Broken Arrows

蓮華空

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キックオフ

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 雷亜は6年前、彼に出会った日を思い出した。

 泣き崩れた彼を支えながら砂浜に戻った雷亜は、弱々しく踞ったままの彼に、家は何処かと訊ねた。
 言葉は通じないから、砂浜に家の絵をえがき、両親とこれは君だよ、と指を指して、家に帰るよう促した。すると、彼は首を横に振り、涙を流しながら、また海の中に入ろうとした。

 雷亜は慌てて止めた。

 その時、雷亜は、彼が家に帰りたくない、何かがあるのだと理解した。

 雷亜も母を亡くしたばかりだった。
 大人は平気で子供に嘘をつく。
 雷亜もその嘘で散々傷つけられてきた。
 きっと彼も大人の嘘に傷付いているのだ。
 死にたくなるほど苦しんでいるのだ。

 そう思った瞬間、雷亜の胸に炎が灯った。

 雷亜は彼の手を引いて、何処までも逃げようと決心した。

 大人は信用出来ない。
 だったら、雷亜がこの子を守るーー。

 出来るだけ遠くへ逃げようと、南へ南へ、彼の手を引いて雷亜は逃げた。

 だけど、最終的には大人達に捕まった。

 ……交通事故に遭ったのだ。

 雷亜はその時、彼を庇って顔から地面に叩きつけられ、もう身動きが取れなくなった。

 そこで二人の逃避行は終わった。

 雷亜が救急車に乗せられる所を、ただ、ポロポロと涙を流して見つめていた紫の瞳が、彼を見た最後になった。

 出会いと別れ、初めと終わりの両方が、彼の泣き顔だった。

 だから、雷亜はずっと彼の事が気になっていた。

 その彼が、今は雄々しく、逞しくフィールド内を駆け巡っている。
 
 会場の大歓声が雷亜の心を震わせた。

 彼はこんなにも沢山の人を惹き付け、味方に付けている。

 雷亜とは違う。

 彼はもう、雷亜が守ろうとしたあの時の彼ではないのだ。

 雷亜の目から涙が溢れた。



 ーー良かった……



 心からそう思えた。

 彼が力強く生きている。

 その姿を瞼に納められる日が来るなんて……、

 体が小刻みに震え、涙が止まらなかった。


「くっはっはっは!なんだよ、嘘つき君。シャノンのプレイを見て、泣きたいほど感動してんのか?」

 ジョージに首をホールドされ、頬っぺたをグリグリされた。
 雷亜は否定せず、何度も頷き、「すごい……、彼は、本当にすごいよ!」と感極まりながら口にした。

「そうだろう、そうだろう!だから、お前みたいな奴がシャノンの事を想うなんて、身の程知らずだと思わねぇか?俺はそれが片腹痛くてしょうがねえよ!」

 あひゃひゃひゃ、思い出しただけで糞ウケる!と言ってジョージはまた一人で笑い出した。

 雷亜は複雑な心境だった。





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