異世界で婚約破棄されましたが隣国の獣人殿下に溺愛されました~もふもふ殿下と幸せ子育てパラダイス~

mochizuki_akio

文字の大きさ
21 / 47

20.異能発揮

しおりを挟む

「……何を仰っているのか! 言い掛かりはやめたまえ!」
「言い掛かり?! これだけの事が起きているのに、シラを切るな!」
「なんだと!!」

(えぇ……何あれ……)

 揉めているのは、アルテナードの大使とウィダード王国の大使だった。酒を飲んでいたのか、二人ともグラスを持っていた。

「行方不明者が毎日出ているにも関わらず! 賊一人捕まえられずに何をしているのか!」
「それはウィダード王国とて同じことだろう! だいたいうちは警備隊の強化もしている! 何も成果も上げられていないのはそちらだろう!」
「なんだと?!」

(あれ、辺境伯の分家か……)

 宰相の家とつながりのある家の大使だった(ティメオの実家はお取り潰しになっているため、小さな傍系が残っているのみ)

「行方不明者が今も出ている状況なのに!」
「だったらそちらが解決しろ! 国境で起きているんだぞ!!」

(やばいよ~、やばい、やばい)

 ラファイエットの手紙が届いてからも、行方不明者は毎日出ていた。今のところ、洞窟に潜んだ魔物の存在に、マルベー以外気がついている者はいない。

(どうしよう……神子は本当にいないみたいだし……)

 ラファイエットはあれから、ウィダード王国まで足を運んでくれた。届いた手紙には、神子という存在の噂は無く、神殿にもそんな人間はいないと書かれていて……

(なんでだよ、なんで神子いないんだよ。お前がこの状況を救わないなら、誰が救うんだよ?!)

 焦ってオロオロしていたが、周囲は大使同士の争いを遠巻きに見つめていた。耐えかねたのか、ティメオが一歩、足を踏み出した。

(ダメダメダメダメ。あの家は宰相の息がかかってる)

 政敵とも言える相手の喧嘩に、仲裁に入る――面倒なことが起きる。欠点の無いティメオの粗を探そうと躍起になっている連中だ。
 舞踏会の出来事を曲解して、何を吹聴するか分からない。マルベーは駆け出した。

「わ~、今日は良い天気ですね! 満月がはっきり見える!!」
「……」
「……」

 大使二人の肩を掴んで、笑顔を向ける。だいぶ酔っている二人は、そこで言葉を詰まらせた。

「ぁ……なたは、ティメオ殿下の……」
「はい~。わたくし、マルべーと申します。ついこの間、ティメオ様と晴れて夫夫となりまして~~~」
「っ、おいっ……今、大事な話を!」
「それなんですけど!!!」

 マルベーが声を張り上げる。周囲は何事かと、喧噪が大きくなった。ティメオは目を丸くしていたので、口パクで「大丈夫」と言った。

「な、なんですかっ?」

 窓から見える満月。適当なことを言ったが、これは使えるかもしれない。なんか、適当に、泊を付ける物が――

「む、むむむっ!  見えるっ! 見えるぞっ! 見えるぅぅぅ!」
「……」

 マルベーは月を見ながら、眉間に皺を寄せた。こめかみに指を当て「見える!見える!」と騒ぐ。皇太子妃の突然の奇行に、周囲はどよめいた。

「ま、マルベー様っ?」
「……実はわたくし、満月の日だけ、特別な【異能】を発揮するのです……」
「……」
「未来を見ることができる【異能】です……見えるっ……見えるぞぉ!」

 頭を振って、あと腰も振る。マルべーは前世、夏の特別ホラー番組を思い出していた。そこには霊に取り憑かれた芸能人を救おうと、有名霊媒師が登場していた。

「見える! 見えるぅぅぅ!!!」

 頭を振りすぎて、ちょっと気持ち悪くなっていた。ちらっと周囲を見ると、酔いが覚めたのか、大使二人は引いていた。

「な、何を仰って……」
「わたくしには見えます……国境付近の沿岸沿い……そこに……そこに大きな洞窟があるはずです……そこに……そこにっ! 怪物が潜んでいる!!」
「はぁ?」
「何を訳の分からないことを――」
「黙ってっ!!!」

 マルベーは一喝した。目をつり上げて、口角から唾を飛ばす様子に――こんな感じだよなと、脳内でシミュレーションをする。
 マルベーのただならぬ(演技に)雰囲気に、周囲とティメオまで、目が釘付けになっていた。

「静かにっ! 雑音が入ると、未来が見えません!!」
「っ、すみません……」
「申し訳ない……」
「……私には見えるのです……そこに……洞窟に得体の知れない怪物が潜んでいる。そのおどろおどろしい姿は……くっ、体が震えてっ」

 ちょっとよろめいて、頭を振る。離れた場所から、ユーグ夫妻がこちらを見ていた。

「怪物が商人や旅行者を襲っている……ぁあ! 見えます! 洞窟に騎士達が派遣されて、怪物を討伐する姿がぁっ!!」
「……」
「……」

 ふっと体を元に戻し、大使二人を見つめる。不可解な物を見つめる視線に悲しくなったが……

(これ以上死傷者は出ない。それに国同士ギスギスしない! 超能力者のフリ完璧!)

「大使のお二人……私は満月の日、未来を見ることができるのです。沿岸沿いを捜索してみてください。そこに怪物が――」
「馬鹿を言うなっ!!」

 キレてきたのは、アルテナードの大使だった。顔を真っ赤にして、マルべーを指さす。まるで断罪するようだった。

「貴方の醜聞は聞いている! 虚言で自国の王子と! 婚約破棄されているだろう! まだデタラメを言うのか?!」
「デタラメじゃありません! 本当に満月の日に未来が見えるんです!」
「嘘付けっ!」
「見えまぁーす!!」

 自国の大使と言い争っていると、ウィダード王国の大使が吐き捨てるように言った。

「うちは騎士など派遣しませんよ……馬鹿馬鹿しい」
「うちだって、沿岸沿いの捜索なんて陛下が許可しない!!」

(あ……そうだった……騎士の派遣が無いと……)

 キセハナでは、神子のご神託で騎士が一斉に動く。一国の軍隊を動かせるなんて、どんな立場だと思うが、それは主人公なので上げ膳据え膳。

(俺……詰んでる……)

 マルベーの【異能】で、騎士が動くことなどあり得ない。やばいなと焦った時だった。「わたしが」――凜とした声だった。マルべーの夫は、神妙な顔をしていた。

「私が陛下に掛け合って、騎士を派遣させましょう」
「ティメオ殿下……」

 絶句した大使が、忌々しそうに言った。

「殿下、貴方の妻は虚言癖だっ! デタラメばかり――」
「やめてください……私は妻を信じます」

 人を寄せ付けない声だった。きっぱりとした口調は、マルベーに向けられていた。「大丈夫」と安心させるように、頷いていてくれた。

(異能は確かに嘘だけど……信じてくれた)

 ここが舞踏会では無かったら、すぐに抱きついていた。胸が熱くなるのを感じながら―――「ありがとう」と口パクで伝える。
 照れたように、微笑まれた。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される

こたま
BL
北の大地で牧場主の次男として産まれた陽翔。生き物がいる日常が当たり前の環境で育ち動物好きだ。兄が牧場を継ぐため自分は獣医師になろう。学業が実り獣医になったばかりのある日、厩舎に突然光が差し嵐が訪れた。気付くとそこは獣人王国。普段美形人型で獣型に変身出来るライオン獣人王アルファ×異世界転移してオメガになった美人日本人獣医師のハッピーエンドオメガバースです。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています

水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。 そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。 アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。 しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった! リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。 隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか? これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

小っちゃくたって猛禽類!〜消えてしまえと言われたので家を出ます。父上母上兄上それから婚約者様ごめんなさい〜

れると
BL
【第3部完結!】 第4部誠意執筆中。平日なるべく毎日更新を目標にしてますが、戦闘シーンとか魔物シーンとかかなり四苦八苦してますのでぶっちゃけ不定期更新です!いつも読みに来てくださってありがとうございます!いいね、エール励みになります! ↓↓あらすじ(?) 僕はツミという種族の立派な猛禽類だ!世界一小さくたって猛禽類なんだ! 僕にあの婚約者は勿体ないって?消えてしまえだって?いいよ、消えてあげる。だって僕の夢は冒険者なんだから! 家には兄上が居るから跡継ぎは問題ないし、母様のお腹の中には双子の赤ちゃんだって居るんだ。僕が居なくなっても問題無いはず、きっと大丈夫。 1人でだって立派に冒険者やってみせる! 父上、母上、兄上、これから産まれてくる弟達、それから婚約者様。勝手に居なくなる僕をお許し下さい。僕は家に帰るつもりはございません。 立派な冒険者になってみせます! 第1部 完結!兄や婚約者から見たエイル 第2部エイルが冒険者になるまで① 第3部エイルが冒険者になるまで② 第4部エイル、旅をする! 第5部隠れタイトル パンイチで戦う元子爵令息(までいけるかな?) ・ ・ ・ の予定です。 不定期更新になります、すみません。 家庭の都合上で土日祝日は更新できません。 ※BLシーンは物語の大分後です。タイトル後に※を付ける予定です。

処理中です...