どこまでも近くて遠い君

蓮華空

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摩矢episode 6

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 ──桜木の野郎!あろうことか、俺の作品を食堂で歌いやがって!

 何を思ってあんな所で歌い出したのか知らないが、人前で自分の詩を聞く事ほど、恥ずかしいものはない。

 肝の冷える想いで睨みつけてたら、何とか途中で歌うのを止めてくれた。だが、この分だとその後、どこから引っ張ってきた詩か、きっと誰かに教えたに違いない。そうでなきゃ、これまでちっとも変化のなかった俺の登録者数が、急に増えるなんてあり得ない。

 一先ず、感想投稿の閲覧を後回しにして、俺は紅虫のメッセージを開くことにした。



『 銀狼さん、お久し振りです。

 最近、更新をしていないようですが、如何お過ごしですか?

 実は今日、僕は彼女と別れました 』


 ──はぁっ!???

 え?え? いつ別れた?? 朝の食事は普通に木下と一緒だったろ? って、ことはその後? 一体、何で??


『 最近になって、僕はやっと気付いた事があります。

 それは、人を好きになるってどういう事か?ってことです。

 僕はあまりにも考え無しに、告白を受けていました。それは、銀狼さんの詩をみて、恋が成就しない苦しみを知っていたから……

 だから、特に相手の事が好きでなくとも、ふるということが出来ませんでした。

 相手を傷付けたくなかったからです。

 でも、今朝、僕は彼女をふりました。

 それは、他に好きな人が出来たから 』


 ──え!?桜木に好きな人……。

 俺の目の前が真っ暗になる。

 今までのような同情から始まった付き合いではなく、桜木ががいる?

 天と地が逆さになったような歪んだ感覚が俺を襲った。

 ──そんな馬鹿な!!あの桜木に特別な人なんて出来るのか?!誰にだって、平等に人を愛し、優しくしてしまうお前が、誰か一人を特別好きなるなんて事。今まで一度だって無かったじゃないか?!!

 俺は責めたくなるような気持ちをぐっと堪えた。

 けれども、それは出来なかったみたいで、次から次へと、目尻から涙がハラハラと零れてきた。

 ──嫌だ!桜木が本気で恋をするのなんか、俺は絶対に見たくない!!

 この世の終わりと思えるような気分で、俺は次の行を読んだ。そして、今度は、別の意味で世界が凍り付いた。




 
『 僕の好きな人は、4歳からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染みの同性です 』





 ゴトン……!

 と、俺は余りの衝撃にスマホを床に落とした。



「ん?何だ摩矢?さっきから長いトイレだけど、どうした?大丈夫か?」

 ドアの向こうから松田が話しかけてきた。

「……だ、大丈夫じゃ……ない……です」

 俺は口許を押さえつつ、何とか答えた。顔が火を吹くように熱い。

 頭の中で、何度も『』という文字がぐるぐる回る。これって……どう考えても俺の事だよな……?

「だったら、このドアを開けろ!!何が大丈夫じゃねえんだ?!おい!!」

 松田が焦ったようにドアを叩く。

「いや……無理です。絶対に今は……開けられません……」

 俺はスマホを拾い、見間違いかどうか、もう一度確認する。

『 僕の好きな人は、4歳からずっと一緒に過ごしてきたです 』

 二度見して、息が止まる。

 信じられないが、やっぱりちゃんとそう書いてある。俺は震える手でスマホを支え、続きを読んだ。

『 同性を好きになるって、変に思う人もいるかもしれないけど、僕にとって、彼を好きである事は、幼い頃からずっと自然で当たり前の事だった。だから、逆にずっと気付けなかった。

 でも、彼の涙を見て、やっと気付きました。
 僕が辛い想いをさせたくないと思うのは、彼だけだ。
 僕が心から触れたいと思うのも、彼だけだ。
 そして、誰にも触れられたくないと思うのも、彼だけだ。

 それって、彼の事が一番大好きだって事で、合ってますよね? 』



 ちょっ……待て……。

 心臓の動きがやばい!

 マジでお前は俺のこと、そういう意味で好きなのか?!

 今の俺……どんな顔をしてる? 俺の事が一番好きって……本当か? やばい!全身が狂ったように熱い!!

 気が変になりそうだ!!



 ──ドン!ドン!ドン!

 ひっきりなしに外ではドアが叩かれている。

「摩矢っ!いいから開けろ!一体、何があった?!どこか痛むのか?!!」

 やばい!松田が余計な心配をしてしまっている。

「だ、大丈夫ですから……、心配しないで……暫く……放っておいて……下さい……」

 まずい……!驚き過ぎて、声もまともに発せられない。

「ばか野郎!!何が大丈夫なもんかー!いつものお前は、冷徹そのものの棘のある声だろうが!!それがそんな弱々しい声で応えて、大丈夫だと思えるかー!!こうなったら、ドアをぶち抜いてやるから、待ってろっ!!」

「い、いや!そこまでしなくても……」

 大丈夫……という前に、松田はその腕力で本当にドアノブを叩き潰した。そして、その抜けた穴から手を突っ込み、鍵を開け、思いっきりドアを開けた。

「大丈夫か?!摩矢!!」

 便座の上で縮こまる俺に、松田は直ぐに駆けつけた。

「いや……あの……マジで、大丈夫です……」

 俺は必死で顔を隠しながら漸く言った。顔面変換が直ぐに出来ない。

「どうしたんだ、お前!!顔が真っ赤じゃないか?熱でもあるのか?具合が悪かったのか?」

 松田が俺の額に手を当てて熱を確認する。本気で心配してくれているらしい。

「いや……あの……」

 誤解だと言いたいけど、下手に真相を知ったら、こいつは面白がるだけだ。だったら、具合が悪いことにしておいた方がいい。

「す、すいません……実は、体調が……」

「早く言え!馬鹿!!トイレに籠って病気が治るか!!いいから、布団で寝るぞ!!」

 松田はひょいと俺を抱え上げた。















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