Broken Arrows

蓮華空

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勝負

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 それは泣いても喚いても、どうにもならないことを知っていたからだ。

 今だってその考えは変わらない。

 だけど、シャノンの腕の中で泣いてからは、思った以上に体が軽い。鉛のように沈殿していた負の心は、シャノンを想う気持ちが熱く滾れば滾るほど、形を失い溶かされていった。

 シャノンが頭をくりくりと撫で回す感触がとても心地良かった。

「あ、有り難う。──大分、気持ちが和らいだ」

 雷亜は身を起こしてシャノンから離れた。

 そろそろ達也の朝食を準備しなくてはいけない時間だ。

「そうか、なら良かった」

 シャノンの優しい声音を聞くだけで、また懐に飛び込みたい気持ちになったが、いつまでも甘えてはいられない。

「朝食を準備するからここで待っていてくれる?」

「ああ」

「じゃあ、ちょっと待っててね」

 雷亜は慌ててキッチンへと向かった。

 

 
 キッチンへ入ると既に達也がトレーニングから帰っていた。すっかりシャワーも浴びたようで、冷蔵庫からレモネードを取り出しながら、「何で飯がまだ出来ていないんだ!」と、怒られた。

「ごめん!今すぐ準備する!」

 雷亜は鍋に火をかけコンソメスープを作った。あとは簡単なチーズオムレツでいいや、と卵を軽快に割っていく。

「そういえば、お前さー。ジョージに腕十字決めて逃走したんだって?それって今日あたりかなりヤバイぞ」

「──えっ?!」

(そうだ!忘れてた!)

 パーティーの一件から重ねてジョージを怒らせてしまった事に気付いた雷亜は今更ながら青ざめた。

「ど、どうしよう……」

「学校を休むとか無しだからな!お前の家は何処かと聞かれたら、俺とお前が同じ家に住んでるってバレちまうだろ!大人しくジョージの気の済むようにさせておけよ!」

 雷亜はガックリと肩を落とした。

「お手柔らかに苛めて下さいって言ったら手を弛めてくれるかな?」

「無理だね。あいつのプライドを傷付けたんだ。ああなるとジョージはしつこいぞ」

 雷亜はこれまでに無いくらい大きな溜め息をついた。





 雷亜は学校が始まるギリギリの時間に登校した。

 駐輪場に自転車を停め、周囲に気を配りながらこそこそと教室に向かう。

 ジョージとジョージの息のかかったアメフト部に出会ったら、即座に血祭りに遭いそうだ。

 雷亜は緊張しながら勇気を振り絞り、ポケットに入っているスマホをぎゅっと握り締めた。

 スマホの中にはシャノンと一緒に撮った写真が一枚入っている。

 朝食を持って自室に戻った雷亜に、シャノンが撮ろうと言ってきたのだ。

 余りにも唐突な話に雷亜が呆然としていると、「お前のアルバムって、景色ばかりで誰も写ってないのな。仕方がねぇーから、一枚だけ一緒に撮ってやるよ」と言ってきたのだ。

 雷亜は仰天して朝食のトレーを落としそうになった。

「い、一枚……おいくらで?」

 と、訊いたら頭を叩かれた。

「友達から金なんか普通取らねえだろ」

 と言われ、雷亜の心は天まで登りつめた。

 ──友達……友達……友達……

 同じ単語が脳内で延々と木霊した。

 聞き間違いじゃない……。シャノンは今、雷亜の事を友達と言ってくれた。

 その響きにワナワナと震えながら立ち尽くしていると、雷亜のスマホを操作して、シャノンは自分の番号とアドレスを登録してくれた。

 これがどれだけ雷亜の心に勇気を与えてくれたか……。

 シャノンの番号と自撮りした二人の写真が雷亜のスマホに入っているのだ。これはもう御守りと言っても良いだろう。


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