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本編 イザヤside1
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祖父の病院を出て家路に向かうバスを降りた後、陶也とイザヤは直ぐには家に向かわず、渓流に向かって歩いていた。
今日は一日、結構な人混みに晒されたせいで、陶也の神経がかなり疲労したらしい。少し回り道して、神経を落ち着かせてもいいか?と訊かれたので、イザヤは、構わない、と返事をした。
目的の渓流はバス停から10分程で着いた。
誰も居ない、長閑な渓流に着くと、陶也は靴を脱いで裸足になり、ズボンの裾を上げて、流れる水の中に入っていった。
イザヤはそれをただ眺めていた。
渓流の中央付近に来ると、大きな石があり、陶也はそこに腰をかけた。そして、一息付く。
「イザヤさんもこっちに来てみませんか?水がとても冷たくて気持ちがいいですよ」
イザヤは少し躊躇ったが、陶也が手招くので後に続いた。
冷たい水に足を入れ、木々の間を通り抜けてきた風に当たっていると、街中で浴びた熱が静かに冷めていく。
「今日はイザヤさんと街を歩けて良かったです。疲れたけど、楽しかった」
「そうか?俺はお前の後ろに居るだけで、何もしてないぞ」
「いえ、イザヤさんが側に居るだけで違うんです。街は僕にとって憧れるけど少し怖い場所なんで……」
陶也は川に浸した足を左右に動かし、水の感覚を楽しんでいるようだった。人には触れられない分、その他の感触を得たいのかもしれない。
「やっぱり、人にぶつかったり、触れたら怖いからか?」
「それだけじゃないんです。いや、やっぱりそれがあるからかな?街は僕が居てはいけない場所のような気がしちゃて……場違いって感じがします。なので、人が居なくて自然の多い場所に来るとほっとするんです」
「ふーん。俺とは逆だな」
「え?」
陶也は動かしていた足を止めた。そんなに驚くような事か?
「俺は逆に美しい自然の中に居る方が落ち着かない」
「な、何でですか?」
陶也が凄く意外そうに訊いてくる。自然は人の心を癒すに決まっているとでも言いたげな目だ。イザヤは苦笑いする。
「汚れちまってるからだろ、俺が……」
瞬間、陶也は悲しそうな顔をした。
ーー悪いな。俺はお前とは違う人間なんだ。
「ほら、あそこ。小さな滝になっている場所。葉の間から零れる光茫がすごく綺麗だ。でも、あんな所に立ったら吸血鬼のように灰になっちまいそうな気がする」
「そんな……」
陶也は眉尻を下げイザヤを見上げた。
「俺はもっとゴミゴミした汚い街の方が落ち着く。清浄な自然は俺が居ちゃいけない場所で、圧倒的な大自然を前にすると消されてしまいそうな気がする」
美しい自然にゴミは不要だ。大自然は穢れを浄化する。
「そ、そんな風な感じ方もあるんですね」
陶也が申し訳なさそうな顔をする。
「なんだよ。そんな顔するなよ」
イザヤは笑って陶也の頬を孫の手で撫でた。
眉を下げ、めちゃくちゃ付き合わせてご免なさい、って顔をしている。こいつは本当に、いつも人の気持ちに添おうとする。ゴミのようなイザヤの気持ちになんか添ったところで、幸せになんかなれないから、正直、止めてほしい。
「いいんだ。お前はゆっくり落ち着くまで休め。俺は大丈夫だから」
陶也が眉根を寄せ泣きそうな顔をする。
ーーまいったな。こんな顔をさせるつもりじゃなかったのに……。
陶也が笑ってくれないと、イザヤの心も落ちてくる。どうしたものかと困っていると、ふと、陶也の後ろから黒くてぬらぬらとしたでかい物体が水の中から近付いてきていた。
「なんだありゃ?」
「え?」
と、陶也が振り向くと、突然 陶也は興奮し始めた。
「ハンザキだ!!すごい!大きい!!!何これ!めちゃくちゃ大きい!こんな大きいの初めてだ!!すごいよ!イザヤさん!」
「え?な、何だ?ハンザキ???」
「オオサンショウウオです!!世界最大の両生類。絶滅危惧種ですよ!!」
陶也は腰を掛けてた石から立ち上がると、世界最大の両生類に近付いていった。
「でかい!たまにこの辺で見かけた事はあるけど、こんなに大きいのは初めてだ!発見された中でも最大の1m50cmはあるかもしれない。すごい!」
そう言ってスマホで写真をバシバシ撮り始めた。すごい興奮の仕方だ。陶也は人が苦手な分、生き物は本当に好きなようだ。
イザヤも陶也の横に並んで見てみると、思ったより大きい。ぬめっとしてグロテスクなものが悠々と川底を歩いている。正直、怖ぇし、きめぇ。しかし、陶也の見る目は違っているようで、目が爛々と輝いている。
「ハンザキはパッと見、きもちわるいって言う人がいるようなんですが、実はよく見ると顔がすごく可愛いんですよ!目がつぶらで口が半分裂けたように大きくて、僕、すっごく好きなんです!こういうの日本ではキモカワって言って愛されるんですよ」
ーーこんなのも愛されるのかよ……。ブサカワだのキモカワだの、陶也の、いや日本人の趣味は本当に大丈夫か?
「イザヤさん!大丈夫ですよ!」
「え!?」
一瞬、心の声が聞こえたのかと思って驚いた。
「自然はイザヤさんを受け入れてます!日本のこの地は特に!だって、こんなに大きなハンザキが姿を現してくれるなんて滅多にないんですよ!こいつはきっと此処の主です。イザヤさんを歓迎して会いにきてくれたんですよ」
陶也は自信満々に言うと、木漏れ日の中、穏やかに笑った。何だかよく分からないけど、陶也がそう言うのなら、まあ、自然の中に居るのも満更でもないような気がした。
今日は一日、結構な人混みに晒されたせいで、陶也の神経がかなり疲労したらしい。少し回り道して、神経を落ち着かせてもいいか?と訊かれたので、イザヤは、構わない、と返事をした。
目的の渓流はバス停から10分程で着いた。
誰も居ない、長閑な渓流に着くと、陶也は靴を脱いで裸足になり、ズボンの裾を上げて、流れる水の中に入っていった。
イザヤはそれをただ眺めていた。
渓流の中央付近に来ると、大きな石があり、陶也はそこに腰をかけた。そして、一息付く。
「イザヤさんもこっちに来てみませんか?水がとても冷たくて気持ちがいいですよ」
イザヤは少し躊躇ったが、陶也が手招くので後に続いた。
冷たい水に足を入れ、木々の間を通り抜けてきた風に当たっていると、街中で浴びた熱が静かに冷めていく。
「今日はイザヤさんと街を歩けて良かったです。疲れたけど、楽しかった」
「そうか?俺はお前の後ろに居るだけで、何もしてないぞ」
「いえ、イザヤさんが側に居るだけで違うんです。街は僕にとって憧れるけど少し怖い場所なんで……」
陶也は川に浸した足を左右に動かし、水の感覚を楽しんでいるようだった。人には触れられない分、その他の感触を得たいのかもしれない。
「やっぱり、人にぶつかったり、触れたら怖いからか?」
「それだけじゃないんです。いや、やっぱりそれがあるからかな?街は僕が居てはいけない場所のような気がしちゃて……場違いって感じがします。なので、人が居なくて自然の多い場所に来るとほっとするんです」
「ふーん。俺とは逆だな」
「え?」
陶也は動かしていた足を止めた。そんなに驚くような事か?
「俺は逆に美しい自然の中に居る方が落ち着かない」
「な、何でですか?」
陶也が凄く意外そうに訊いてくる。自然は人の心を癒すに決まっているとでも言いたげな目だ。イザヤは苦笑いする。
「汚れちまってるからだろ、俺が……」
瞬間、陶也は悲しそうな顔をした。
ーー悪いな。俺はお前とは違う人間なんだ。
「ほら、あそこ。小さな滝になっている場所。葉の間から零れる光茫がすごく綺麗だ。でも、あんな所に立ったら吸血鬼のように灰になっちまいそうな気がする」
「そんな……」
陶也は眉尻を下げイザヤを見上げた。
「俺はもっとゴミゴミした汚い街の方が落ち着く。清浄な自然は俺が居ちゃいけない場所で、圧倒的な大自然を前にすると消されてしまいそうな気がする」
美しい自然にゴミは不要だ。大自然は穢れを浄化する。
「そ、そんな風な感じ方もあるんですね」
陶也が申し訳なさそうな顔をする。
「なんだよ。そんな顔するなよ」
イザヤは笑って陶也の頬を孫の手で撫でた。
眉を下げ、めちゃくちゃ付き合わせてご免なさい、って顔をしている。こいつは本当に、いつも人の気持ちに添おうとする。ゴミのようなイザヤの気持ちになんか添ったところで、幸せになんかなれないから、正直、止めてほしい。
「いいんだ。お前はゆっくり落ち着くまで休め。俺は大丈夫だから」
陶也が眉根を寄せ泣きそうな顔をする。
ーーまいったな。こんな顔をさせるつもりじゃなかったのに……。
陶也が笑ってくれないと、イザヤの心も落ちてくる。どうしたものかと困っていると、ふと、陶也の後ろから黒くてぬらぬらとしたでかい物体が水の中から近付いてきていた。
「なんだありゃ?」
「え?」
と、陶也が振り向くと、突然 陶也は興奮し始めた。
「ハンザキだ!!すごい!大きい!!!何これ!めちゃくちゃ大きい!こんな大きいの初めてだ!!すごいよ!イザヤさん!」
「え?な、何だ?ハンザキ???」
「オオサンショウウオです!!世界最大の両生類。絶滅危惧種ですよ!!」
陶也は腰を掛けてた石から立ち上がると、世界最大の両生類に近付いていった。
「でかい!たまにこの辺で見かけた事はあるけど、こんなに大きいのは初めてだ!発見された中でも最大の1m50cmはあるかもしれない。すごい!」
そう言ってスマホで写真をバシバシ撮り始めた。すごい興奮の仕方だ。陶也は人が苦手な分、生き物は本当に好きなようだ。
イザヤも陶也の横に並んで見てみると、思ったより大きい。ぬめっとしてグロテスクなものが悠々と川底を歩いている。正直、怖ぇし、きめぇ。しかし、陶也の見る目は違っているようで、目が爛々と輝いている。
「ハンザキはパッと見、きもちわるいって言う人がいるようなんですが、実はよく見ると顔がすごく可愛いんですよ!目がつぶらで口が半分裂けたように大きくて、僕、すっごく好きなんです!こういうの日本ではキモカワって言って愛されるんですよ」
ーーこんなのも愛されるのかよ……。ブサカワだのキモカワだの、陶也の、いや日本人の趣味は本当に大丈夫か?
「イザヤさん!大丈夫ですよ!」
「え!?」
一瞬、心の声が聞こえたのかと思って驚いた。
「自然はイザヤさんを受け入れてます!日本のこの地は特に!だって、こんなに大きなハンザキが姿を現してくれるなんて滅多にないんですよ!こいつはきっと此処の主です。イザヤさんを歓迎して会いにきてくれたんですよ」
陶也は自信満々に言うと、木漏れ日の中、穏やかに笑った。何だかよく分からないけど、陶也がそう言うのなら、まあ、自然の中に居るのも満更でもないような気がした。
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