異世界で婚約破棄されましたが隣国の獣人殿下に溺愛されました~もふもふ殿下と幸せ子育てパラダイス~

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2.「奇跡の花~神子になって大陸を救おう~」とは

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 恋愛シミュレーションゲームである。

 マルベーこと、天田(あまだ)健人(けんと)(前世の名前)は今でもよく覚えている。「奇跡の花~神子になって大陸を救おう~」(通称キセハナ)とアニメの題名そのままだった。
 当時、大ヒットしたゲームアプリがアニメ化!と触れ込みで、健人はそこでゲームの存在を初めて知った。

 大小様々な国がひしめくロード大陸の一つ、ウィダード王国。そこに神子として生まれた主人公が、様々な相手と恋愛をしていく、というのが概要だった。
 設定としては男女性からバース性(アルファ、ベータ、オメガ)が存在し、そこにファンタジー要素が取り入れられていた。それが獣人。

 昨晩、マルベーに婚約破棄を言い渡してきたのは、灰色狼族の第二王子カルロ。この世界では人間のオメガは獣人の子を孕みやすい、というのが通説らしく、オメガ性であるマルベーが婚約したのは数年前。
 学園を卒業してぷらぷら(ニート)していた時だった。

「ま、それも昨日でおじゃんよ~」

 部屋に軟禁されたマルベーは、独りごちる。昨日、ショックで錯乱した母親に、部屋にぶち込まれたのだ。頭を冷やせと言われたが、落ち着くのは母親の方だろう。いつものツンと済ました顔はどこに行ったのか、化粧が剥げ落ちるほど号泣していた。

「何を呑気にしてるんですか……」

 マルベー一人では無かった。ヴァロワ家の騎士、ラファイエットがいた。家紋を表す刺繍が眩しい、イタチ族出身の28歳。マルベーの二つ下で、ほぼ兄弟同然に育った。

「怒ってる? 尻尾出てるよ」

 マルベーの指摘に、ラファイエットがはっと後ろに手を回す。この世界に馴染むにつれて、アニメでは知り得なかったローカルルールにも順応していった。

 獣人は完全に獣の姿になることもできるが、それを晒すのはごく親しい身内のみ、とか。普段耳とか尻尾を見せるのは高貴な人だけで、他は完全に人間の姿で過ごすのがマナー、などなど。

「……少しは自重してください」
「でもなぁ、もう過ぎたことだしさ。しょうがなくない?」

 疲れたように、ラファイエットが目頭を揉む。苦悶した顔も様になるなと、マルベーはまた現実逃避をしていた。

 兄弟のように育った騎士は、明るい茶髪に黒い瞳の美青年だった。すっと通った鼻筋など特に美しく、女中とかがよく騒いでいる。
 騎士の制服が映える体格もヨシ。家の階級もそこそこ。どうしてこんな良い男が、こんな歳まで未婚なのか……

「今朝、旦那様が意識を取り戻されました」
「マジ? 良かった~」

 マルベーの表情と反比例するように、ラファイエットは暗くなる。

「……マルベー……この歳まで、それもオメガで未婚って、どれくらいヤバいか分かってるのか?」
「いや、それお前にも言えることやん。俺はこの虚言で売れ残るのは分かるけどさ~、お前はなんかよっぽど変な性癖あんの?」

(三十の未婚で責められるとか、前世だったらあり得ないから)

 二人っきりで口調が砕けても、小言は続く。何か言いたげに、頭をくしゃくしゃにされて、笑い声を上げた。

「お前、顔は良いんだから。それにその、あー……虚言さえ無かったら、良い奴だって俺は分かってる」
「でも地味なんだよな~」

 卓上の鏡台に映し出されたのは、どこにでもいそうな、年相応の青年。母親譲りの黒髪に、父の青い目を持って生まれたが、いまいちパッとしない。おそらく華やかさが無いせいだろう。
 健人の時はただのベータで、イケメンでも無かったのに。記憶を取り戻す過程で一番ショックだったのは、オメガなのに美しさが備わっていなかったことだ。

「お前の良さを分かってくれる人はきっと現れるから」
「そんなことよりさ~、移住しない?」

 騎士の憐憫をよそに、マルベーはこの先の未来を思案していた。

「移住、移住ってお前なぁ」
「本気だよ。ウィダード王国に行こう」

 深夜アニメを食い入るように見ていた健人時代。サラリーマンだったが、常に金が無かった。当時の彼女には大企業のエリートだと嘘をついて、高級外車で送り迎え、オーダーメイドのスーツ、時計、食事にホテル代、全て払っていた。
 いくつもの消費者金融から限度額いっぱいまで金を借りて、見栄を張っていた。そうして無理して借りた、麻生十番のマンションで楽しんでいたのは、無料のコンテンツ。それが深夜アニメ。

 キセハナも最初は全く興味は無かったが、無料だったので楽しんだ。

『おんどりゃ~、人のスケに何いてこましとんねんっ!!』
『ひぃぃ~』

 健人時代は、長く続かなかった。付き合っていると思っていた彼女には本命がいて、それもコテコテの反社。今時聞いたこともない台詞に、柄の悪そうな入れ墨を入れた男と、マンション前で揉み合いになった。

『っぁ……』

 ド突かれて、健人は道路に飛び出した。ちょうどそこを走ってきたスポーツカーに撥ねられて……

「……べー、マルベー!」
「……ん? あ、ごめん、ぼーっとしてたわ」

 オルデム国ヴァロワ公爵家三男として、第二の人生を歩むことになった。

「もう良いよ、いつものことだしな」
「悪い、悪い。で、なんだっけ」
「だから、なんでウィダード王国なんだ? 親戚もいないし、あの国とうちはあまり交流無いだろう」
「うーん……? この国、あと数年で侵略されるから」

 騎士はまたその話か……と呆れた顔になる。もう何回も言っているが、前世の虚言癖が直らず、まともに取り合って貰えた試しがない。

「あり得ない。アルテナードだろ?  お前の嘘が今のとこ大事になってないのはね、しょうもないことばかり言ってるからだ。でもこれ以上吹聴すれば、外交にだって響く可能性があるんだぞ?!」
「ホントなんだけどな~」

 マルベーとして生まれた境遇は、前世より何倍も良かった。肥沃な土地を持ち、領民に慕われる公爵家。金は使いたい放題だし、三男で跡取りとしての期待もされてないから自由にできる。

 でもこの自由は、期限があった。

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