暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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本編 イザヤside1

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「あれは只の見栄!!嘘!嘘!」

「嘘?」

「別にモテちゃいねぇよ!恋人も居たためしねーわ!!」

 ーーだから、これ以上、何も聞いてくれるな!愛だの恋だの、俺には縁がねーんだ!

「だだの一人も?ですか?」

 陶也が驚いた顔で見ている。

 ーーだから、こいつは俺をどう見てるんだ?

「ああ、一人もいない!」

「嘘」

 陶也が唇を微かに尖らせた。

「嘘じゃないって!」

「それにしては、蒔田さんが男好きだって話をしたとき、あっさり寝てみれば……とか慣れた感じで言ってたじゃないですか?」

 ーーよく覚えてやがる。

「まあ、セックスはそれなりにやってる」

「やっぱりモテてるじゃないですか?モテない人はそんな事したくても出来ないはずです」

 ーーなんか知らんが、何故、そんなむきになってんだ?

「そっか!お前、セックスに興味あるんだ。そりゃお年頃だもんなあ」

「そ、そういう訳じゃ……」

「別にいいんじゃね。当たり前の事だろ?なるほど、だからか!最近のお前って、人に対して積極的になってきたよな。誰か好きな奴でも出来たか?」

 そう言うと、途端に赤くなった。

 ーーマジか?!

「そっか、居るんだな」

 コクリと照れ臭そうに頷く。その姿にイザヤの胸はチクリと痛んだ。

「どんな奴だ?」

 尋ねると何故か恨みがましい目で見られた。

「いや、別に話したくなければいいけど……。でも、ほら、どこに惚れたかくらい教えてくれてもいいんじゃね?」

 こいつが人を好きになるなら、どんな所に惚れるのか知りたかった。

「眼差し」

 ポツリーーと、それだけ言った。

 ーーま な ざ し!

 イザヤは一瞬、茫然とした。やはり陶也は言うことが違う。イザヤなんかの頭では精々、綺麗だとか、優しいとか、その程度しか思い浮かばない。眼差しに惚れるとは、よっぽどその相手を見て、その心情を感じ取り、その全てを内包して惚れているということだろう。綺麗だとか、優しいだとか、部分的な所を強調して好きだと言うより、もっと大きくて、温かな、その人の全体を、全てを愛しているように感じて、何だがそいつが酷く羨ましくなった。

「なんか、それ……。すごくお前らしいな」

「そうですか?」

「ああ、すげえなあ、お前は」

「え?何がすごいんですか?」

「俺とは違って心が広くて豊かだ」

 陶也が身を縮めた。

「そんな事、ないと思います……。それより、イザヤさんは?イザヤさんが好きになる人はどんな人ですか?」

 ーーまたこいつは困る質問しやがって!

 イザヤは憎々しげに陶也を眺めて、

「ならねえよ!俺は誰も好きになんてならないし、なったこともないし、誰かと深く付き合うつもりも一生涯ない!……面倒くせぇだろ」

 そう言うと陶也は泣きそうな顔になった。

 ーーだって、仕方ねぇだろ。

「だから体だけなんですか?」

「そうだな」

「それって悲しくないですか?」

「なんで?」

 陶也は眉を寄せて、本気で言ってる?という風な顔でイザヤを見た。

「体だけ繋げて、相手がイザヤさんの事を好きになったら、どうするんですか?」

「ないだろ」

「は?」

 陶也が凄く驚いた顔でこっちを見ている。

「何でそんな事、はっきり言えるんですか?相手の気持ちなんか、どうなるか分からないじゃないですか!」

「体から始まる恋もあるってやつだろ?でも、俺、3分くらいで済ますから、いや、2分か?」

「へ?」

「出しゃいいだけだから、俺は。そんな詰まんねー男に幻滅する事はあっても、惚れる奴はまず居ないだろ。それでも俺に惚れるってなら、よっぽど変わった奴かアホだと思うぞ」

 イザヤは面倒臭そうに吐き捨てた。もうこんな話はとっとと終いにしたかった。「もういいから、お前も寝ようぜ」と逆側を向いて寝ようとしたら、陶也が慌てて口を開いた。

「僕なら!!」

 その切ない声にまたイザヤは振り向いてしまった。

「それでもいいと思ってしまいます。その人に触れる事が出来るなら、一瞬だって、永遠に思える」

 イザヤはぎょっとした。

「一瞬だって、永遠?」

 思わず繰り返す。

「はい。3分だって、その人との繋がりを感じられたら、過去も未来も、その瞬間のためにあったんだって思える。そんな気がします。だから、僕にそんな機会がもしも来たなら、僕は全てを預けたいと思います」

 イザヤは硬直した。なんて瞳をして言うんだ。
 純粋で真っ直ぐな美しい瞳。夜の闇のように真っ黒なのに、その中に煌めく光が、あの時の月のように綺麗だ。こんな美しい瞳でそいつを愛して、刹那の快楽のためにその身をやつすなど、そんな恋を陶也には絶対して欲しくない。

「や、止めておけ!お前はそんなアホな恋の仕方するな!お前だったら、しっかりと愛してくれる人がいるはずだ!間違ってもお前はアホな3分に身を置くな!そして、そんなアホになんか間違っても惚れるんじゃない!俺が許さねえぞ!!」

「じゃあ、イザヤさんもアホな3分はもう止めてください」

「ーー!」

 思わず言葉に詰まる。

 ーー何故、俺に反ってくる?

「俺は……別に……関係ないから、どうだっていいだろ?」

 そう言うと陶也はムッとした顔で「関係なくないでしょ、そこに相手が居るんですから。人の気持ちなんて、いくらでも上塗りして隠せるんですよ。だから……、そういう適当さは良くないと思います」と言った。

 イザヤは深い溜め息をついた。もう降参だ。これ以上、その綺麗な瞳に適当な自分を写したくなかった。イザヤは仰向けになり、なるべく陶也の瞳を見ないように、左腕を額に乗せ目を閉じた。

「正直に言うよ。俺はーー。相手の気持ちなんか考えたくないんだ。好意を持たれても、どうしたらいいのか分からない。俺が精々持てる愛情らしきものは、相手を可愛いなあと思って愛でるくらいで、愛を与えたり、受け取ったりってのは、よく分からないんだ。ーーだから……そうだな」

 イザヤは次に言う言葉を探した。が、止めた。この期に及んでまだ本心を隠そうとする自分に気付いたからだ。あの美しい瞳はイザヤの弱さを嗤うような瞳ではない。

「ーー怖いんだよ。人を好きになるのも、好きになられるのも」

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