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方舟
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──そうだ!俺は今まで他人が不快な想いをしないようにとしか考えて来なかった。
──でも、それだけではお互い何も変わらない。
──これは自分のためだけじゃない!
──二人が変わるための一つの儀式なんだ!
そう決意し、雷亜は拳を振り上げた。
──変わる
──ために
──必要なら……
この拳を白面の美貌に叩き付ける!!
だが、そんな気持ちで振り上げた拳は寸前で軌道を外し、雷亜はそのままシャノンの前に躓いた。
その代わりに白磁の頬に触れたのは、拳ではなく桜色に染まった二枚の花弁。
綿毛が風で舞い上がり、たまたま頬に当たっただけのような柔らかで微かな一瞬。
触れたか触れないか分からない程度の口付けを、雷亜は拳の代わりにしてしまっていた。
紫の瞳がゆっくりと開き、雷亜を静かに映した。
咄嗟にした自分の行動がよく分からなくて、雷亜は唇を押さえたままその場で固まってしまった。
「──おい……」
「……は、はい!」
「……なんなんだ? 今のは……?」
地の底から這い出してくるような低い声でシャノンが訊いた。
(お、お、怒ってる━━?!)
雷亜は両手で口を塞ぎ、身を縮こませた。
静謐な紫の瞳は暗く、夜の湖のような底の分からない恐ろしさがあった。
「な、な、殴られるより、こっちの方が君の場合は嫌かと思って──」
夜の湖に映し出された月光がこちらを静かに見ている。
底冷えするような寒さを腹の底から感じ、雷亜は咄嗟に目を反らした。
「だ、だってさ。あれだけベッドで……したんだよ……それでも一度も、キスをしてないんだから、この汚い顔にキスされた方が、君にとっては嫌なんじゃないかな、と思って……お、お仕置きはキツイ方が効果あるだろ!……だ、だから……やってやったんだ!ど、どうだ!参ったか!!汚い顔にキスされて、気分が悪いだろ!ざまあみろ!!」
雷亜はのけ反って言った。
すると、シャノンが益々深刻そうに暗い空気を背負いながら俯いて行く。
その姿を見るにつけ、自分にキスをされた事がそこまで嫌だったのかと思うと、雷亜の気も落ち込んだ。
「…………バカ……。こんなのキスのうちに入る訳ねぇだろ?」
ぼそりとシャノンが言った。
「──えっ……?あ、ま、まあ……そうだろうけど……」
言われてみれば、ここはアメリカ。頬っぺにキスなんか挨拶みたいなものだ。
「そ、それでも、俺にとっては初めての……キスな訳で……」
俺の初めてなんかどうだっていいだろうに、それでも拘るのは、試合後のパーティーで女の子とキスをしていたシャノンの画像が頭の中にちらついているからだ。
「こんなキスでも俺にとったら初めて好きな人にしたキスなんだ!
だから……、君がどう思おうと俺には特別……」
と、そこまで言った所でふと、顔を上げてみたら、苦し気に唇を噛み締めるシャノンと目が合った。
「どうしたの?」
と訊ねた途端、右手を強く引かれ、前のめりになった。慌てて体を支えようと左手が床を着いたが、尽かさず後頭部をぐっと掴まれ、次の瞬間、唇を柔らかな感触が覆った。
──でも、それだけではお互い何も変わらない。
──これは自分のためだけじゃない!
──二人が変わるための一つの儀式なんだ!
そう決意し、雷亜は拳を振り上げた。
──変わる
──ために
──必要なら……
この拳を白面の美貌に叩き付ける!!
だが、そんな気持ちで振り上げた拳は寸前で軌道を外し、雷亜はそのままシャノンの前に躓いた。
その代わりに白磁の頬に触れたのは、拳ではなく桜色に染まった二枚の花弁。
綿毛が風で舞い上がり、たまたま頬に当たっただけのような柔らかで微かな一瞬。
触れたか触れないか分からない程度の口付けを、雷亜は拳の代わりにしてしまっていた。
紫の瞳がゆっくりと開き、雷亜を静かに映した。
咄嗟にした自分の行動がよく分からなくて、雷亜は唇を押さえたままその場で固まってしまった。
「──おい……」
「……は、はい!」
「……なんなんだ? 今のは……?」
地の底から這い出してくるような低い声でシャノンが訊いた。
(お、お、怒ってる━━?!)
雷亜は両手で口を塞ぎ、身を縮こませた。
静謐な紫の瞳は暗く、夜の湖のような底の分からない恐ろしさがあった。
「な、な、殴られるより、こっちの方が君の場合は嫌かと思って──」
夜の湖に映し出された月光がこちらを静かに見ている。
底冷えするような寒さを腹の底から感じ、雷亜は咄嗟に目を反らした。
「だ、だってさ。あれだけベッドで……したんだよ……それでも一度も、キスをしてないんだから、この汚い顔にキスされた方が、君にとっては嫌なんじゃないかな、と思って……お、お仕置きはキツイ方が効果あるだろ!……だ、だから……やってやったんだ!ど、どうだ!参ったか!!汚い顔にキスされて、気分が悪いだろ!ざまあみろ!!」
雷亜はのけ反って言った。
すると、シャノンが益々深刻そうに暗い空気を背負いながら俯いて行く。
その姿を見るにつけ、自分にキスをされた事がそこまで嫌だったのかと思うと、雷亜の気も落ち込んだ。
「…………バカ……。こんなのキスのうちに入る訳ねぇだろ?」
ぼそりとシャノンが言った。
「──えっ……?あ、ま、まあ……そうだろうけど……」
言われてみれば、ここはアメリカ。頬っぺにキスなんか挨拶みたいなものだ。
「そ、それでも、俺にとっては初めての……キスな訳で……」
俺の初めてなんかどうだっていいだろうに、それでも拘るのは、試合後のパーティーで女の子とキスをしていたシャノンの画像が頭の中にちらついているからだ。
「こんなキスでも俺にとったら初めて好きな人にしたキスなんだ!
だから……、君がどう思おうと俺には特別……」
と、そこまで言った所でふと、顔を上げてみたら、苦し気に唇を噛み締めるシャノンと目が合った。
「どうしたの?」
と訊ねた途端、右手を強く引かれ、前のめりになった。慌てて体を支えようと左手が床を着いたが、尽かさず後頭部をぐっと掴まれ、次の瞬間、唇を柔らかな感触が覆った。
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