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33.牢屋
しおりを挟む「おーい、生きてるか」
「生きてるぞー、きょうだい!」
マルベーは声を張り上げた。隣の牢屋から「良かった……」と声が返ってくる。牢屋に閉じ込められて何日経っただろうか。最初、マルべーは(罪人とはいえ)王族のため、幽倫塔に入れるべきだと引き離されたが、ここで暴れた。
『ラファイエットと一緒じゃなかったら、コンラディン家が呪われる未来が見えるぅ!!』
しこたま暴れた結果、牢屋の隣部屋に収容された。こうして毎日、騎士と安否を確認するため、声を張り上げる。
マルベーも同じ気持ちになり、鉄格子から腕をにゅっと伸ばした。
「見える~?」
「うーん……うん?」
ラファイエットから返事が返ってきただけで良しとしよう。
「きょうだい~! 体痛いとこない? 骨折れてない?? 飯食えてる? 大丈夫?!」
「大丈夫! それよりお前は! 腹は大丈夫なのか?!」
「大丈夫~。日に日にデカくなってる!」
マルベーは腹をさすった。母親が牢屋に入れられたというのに、お腹だけは少しずつ膨らみが増していた。たまらなくなって、腹を撫で回した。
「ぁ、あの……」
鉄格子を挟んで馬鹿でかい会話をしていたら、消え入りそうな声。廊下に一人、監視役が申し訳なさそうにしていた。
「どうしたの?」
「ぁ、あの、あの……もうちょっと……声を抑えて貰えたら……」
「あ~! ごめん! ごめんね、ついラフィーが心配になっちゃって……俺たち、別々に入れられたから、俺も心細くなってさ! ごめんねぇ」
「い、いえ、あ、あの……」
マルベーは親しげに、何度も謝った。二人の監視役として派遣されてきたのは、まだ年若そうな騎士一人。おそらくラファイエットが負傷したことにより、逃亡の恐れが無いと判断されたのだろう。
マルベーも同じように、申し訳なさそーな顔をして頭を垂れる。いつもの、ユーグの前で見せたような強気な態度は出さなかった。
(上にはある程度噛みついて良いけど、下に偉そうな態度取って良い事なかったんだよね)
営業で培った能力である。足下を見てくる人間には強気に、立場が弱い人間には自販機でコーヒーを奢ったりして、鷹揚なところを見せる。ラファイエットが死にかけた時も、怒鳴りつけた親衛隊の若手にはしっかり謝っていた。
「ごめんね」
小首を傾げる。若手の監視はほっとしたような顔になった。そうして辺りを見渡すと、すっと鉄格子に近づいてきた。
「?どしたの」
「……本日、夕刻にお后様がいらっしゃると……それとユーグ殿下も……」
「まじ?」
若者は慎重に頷いた。
(なんだよ、あの後妻。なんの用だよ……)
収容されて言われたのは、汚職事件の裁判をするというものだった。でっち上げの裁判前に、王族が訪ねてくる……嫌な予感がしたが、マルベーは微笑んだ。
「教えてくれてありがとう!……後で使用人が来た時、欲しい物持ってっちゃって良いからね」
若者の顔がぱっと輝いた。皇太子妃という立場、使用人が服や食べ物を持ってきてくれる(もちろん検閲されるが)。絹の服や書籍、蝋燭など、賃金の低い若手は欲しくても買えない。マルベーはもちろん「心付け」だと言って、こっそり渡していた。
「あ、ありがとうございます!」
「いーよ、いーよ。こっちこそいつもありがとうね~♡」
(こいつ、いつか使えないかな~)
随分、懐柔した若者をじっくりと見る。ラファイエットもだいぶ動けるようだし、裁判前には逃げ出したい。マルベーは良い計画はないかと、思案していた。
(ただ逃げ出すにしても、ここの城の道案内役が欲しいし、俺が足手まといになるからな……)
ラファイエットは獣型になれば、小回りがきく。今だって、本当はイタチの姿になれば、牢屋から逃げ出せるのだ。
(ラファイエットが逃げられないのは、俺のせいなんだよな……)
悶々としていると、あっという間に夕刻を迎えた。
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