご……誤解するなよ……桜木」

 俺が泣きそうになって、そう口にするも、既に桜木の耳には届いていないようだった。

「松田ぁぁぁ────!!秋ちゃんに、何をしたぁぁっ!!!」

 桜木の怒号が部屋中に響き渡った。















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