暗い記憶が導く場所へ

蓮華空

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陶也side2

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 母は優しく子供達の頭を撫で、「彼はね、あなた達のお兄ちゃんよ」と、言うと二人の子供は大層驚いた。

「「ええ?!お兄ちゃん!!」」

「アレもそうなの?!」

 と、男の子が後ろに立っていたイザヤを指差し目を剥いた。

 陶也は思わず口元が綻んだ。

「そうだよ!でも、あれは従兄弟のお兄ちゃん」
 
 と、教えてあげた。すると、男の子は驚いて、「何で金髪なの?!」と言いながら、まじまじとイザヤの顔を覗き込んだ。

 そして、陶也は母にイザヤを紹介した。

「お母さん、彼はアメリカからいらしたお爺ちゃんのお孫さんで、イザヤといいます。今、僕は彼と暮らしています」

 イザヤが被っていたテンガロンハットを外し、母に一礼した。

 母は丁寧にお辞儀をすると、「やっぱり、そうだったのね。お義父さんにそっくりだから、何となく分かったけど、本当に有り難う御座います」と、イザヤに礼を言った。そして、今度はちゃんとお爺ちゃんのお墓参りに顔を出すと約束してくれた。

 陶也とイザヤが、これでもう帰ろうとすると、母が呼び止めた。

「待って!」

 陶也は振り返った。

「今日は……本当に来てくれて有り難う。ごめんね。お母さん……ずっと、勇気が出せなかった。……ずっと、陶也に嫌われていると思ってたから、それを感じたくなくて、ずっとあなたを避けていた。だから、本当に、あなたの幸せそうな顔が見れて……良かった。本当に、本当に、良かった……。こちらこそ、わざわざここまで来てくれて……有り難う。本当は、……ずっと、……会いたかった……」

 後半は、言葉にならないような震え声で、母はまた泣いた。
 
 陶也の脳裏に、幼い頃、自分と向き合う度に、苦しんでいた母の姿が甦った。

 あの苦悩の表情は、陶也の事を愛しているが故だったのだ。

 そう思うと、無性に胸が締め付けられた。母に近づき、陶也はそっと抱きしめた。

 今では陶也よりも頭一つ小さく、華奢になった母を抱き締めると、やはり、湧いてくるものは感謝しかなかった。

「こちらこそ、僕をこの世に産んでくれて、有り難う御座います」

 そっと抱きしめた後、陶也は手を振りながら、母の家を後にした。

 母と自分の兄弟達が笑顔で手を振ってくれている。

 その一時《ひととき》がとても幸せに感じた。

 母は兄弟達と、今度はうちにも遊びに来てくれると約束してくれた。

 今日は本当に勇気を振り絞って、会いに来て良かった。

 背中を押してくれたイザヤに陶也は心から感謝した。







 二人が家路に着く頃には、すっかり夜になっていた。

 少し肌寒くなった縁側で、イザヤはのんびりと月を眺めながら、ウイスキーを飲んでいる。

「イザヤ、今日はお疲れ様。東京まで付き合ってくれて、有り難う」

 陶也が隣で微笑むと、イザヤも同じように微笑んだ。

「ばーか!俺の方がいつもお前に世話をかけてばかりなんだから当たり前だ。こっちこそ、いつもお前には感謝してるぞ」

 肩が触れ、イザヤは陶也にゆったりともたれ掛かった。

 陶也も同じように、相手の体温を感じながら、イザヤの肩に頭を乗せて、もたれ掛かった。

 かかってくる体重の圧が、とても心地よかった。

「今夜も月が綺麗だな……」

 イザヤがぼんやりと呟いた。

 陶也も同意して、「本当に、綺麗ですね」と言った。そして、

「そう言えば、『月が綺麗ですね』の意味を伝えてなかったですね」

 と言った。

 イザヤはぼんやりとウイスキーグラスを傾けながら、「そういえば、そうだったな。何?」と訊いた。

 陶也はイザヤの耳元に唇を寄せ、小声で伝えた。

「I love youです」

 イザヤはちょっと身を引いて、陶也の顔を見つめると、照れたように、「今更だろ?」と言ったが、「あ!でも、それを言った時って……、そうか、そんな頃からお前は俺の事をそんな風に想っていたのか……」と染々としていた。

 しかし、陶也は否定した。

「違います。その頃からじゃないです。初めてイザヤに会った時からです!実は一目惚れなんです」

 と、頬を染めながら、イザヤの肩に顔を埋めた。

「えっ?マジか?!……あ、でも……。それを言うなら俺も同じか?会った瞬間に、これはやばいな、と思ってたから……」

「やばい?」

「お前に惹かれていく自分を感じていたから、本当は早く日本からずらかろうと思っていた。けど、全然駄目だったな。ズルズルとそのまま、あれよ、あれよ、という間に、もう止まらなくなっちまった。これからもずっと、この気持ちは変わらない気がする。だから、陶也。俺も──大好きだよ」

 そう言われると陶也の頬は一瞬で、赤く染まり、俯いた。そして、イザヤの手を恋人繋ぎでぎゅっと握り、「僕も一緒です」と呟いた。

 そして、二人は長く長く、お互いの体に凭れながら、夜の闇に浮かび上がった月を愛しげに眺めていた。


〈了〉
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