どこまでも近くて遠い君

蓮華空

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摩矢episode 6

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「ちょっ……待って!じ、自分で歩けます!」

 松田は俺を姫様抱っこで部屋に連れて行く。

「馬鹿!怪我もしてるし、体調も悪くて便所で踞ってた程だろ!下手に歩くな!」

「いや、でも……俺なんかを……甘やかす必要は……ないと思う」

 左手で松田の襟を掴み、そう訴えると、松田の動きがピタリと止まった。

「……なんかお前……。具合悪いと可愛いな」

 ──は?……今、なんて言った???

「顔を赤くして、目も潤んで、汐らしい雰囲気出してくると、別人みたいだ……。へぇ~、お前にもそんな一面があるんだぁ」

 感心する松田に、俺は頬を染めて、目を逸らした。

「そ、そんなわけ……ないだろ……。俺は餓鬼の頃から、可愛くない子供で……有名なくらいだったし……」

「なに?!餓鬼の頃からそんな風に言われてたのか?一体、誰にだ?」

「親……や、近所の大人……殆んどに……。実際、俺なんて本当に可愛くないし、あんただって、可愛げがないって、言ってただろ?」

「うん。まあ……確かにそう言った。けど……小さい頃から大人にそんな風に言われてたら、そりゃあ、辛かったよなぁ」

 松田はそっと俺を畳の上に下ろした。が、俺を直ぐに離すことはなかった。そのまんま自分の厚い胸板に、俺を引き寄せ、ぎゅっと抱き締める。

 
 ──なにこれ?どういうこと?


「そっか、お前の可愛げのなさって、餓鬼の頃から大人にそうやって刷り込まれちまってたんだなぁ。だから、誰かに甘える術をお前は知らないんだ。悪かったなぁ。俺までそんな事を言って古疵を抉るような真似をして……。だけどな、本当に可愛げがないとか、思ってないからな。事実、お前がどんなに可愛げの無いことを言おうと、俺の可愛い生徒に違いないからな!」

 松田の取って付けたような慰めの言葉に、俺は思わず吹き出した。

「急に何それ?マジでウケるんだけど?」

 俺は松田から身を離して笑った。

「そうか?ウケるか?──冗談だと思ってる?」

「嘘だと思ってる」

 俺がはっきりそう言うと、松田は不服そうに眉根を寄せた。

「んー、お前がそう思うのも仕方がないか。これまで大人にそう言われ続けてきたんだろうからな。でも、俺はマジだから!!本気の本気のマジだから!!」

「どうでもいいよ。そんな事!」

 またもや俺は笑って返す。すると、松田の手が不意に俺の頬に触れた。

「またお前の別の面が見えた。そうやって笑ってると、……いいな。本当に可愛いと思う」

 俺はむすっとしながら松田を見上げた。妙に穏やかでいい人そうな顔が余計にむかつく。

「だから、俺はそんな言葉、信じねぇっての!!」

 今更、この年齢でそんなこと言われたって、嬉しくも何ともねぇ! むしろこっちが恥ずかしいだけだ! それでも、松田はニコニコしながら俺を眺めている。遂に俺はむかつき過ぎて「うぜぇ!」と吐き捨てた。

 すると、松田はそっくり返って笑った。

「良かった!そんな風に威嚇できるんじゃあ、具合はまだマシな方だな。布団を敷いてやるから、ちゃんと寝ろよ」

 松田はいそいそと立ち上がって、押し入れから布団を出すと、俺の横に敷いた。そして、甲斐甲斐しく俺に手を貸し、そこに寝かせる。

 俺も具合が悪いと嘘を付いた手前、変に拒否をすると怪しまれるかもしれないから、大人しく松田に身を委ねる。最後に上掛け布団を被せられると、松田も俺の横にごろりと横たわった。

「お前が突っ張ってるのはさぁ、人に弱味を見せたくないからか?」

「別に……」

「またそうやって突っ張っねる~。素直になれよ、秋ちゃん。そうすりゃ絶対、お前だって、みんなに可愛がられるぞぉ!」

 だから俺は別に、みんなにどう思われようが気にしねぇってーの!!

 それよりも、松田の癖に、桜木と同じく俺を秋ちゃんって呼ぶな!そう呼んでいいのは桜木だけだ!

 俺はむすっとして、布団を頭まで被った。

「あれぇ?秋ちゃん、隠れちゃったぁ?」

「俺は寝る!具合が悪いんだ!!」

 そう言って、俺は松田との下らない会話を終わりにした。はっきり言って、今の俺は、松田の相手をしているどころではない。

 布団の中で、俺は早速、紅虫(桜木)からのメッセージの続きを開いた。




『 どうやら僕の恋愛観や人との距離はちょっと違っていたようです。

 僕は今まで、誰にでも考え無しに好きだと言ってしまえたし、求められれば誰とでも寝てました 』



 求められれば誰とでも……って、歴代の彼女だけじゃないのかよ?!

 俺の知らない所で、俺の知らない奴と、桜木がそんな真似をしていると思っただけで、俺のはらわたは煮えたぎった。



『 そこには初めから男女の区別もなく、身体や心が気持ち良くなれば、俺はそれで良かった 』



 ………くっ………なんだよ……、やっぱりこいつ……俺以外の男と寝てるのかよ? 俺の事、好きだって思ってる癖にっ!!

 俺は憎らしさで、思わず唇を噛み締めた。



『 でも、それが異常な事なんだと、今では自覚がある 』



 本当かよ?!



『 馬鹿な僕は、大好きな幼馴染みに対しても、今まで身体を繋げてきた人達と同じような事をしてしまった。そして、された時の、彼の辛そうな姿を見て、僕は初めて胸に痛みを覚えた。でも、最初はこれが何なのかさっぱり分からなかった。僕は彼を傷付けた。その罪悪感が僕の心を苦しめているのかと思っていた。だから、僕はその事を必死で謝ろうとした。でも、腹の底では何か違うものが蠢いていた。

 何で傷付くの?
 俺にされるのがそんなに嫌だった? 

 そんな怒りにも似た、不快な気持ちを、俺は必死で感じないようにしてた 』



 ………………。



『 こんな感情……。他の人では沸き上がらない。相手に拒絶されたら、ああ、そうなんだ、で納得出来る。だけど、彼だけは駄目なんだ。

 僕が今まで、銀狼さんの詩に惹かれていたのは、銀狼さんに同情しているからだと思っていた。だけど、違うんだと、今、はっきりと分かった。つまり、僕にも銀狼さんと同じ、相手を想うが故の、どす黒い気持ちが底に踞っているんだと知った。僕はずっと彼に恋をしていた。思い起こせば、確かに僕が幸せだと感じていた時には、いつでも彼が隣に居た。幼い日からずっと続く、良き日のどのページをめくっても、彼、なくしてはあり得ない。それに気付けたのは、あなたのお陰だと思っています。あなたの詩で、僕は本当の気持ちに気付けた。だから、あなたにお礼を言いたい。
 僕の相手を想う気持ちは、きっとあなたと同じです。
 あなたの詩は僕を変えてくれました。そして、僕はこれから、その相手にだけ、この気持ちを注いでいきたいと思っています!

 あなたの詩に、心から感謝を込めて。

 紅虫 』


















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