暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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本編 イザヤside1

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 陶也からモップを借り、濡れた床を拭いた後、イザヤは腑に落ちない気持ちを抱えたままキッチンへと向かった。

 キッチンに入ると驚くほど豪勢な料理が並んでいた。

 エビがある。肉がある。葉っぱが綺麗に飾られてある!
 
 イザヤには詳しい料理名などさっぱり分からない。だが、おそらく手間をかけて作られているだろう事は分かる。

「何だこれ?すげえな!!お前が全部作ったのか?!」

 イザヤは感動した。

「はい。お口に合えばよろしいんですけど……」

 テンションの上がったイザヤに対し、陶也は少し照れ臭そうにしている。

「俺は何だって食えるから大丈夫だ!それよりこんなに作るの大変だったろ?俺の飯なんかその辺に腐りかけのパンでも転がしとけばいいんだぜ」

 自分で言うのもなんだが、イザヤなんぞ、ゴキブリと同じ価値しかないと思っている。だから、こんな豪勢な料理を用意してくれているとは夢にも思わなかった。

「喜んで頂きたくて、つい作りすぎてしまいました」

「お前……料理が上手いんだな」

「それは食べてからおっしゃって下さい」

「いやいや、これだけ作れるんだし、絶対、美味いに違いない!マジですごいぞ!」

 そもそもイザヤは幼い頃からまともな食事をさせてもらった事がない。だからいつも空腹だったため、腹の足しになるものは何でも食べた。
 それでも腹が空くので片っ端から色々と盗んで腹を満たしていた。それでも多くは加工品かスナック菓子ばかりだったので、こんな彩り豊かな食事は初めてだった。後の10年は言わずと知れた刑務所の不味い飯くらいだ。

「この米の上にエビが乗っかってるのなんか、どうやって作ったんだ?」

「パエリヤの事ですか?フライパン一つで出来ますよ」

 すごく簡単そうに言うが、とても簡単そうには見えない。

「これは、ハンバーグだよな」

「はい。今日はシャリアピンソースにしてみました」

 シャリアピンソース??

「これは……サラダだよな。具のボリュームがすごいな」

「はい。コブサラダにしました。何でも乗せれるから栄養たっぷりでいいですよね。今日はひよこ豆の他に枝豆も乗せちゃいました」

 見た感じサラダだけでもボリューム満点なのに、陶也はオニオンスープまで出してきた。

「お前、作り過ぎじゃないのか?」

「やっぱそうですよね。でも、特別なのは今日だけです。イザヤさんが日本に来た歓迎の意味も込めて、豪勢に振る舞いたかったんです」

 陶也がにっこり微笑んだ。

「か、歓迎って……俺をか?!」

 ──お前は知らないかもしれないが俺は人殺しだぞ!社会のゴミだぞ!

「もちろんです!日本へようこそ。さあ、遠慮しないで食べて下さい」

 屈託のない笑顔に絆され、イザヤもつい笑みがこぼれた。でも、どこか後ろめたい気持でいっぱいになり唇を噛んだ。

(本当にいい子なんだな……こいつ)

 陶也がパエリヤを取り分けてイザヤに差し出した。

「ありがとな」

 そう言うと陶也はまた口角だけをきゅっと上げて照れ臭そうに頷いた。

(やべ……その仕草、可愛い)
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