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3.父からの宣告
しおりを挟む「まぁ、じゃあ俺の話はいいから。とにかく二人で移住してさ、後で親呼び寄せるとかどうよ?」
健人時代、アニメは二期までしか見れなかった。ちょうど、神子と恐王ティメオのルート序盤だった。
キセハナは、神子が自国の王子や騎士、商人など、様々な男性と恋愛を楽しむのだが、最終ラスボス?と言えばいいのか、最恐の男が現れる。
それがオルデム国のお隣、アルテナードの獣人殿下ティメオである。
※オルデム国、アルテナード、ウィダード王国は三つの団子みたいに並んでいて、アルテナードの両脇に、それぞれオルデム国とウィダード王国が配置されている。
「正気に戻れ」
ラファイエットにはねつけられて、がっくりと肩を落とす。なら自分だけ移住するか? 親や兄弟同然の騎士を置いて?
(そんなことできるわけない)
こんなことになるなら、虚言癖をどこかで直しておくべきだった。マルベーは一瞬悔いたが、頭を切り替えた。しょうがない。記憶を取り戻すより先に、虚言が出ていたのだ。
(魂に刻みこまれてるんだな~、これは個性だね)
「いつだって正気だよ」
「だったらなんで、虚言が直らないんだ……」
疲弊した様子のラファイエットに、隣国の様子を尋ねることにした。
「じゃあさ、隣国のティメオ殿下って? やばい奴って聞くけど」
「……っ、それは……」
神子が終盤に出会う獅子王ティメオ。この男はストーリー的に、恐怖一色で塗り潰されている。殿下時代、悪妻だったらしい自分の妻が死ぬと(多分殺した)、王都を襲撃。宮殿に乗り込むと、自分の父親であり、現陛下を惨殺。同じように后もぶっ殺して、宮殿を血の海に染めた――
「生まれたばかりの頃、乳母をかみ殺したとか」
「噂だ」
「北の蛮族が襲撃した時とか、首狩ってアクセサリーにしたって?」
「馬鹿げてる」
キセハナの展開として、ティメオは宮殿にいた人間を皆殺しにすると、戴冠式を行った。陛下になったティメオは野心のまま、まずは小国のオルデム国に手を伸ばす。
あっという間に隣国を侵略し、併合に成功する。そうしてウィダード王国を我が物にしようと――国のために献上された(自ら志願した)神子に出会うのだ。
美しい、無垢で純粋な神子の心に触れたティメオは、本物の愛を知る――
(って、序盤しか見てない。あの二期、なんであんな中途半端に終わらせたんだ? )
人を信じられず、戦い、支配することしかできなかったティメオ。そんな残酷で残忍な男が美しい神子に出会い、狂信的なとも言える愛を捧げる――
(って、俺は記憶力が良いからね。煽り文句覚えてるよ。先は見てないけどあれだろ? 打算的じゃない純粋無垢な神子の行動でティメオが改心して、ラブラブハッピーエンドってな。だったらその間に滅ぼされるウチの国はどうなるわけ???)
虚言から培われた記憶力も、モブとして転生すれば、何の役にも立たない。神子(主人公)からすれば、よく分からん小国が滅びようと痛くもかゆくもないだろう。アニメでは、教会で静かに涙を流す神子のドアップが多かった。
(どうして神子じゃないんだよ!!)
前世でも、人に注目されたくて、嘘を吐き続けていた。マルベーからすれば、神子の立場は喉から手が出るほど欲しい。
(あぁ~~、神子になりてぇ)
名も無きモブに転生した今、叶わぬ願いを心の中で叫ぶ。どうにかして死なずに済む方法は無いか。とりあえず王子との婚約は解消したから、少しは死亡フラグから遠のいたはずだ。
悶々としていた時だった。ドアをノックされて「旦那様がお呼びです」と女中の声。
「はーい、ありがとう!……すぐ行きまーす」
「おい、だからな」
またラファイエットが小言を言う。貴族としての礼儀とか、マナーとか、下々の者に気安い口調で話しかけるなとか、いつもお守り役の騎士はうるさい。
「親父なんだろう。起きて説教とか、意外と元気だよな」
「……とにかく。お前は大人しくしてろよ」
前世では零細企業のサラリーマンだったのだ。キセハナの階級社会には、いまだに慣れない。
「……しっつれいしまーす」
ラファイエットと一緒に書斎に入ると、ヴァロワ公爵は卓上に両肘を付いていた。有名な某アニメ、ゲ○ドウポーズを思い出す。マルベーは笑いを誤魔化すように咳き込んだ。
「んんっ……あー。お父様……体調は……?」
「実に良い」
「左様ですかぁ」
(なんだ。深刻な顔してる割には元気じゃん)
余計なことは言わないよと、ラファイエットに目配せをする。沈黙の降りた室内で、厳かに名前を呼ばれた。
「はい」
「お前を……婚約破棄となり傷物となったお前をだ。ぜひ息子の嫁にと、手紙を頂いた」
「えぇ……」
(また!? あの浮気王子と同じパターンじゃん。親だけ乗り気……てことは相手、獣人?)
「えー……どちらの……方?」
父親は羊皮紙の手紙を出してきた。紅い封蠟がチラリと見えて――獅子の紋章。マルベーの背中に電流が走ったようになった。
「え、うそっ、ちょっと待って、おやじっ! ねぇ――」
(やばいっ!)
マルベーが詰め寄ろうとしたが、遅かった。ヴァロワ公爵は声高々に、宣告した。
「隣国アルテナードの第一王子、ティメオ・ブラン・ド・ラ・コンラディン様へ嫁いで貰う。アルテナードの陛下は、オメガのお前を是非にと、熱心なお手紙を頂いた――断れな」
「嫌だ~~~~!!!!」
息子の叫び声が、父親の声をかき消した。
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