Broken Arrows

蓮華空

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どうして?

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 眉を八の字にして、もう一度問いかける。

「どうして、忘れなきゃならないの?」

 あの日、シャノンに出会えた事は、雷亜にとって最も輝かしい思い出なのだ。


  ※


 あの日の苦しみと孤独を、理解してくれる者なんて居なかった。

 そう思っていた矢先、シャノンに出会った。

 言葉に出来ない傷が互いにあると思えただけで、雷亜の孤独は癒された。

 だから、雷亜はシャノンの手を取り、大人たちの世界から逃げ出した。


 棲み家にしたのは廃墟となった病院。

 シーツもない、古ぼけたベットの上に座り、盗んできた焼鳥をシャノンと二人で頬張った。

 シャノンはねぎまの葱を口にすると、渋い顔をして、黙って串先を見ていた。

 雷亜はシャノンの串を自分に寄せると、葱だけを食べた。

 シャノンは続けて肉を食べ、また葱が出てくると、雷亜にそれを差し出した。

 雷亜は笑って、また葱だけを食べてあげた。

 シャノンは満足そうに微笑んだ。

 言葉のないやり取り。

 けれども、今まで出会った誰よりも、何かが繋がっている気がした。

 母を亡くしたばかりなのに、あの時は寂しさなんて、微塵も感じなかった。

 やがて、古い病院のベッドは、月明かりだけが頼りの薄暗い世界に変わり、紫色の瞳が微睡んで、瞼を閉じた。

 そして、雷亜の腕の中で彼は穏やかに眠った。

 薄闇に淡く光る、シャノンの滑らかな白い肌と綺麗な横顔を飽きずに見つめた。

 ひびの入った窓の外を見ると、月が凍えるように綺麗だった。


 ※
  

「 I  love  you……   」

 雷亜は現在のシャノンに向かって、昔と同じ呼び方をした。

 シャノンは眉間に皺を寄せ

「その言葉を二度と俺に言うな!」

 と言った。

「ご、ごめん……」

 内から自然に湧いてきた気持ちだったが、シャノンがそう言うのなら、これからはその気持ちを偽らなければならない。

 雷亜は視線を落とした。
 貰ったソーダ水を飲み干しても腹はちっとも満たされなかった。









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