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シャノンの過去
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その日の夜。
雷亜は疲れた体を癒すように、自室のベッドに横たわり、今日1日の出来事を振り返っていた。
暫くは奴隷生活が待っていると覚悟をしていたのに、宇辰やシャノンの介入でその運命が大きく変わった。
その事実が雷亜の中で、一つの価値観を変えた。
今までの自分は、自分さえ我慢すればいいと思っていた。でも、それは結果的に誰の為にもならなかった。
そういえば昔、武を志す者に必要な心構えをお師匠さんから聞かされたことがある。
『結』が根底にあり、『本』がくるものは、『逆』であり、『虚』となる。
『本』が根底にあり、『結』となるのは、『順』であり、『実』となる。
どういう事かと言うと、
『結果が先にあって、そこに本心を置いて行動していては、何も得られない。
本心が先にあって、出た結果は全てが順当であり、実となるものである』
という意味だ。
思えば、自分さえ我慢すれば……なんて考えはまさしく結果を念頭に置いた考えだった訳で……。それは即ち、自分の殻に閉じ籠っていただけに過ぎないのだ。
自分は一体、何と比べて劣等感を抱いていたのだろうか?
幼い頃、最初に体験した空手の試合からだろうか?
負けた瞬間。父の渋い顔がずっと脳裏に刻まれて離れない。その日から、『──負けちゃいけないんだ!』という感覚がずっと雷亜の体を支配していた。
負けちゃいけないのなら、極力、勝負はしないこと、喧嘩はしないこと。
そんな決まりがずっと自分の中で固まっていたのだ。
でも、今日は不思議と体を動かすことが出来た。あれは、勝負することに意味があるとシャノンが言ってくれたからだ。だから、勝とうが負けようが、その先の事は考えず全力を出し切れた。すると、心も身体もスッキリとしてとても気持ちが良かった。それに呼応するかのように、雷亜の人間関係も変わった。
嘘のように心が軽くて、今は不思議な気分だった。
『本』が根底にあり、『結』となるのは『順』であり、『実』だ。
本当にそんな感じがした。
『心だ。心こそ、整えなさい──あとは身を任せるだけ』
そう言ったお師匠さんの言葉を今更ながら雷亜は噛み締めていた。
そんな事を考えながら、眠りに付こうと布団を被った時だった。不意に誰かがコツコツと窓を叩いた。
雷亜は起き上がり、ベッド横の狭い窓を少し開けてみて驚いた。
シャノンが居る。
「ど、どうしたの?」
「ちょっと中に入れてくれないか?」
「あ、うん。ちょっと待ってて、すぐ行く」
雷亜は達也に気付かれぬようシャノンを室内に迎え入れた。
結局、あの勝負から達也とはずっと口もきいていない。後で散々文句を謂われる覚悟をしていたのだが、達也は冷たい表情のまま、目も合わせては来なかった。相当怒っているのかもしれない。
「ど、どうぞ。いま、飲み物持ってくるね」
ソファーにシャノンを座らせると、雷亜はキッチンに向かおうと踵を返した。
「いや、いいから。ここに座ってくれ」
そう言ってシャノンは隣のスペースを指差した。そこに座れと言うことらしい。いつにも増して美しく綺麗にブローされたさらさらのプラチナブロンドが目元にかかり、その奥から覗く紫水晶の瞳がこちらを見ている。
その顔がとても魅力的過ぎて、雷亜はギクシャクしながら、シャノンの隣に座った。すると、直ぐ様、シャノンが雷亜の肩に頭を乗せ、もたれかかってきた。
雷亜は慌てた。これは一体、どういう事なんだろう?ふわりとしたシャノンの髪が頬に触れると、途端に胸がきゅっと苦しくなる。さらにシャノンから香ってくるシャンプーのいい香りが、雷亜の頭をくらくらさせた。このままでは正気を保てず、シャノンに失礼な事をしてしまいそうで、雷亜は拳をぎゅっと握り締めた。
そんな雷亜の苦労を知ってか知らずか、シャノンは握り締めていた拳に手を重ねると、雷亜の指をこじ開けようとしてくる。
堪らず雷亜は「あの……」と声をかけた。
「俺は強い奴が好きだ」
突然、意味の解らない言葉を投げられ戸惑う雷亜。
「そ、そう……」
とだけ取り敢えず答えて、何を言いたいのか必死に考えてみたがよく解らない。そうこうしているうちに拳を広げられてシャノンの指が指に絡み付いてきた。心臓の鼓動が早くなる。
「お前に初めて会った時、お前はずっと俺に同じ事を言い続けていたよな」
言われてみてはっと気付いた。そう──I love youだ。でも、その頃はまだ英語を話せなかったから、兎に角、知っている英語を繰り返しただけだ。
「いや……あの……。だからそれは……」
何と説明したらいいのか解らなくて、おろおろしていたら、シャノンの方から話を続けた。
「あんなことを初めて会った奴に言われて、俺はお前の事を胡散臭せー奴って思ってた……」
そりゃそうだ、と肩を落として視線を下に向ける。
「……でも、何故かな?鬱陶しいから俺に構うな!と怒りさえ沸いていたのに、気付けば俺は泣いていた」
確かに、あの時のシャノンは泣いていた。紫水晶の瞳から宝石のような涙をと目処もなく流してた。とても綺麗な涙だと思った。
「──何故、泣いているのか自分でもその時は解らなかった。でも、後から思い返してみると、愛していると言いながら、俺の行動を咎めたのはお前だけだった事に気付いた」
寂し気な声のトーンが雷亜の視線をシャノンの横顔に向かわせた。
やっぱりシャノンにも暗く寂しい過去があるんだと思った。じゃなきゃ、あの歳で海になんか身を投じたりしないだろう。
雷亜は疲れた体を癒すように、自室のベッドに横たわり、今日1日の出来事を振り返っていた。
暫くは奴隷生活が待っていると覚悟をしていたのに、宇辰やシャノンの介入でその運命が大きく変わった。
その事実が雷亜の中で、一つの価値観を変えた。
今までの自分は、自分さえ我慢すればいいと思っていた。でも、それは結果的に誰の為にもならなかった。
そういえば昔、武を志す者に必要な心構えをお師匠さんから聞かされたことがある。
『結』が根底にあり、『本』がくるものは、『逆』であり、『虚』となる。
『本』が根底にあり、『結』となるのは、『順』であり、『実』となる。
どういう事かと言うと、
『結果が先にあって、そこに本心を置いて行動していては、何も得られない。
本心が先にあって、出た結果は全てが順当であり、実となるものである』
という意味だ。
思えば、自分さえ我慢すれば……なんて考えはまさしく結果を念頭に置いた考えだった訳で……。それは即ち、自分の殻に閉じ籠っていただけに過ぎないのだ。
自分は一体、何と比べて劣等感を抱いていたのだろうか?
幼い頃、最初に体験した空手の試合からだろうか?
負けた瞬間。父の渋い顔がずっと脳裏に刻まれて離れない。その日から、『──負けちゃいけないんだ!』という感覚がずっと雷亜の体を支配していた。
負けちゃいけないのなら、極力、勝負はしないこと、喧嘩はしないこと。
そんな決まりがずっと自分の中で固まっていたのだ。
でも、今日は不思議と体を動かすことが出来た。あれは、勝負することに意味があるとシャノンが言ってくれたからだ。だから、勝とうが負けようが、その先の事は考えず全力を出し切れた。すると、心も身体もスッキリとしてとても気持ちが良かった。それに呼応するかのように、雷亜の人間関係も変わった。
嘘のように心が軽くて、今は不思議な気分だった。
『本』が根底にあり、『結』となるのは『順』であり、『実』だ。
本当にそんな感じがした。
『心だ。心こそ、整えなさい──あとは身を任せるだけ』
そう言ったお師匠さんの言葉を今更ながら雷亜は噛み締めていた。
そんな事を考えながら、眠りに付こうと布団を被った時だった。不意に誰かがコツコツと窓を叩いた。
雷亜は起き上がり、ベッド横の狭い窓を少し開けてみて驚いた。
シャノンが居る。
「ど、どうしたの?」
「ちょっと中に入れてくれないか?」
「あ、うん。ちょっと待ってて、すぐ行く」
雷亜は達也に気付かれぬようシャノンを室内に迎え入れた。
結局、あの勝負から達也とはずっと口もきいていない。後で散々文句を謂われる覚悟をしていたのだが、達也は冷たい表情のまま、目も合わせては来なかった。相当怒っているのかもしれない。
「ど、どうぞ。いま、飲み物持ってくるね」
ソファーにシャノンを座らせると、雷亜はキッチンに向かおうと踵を返した。
「いや、いいから。ここに座ってくれ」
そう言ってシャノンは隣のスペースを指差した。そこに座れと言うことらしい。いつにも増して美しく綺麗にブローされたさらさらのプラチナブロンドが目元にかかり、その奥から覗く紫水晶の瞳がこちらを見ている。
その顔がとても魅力的過ぎて、雷亜はギクシャクしながら、シャノンの隣に座った。すると、直ぐ様、シャノンが雷亜の肩に頭を乗せ、もたれかかってきた。
雷亜は慌てた。これは一体、どういう事なんだろう?ふわりとしたシャノンの髪が頬に触れると、途端に胸がきゅっと苦しくなる。さらにシャノンから香ってくるシャンプーのいい香りが、雷亜の頭をくらくらさせた。このままでは正気を保てず、シャノンに失礼な事をしてしまいそうで、雷亜は拳をぎゅっと握り締めた。
そんな雷亜の苦労を知ってか知らずか、シャノンは握り締めていた拳に手を重ねると、雷亜の指をこじ開けようとしてくる。
堪らず雷亜は「あの……」と声をかけた。
「俺は強い奴が好きだ」
突然、意味の解らない言葉を投げられ戸惑う雷亜。
「そ、そう……」
とだけ取り敢えず答えて、何を言いたいのか必死に考えてみたがよく解らない。そうこうしているうちに拳を広げられてシャノンの指が指に絡み付いてきた。心臓の鼓動が早くなる。
「お前に初めて会った時、お前はずっと俺に同じ事を言い続けていたよな」
言われてみてはっと気付いた。そう──I love youだ。でも、その頃はまだ英語を話せなかったから、兎に角、知っている英語を繰り返しただけだ。
「いや……あの……。だからそれは……」
何と説明したらいいのか解らなくて、おろおろしていたら、シャノンの方から話を続けた。
「あんなことを初めて会った奴に言われて、俺はお前の事を胡散臭せー奴って思ってた……」
そりゃそうだ、と肩を落として視線を下に向ける。
「……でも、何故かな?鬱陶しいから俺に構うな!と怒りさえ沸いていたのに、気付けば俺は泣いていた」
確かに、あの時のシャノンは泣いていた。紫水晶の瞳から宝石のような涙をと目処もなく流してた。とても綺麗な涙だと思った。
「──何故、泣いているのか自分でもその時は解らなかった。でも、後から思い返してみると、愛していると言いながら、俺の行動を咎めたのはお前だけだった事に気付いた」
寂し気な声のトーンが雷亜の視線をシャノンの横顔に向かわせた。
やっぱりシャノンにも暗く寂しい過去があるんだと思った。じゃなきゃ、あの歳で海になんか身を投じたりしないだろう。
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