異世界で婚約破棄されましたが隣国の獣人殿下に溺愛されました～もふもふ殿下と幸せ子育てパラダイス～

10.良妻賢母作戦

　マルベーが目を覚ましたのは、昼をとうに過ぎた時間だった。いつの間にかベッドで寝ていたらしい。がばりと顔を上げると、部屋は静まり返っていた。
　咄嗟に首を確認する。

（つながってる……）

　ほっとして、侍女を呼んだ。おそるおそるティメオの様子を聞くと、朝早く、中庭に向かったということだった。騎士達の朝練に参加したらしい。

（とりあえず生きてるから、二度寝しようかな）

　昨晩は結局、肌に触れることもなく一晩を過ごした。ソファで眠りこけるティメオにためらいながらも、膝枕をして……

（ベッドに移動した記憶がない……）

　ティメオが運んだのだろうか。部屋に入れず、何時間も廊下に突っ立っていた男が？

「……」

　目が冴えていたので、仕方なく起き上がる。洗顔のお湯や朝食が運ばれる中、これからの良妻賢母計画を思案した。

（これから手作りランチをバケットに入れて、中庭に行こうかな……夫を支える、清楚アピールをして……）

　朝食どころか、昼食も過ぎた時間、もそもそパンを口に入れると、マルベーは「神子」の行動を羊皮紙に書き出していった。

（神子っぽい行動していけば、殺されない気がする）

　アニメでは、神子は聡明で美しいが純粋無垢で人を信じやすく、無欲で自己犠牲精神の塊と設定づけられていた。
　早朝から起床すると、祈りを捧げて街に出る。美しく聡明な神子は市民に好かれていて、誰からでも声をかけられるのだ。

（怠い、怠すぎる。俺はいつも昼過ぎに目覚めるよ）

　一日のルーティンを真似るのは、ハードルが高すぎる。アニメで発生したイベントを書き出していった。

　・国の干ばつ対策をする
　・国境に出る魔物退治に、的確な助言をする
　・アルテナード侵略時、国のためにティメオに献上される……

（……面倒くさいな）

　書き出すのはどれも、マルベーとは縁遠いものばかり。神子という立場で国政に口出しをするのは、「設定」でお膳立てされているからだ。

（俺にはどうすることもできないよ……）

　だけど死にたくはない。殺されたくない。一生贅沢して暮らしたい……何か無いかと、ひねり出していた時だった。

（花！！！！）

　神子が摘んでいた花を思い出した。アルテナードに連行されて、涙を流しながらも気丈に振る舞っていた神子が、気休めに庭の花を摘むシーンが序盤にあった。
　そっと一輪、花を摘んだ神子に、ティメオは瞠目する。なんで驚いたのか、アニメが（以下略）だから知らないが、花が重要なのだ。

「マルベー様？」
「ちょっと外出てくるわ～」

　侍女を置いて、外に飛び出した。中庭に、植物園ばりの手入れされた場所があったはずだ。騎士達が鍛錬する間、そこでこれ見よがしに花を摘もう。

（これでティメオも俺に惚れてくれるはず）

「やった～！」

　光が見えた気がした。スキップしながら、庭に向かった。