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6話
あの日をきっかけに、僕は尾白と話す機会が増えた気がした。
たまたま付けたテレビの話題や、今日の夕食の味付け、僕がいない間の尾白の暇つぶし用に買え与えた様々な本の話。どうやら尾白は、あの見た目で読書家らしい。
だがそれでも尾白は、妹を殺した憎むべき相手。だからやることはずっと変わらない。
暴力も、強姦も、ずっと続けている。
それなのに……尾白と話していくたび、尾白の事を知っていくたび。僕の心は確実に変わっていた。
「この気持ちは、一体なんだ?」
どれだけ殴っても、どれだけ犯しても、今までみたいに楽しくないし。爽快感が無い。
ただアイツと会話している時間が、一番心地よくなっていた。
「どうして……」
「オイオイ。また難しい顔してんぞ?」
「……忠継」
「なんだ?またなんかあったのか?」
「いや、別に」
「ま、いいか。最近のハジメは顔色良さそうだしな」
その言葉に、僕は動揺した。
「……そう、見えるの?」
「え?ま、まぁな?確実に前よりかは明るくなってると思うぞ?」
前より明るい?
なにそれ?どうして?
それじゃあまるで、僕が尾白了史を許してしまっているみたいじゃないか。
違う。決してそんな事はない。
だってそれじゃあ僕は、双葉を裏切ることになってしまう。
「駄目だ。そんなのは駄目だ」
「……ハジメ?」
不安が、罪悪感が、重くのしかかってくる。
僕は双葉に何もできなかった。
双葉の代わりに慣れなかった。
双葉の幸せを、全部奪い取ってしまった。
だからせめて、アイツの無念を晴らしてやることしか僕には出来ないのに。
「あ、ハジメく~ん!良かったら今からカラオケにでもっ」
「黙れ!!!!僕に近づくな!!!!」
今まで抑え込んできたものが一気に溢れ出てしまったかのような声が、その場にいた人全員を凍り付かせてしまった。
「あっ」
あぁ……。もう駄目だ。
これじゃあ、元には戻れない。
「ごめんね忠継。僕もう帰るね」
「……え?ハジメ?ハジメ!!」
僕は逃げるように大学を出て行った。
もう忠継には会えない。会いたくない。
そうだ。双葉だってずっと友達がいなくて、独りぼっちだったんだ。それなのに、僕だけ親友がいるのは間違っている。
それに双葉は大学にだって行ってない。それなのに僕だけが大学に通うなんて最初から平等じゃなかったんだ。
これでいい。
双葉の為にも、これでよかったんだ。
もう僕は大学に行かない。忠継とも縁を切る。
今はただひたすら、尾白への恨みを晴らすんだ。
「これできっと双葉も、僕を許してくれる……」
走り疲れた足で、ゆっくりとアパートの階段を上がり。ガチャガチャと乱暴に鍵を開け、勢いよくドアを閉めた。
「ハッ、ハハッ!」
今日の僕は凄くイライラしてるし、ムカムカしている。
このストレスを、今こそアイツで発散するんだ。
気が済むまで殴って蹴って、泣きながら気絶するまで犯してやる。
「ただいま。尾白さん」
「あぁおかえり。今日ははえぇな」
「はい。今日は勉強する気分じゃなかったので」
「そうか」
僕が帰ってきたというのに、未だ背中を向けたままとか……。今の尾白は気が抜けている。さっきまでの僕と同じように。
それならいっそ、このまま首を絞めてーー。
「ま、たまにはいいかもな」
その言葉に、思わず尾白の首に回そうとしていた手を止めた。
「……えっと。なにが、ですか?」
「休むのもってことだよ」
僕の方へ振り向く尾白の表情は、どこか安心しているように見える。
「テメェは色々と頑張りすぎるタイプみたいだしなぁ。俺と違って。どうせ外ではいい顔ばっかしてんだろ?だからたまには、さぼったりするのも良いんじゃねぇの?ってことだよ」
コイツは、さっきから何を言ってるんだ。
「はっ!僕が頑張りすぎているだって?いいや違う。僕は今までずっと何もしてこなかったんだ。αだから何もしなくてもちやほやされるし、いい学校にも通わせてもらえる。だから頭だって自然と良くなるし、習い事もさせてもらってたから運動能力も上がる。ごく自然の事なんだ。αだからね」
僕も、さっきから何を言っているんだ。
「でも双葉は、Ωってだけでいい学校にも通わせてもらえない。友達も出来ない。世間に冷たい目を向けられ、αには孕まされるだけの道具としか見られなかった。僕が……僕が双葉の幸せを全部奪ってしまったんだ……。僕がΩなら、きっと双葉は……」
どうしてこんなことを、よりにもよって尾白なんかに聞かせているんだろうか。
尾白は、そんな双葉の人生を奪った奴なのに……。
駄目だ。もうこれ以上コイツには、僕の情けないところは見せられない。
「すみません。ちょっと今情緒不安定みたいなんで、向こうの部屋にこもります」
溢れそうになる涙を隠すように、俯いたままその場から立ち去ろうとした瞬間だった。
尾白の手が、僕の手首をつかんで勢いよく引っ張った。
バランスを崩し、そのまま倒れ込んだ場所からは、ドクンッドクンッと大きな鼓動が聞こえてくる。
けれど別に身体からはフェロモンの匂いもしない。ということは、発情しているわけでもない。
それなのに、どうして尾白の身体はこんなに熱く。僕の心臓はどんどん早くなっているんだろうか。
これじゃあまるで……。
「黒崎ハジメ、その感情を俺にぶつけろ。酷くていい。痛くていい。だから……俺を滅茶苦茶に……」
その言葉の続きを聞く前に、僕は尾白の唇に噛みつき。そのまま吸い付くように口づけをした。
セックスは何度もしてきた。
けれど、キスをしたのはこれが初めてだった。
だってキスは、本当に好きな人とする行為だと思っていたから。
じゃあこれは……?
「んっ、ふっ……んんっ」
息が続かなくなるまで、僕達は交じり合うようなキスを続けた。
まるでお互いに求めあっているかのように。
「はぁ……ぁっ。く、ろ……さき」
これは復讐の為でも、Ωのフェロモンに負けたからでもない。
今からやるセックスは、ただの欲だ。
尾白が欲しいという、ただの僕の欲情だ。
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