怨んで、憎んで、愛したい。

コッシー

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7話



その夢は、どこかリアルだった。

「お兄ちゃん!いつものオムライス作ってきたよ!」

双葉は、いつも楽しそうにニコニコ笑っている奴だった。

両親に見捨てられても、学校で虐められても、世間に冷たい目で見られても、僕の前では必ず笑っている。

それはきっと、僕だけが唯一心を許せる人間だったからだろう。

「有難う双葉。これで僕も勉強に専念できるよ」

「よかった!お兄ちゃんが受けるとこ、偏差値高い大学だもんね!勉強頑張って!」

「勿論、絶対に受かってみせるよ。そしたら給料の良い大手会社に就職して、双葉を迎えに行く。そしたら僕と一緒に住もうな」

「うん!」

双葉の想いに応えるため、僕は双葉だけを守ると決めた。

全てを投げ捨ててでも、全てを敵に回してでも。

「双葉。僕だけは双葉をずっと愛しているよ」

「有難うお兄ちゃん!私もお兄ちゃんの事、大好きだよ!」


そう……言ってたのに。


「お兄ちゃん!私、好きな人が出来たの!」


僕は、双葉だけを愛しているのに。

なのに、なんでお前はーー。


「なぁ?お前は僕だけが頼りなんだよな?僕だけが味方なんだよな?僕だけを愛しているんだよな?」

生暖かな血と、白い精液で汚れる双葉を見下ろす僕。


これは夢。
分かっているのに、まるで自分の罪を見せつけられているような気分になる。


「僕から離れるなんて、許さない」


これは本当に……夢?













瞼を開けると、いつもの天井が視界に入った。

「……嫌な夢」

今でも微かに残っている夢の跡。
大好きな双葉が泣いていた。傷ついていた。

「もう……たくさんだ」

双葉の為に復讐しなければいけない。

けれど今の僕は、それが出来なくなってきている。

このクズで犯罪者の尾白了史に、僕は少なからず好意を抱いてしまっているからだ。

「こんなはずじゃ……なかったんだ」

一体何が原因だったのだろうか。
一体どこで間違えてしまったんだろうか。

「……んん」

漏れるような小さな声に、ドキッと心臓が高鳴る。

僕の腕に触れたのは、隣で寝ていた尾白の冷たい指。こんなに冷えている原因は、服も着ず。布団もかぶらず寝ていたせいだろう。
しかも下半身は、目も当てられないくらい精液で汚れている。

一体どれだけの時間ヤッていたのか、想像もしたくない……はずなのに。
快楽に溺れる尾白の緩んだ表情や、甘い声。そして僕を見つめる潤んだ瞳は、とても鮮明に残っていた。

「やばい」

思い出しただけで、下がじくじくと痛くなってくる。

勿論尾白は発情なんてしていない。今も隣ですやすやとアホ顔で寝ている。

「じゃあやっぱり僕は、コイツの事が」

その時、僕のスマホから着信音が鳴り響いた。

慌てて画面を開くと、そこに載っていたのは父親という文字。

なんだか、嫌な予感がした。

「……も、もしもし」

父親は、αの僕に勝手な期待を抱いている。
金をつぎ込んでは習い事をさせ、良い学校に通わせ、運動も頭脳も社交性も完璧な人間にしようとしてきた。

そんな僕が、怒鳴り声を上げた挙句。それから大学にも行ってないことが父親の耳に入れば、なんて言われるか……そんなのすぐに想像が出来る。

「この愚か者が」

いつもトーンの低い父親の声が、耳元でさらに低く聞こえる。
やはり、相当お怒りのようだ。

「問題ばかりおこしよって。お前はαとしての自覚が足りんようだな」

「っ……そ、れは」

「黙れ。言い訳など聞きたくない」

冷たい声に、思わず背筋が凍る。

本当はもっと言い返したい。
僕は貴方の道具じゃない。問題ばかりなんて起こしてないし、本当ならもっと好きに生きたいと。そう言い返してやりたい。

それでも、父親という存在は思っていたほど大きくて強い。

まだまだ子供の僕に、言い返す度胸なんて……。

「決めた。お前にはお見合いをしてもらう」

「……は?」

今、何て言った?

僕が、お見合い?

「相手は大手自動車メーカーの社長の娘で、勿論αだ」

「えっと、父さん?話が見えないよ……なんでそんな急に」

「お前だけでは問題ばかり起こすからだ」

「だ、だからそのαの女と結婚しろと?」

「そうだ」

当たり前かのように淡々と答える父親の声を聞くたび、吐き気を感じた。

この人は、僕を息子どころか人間としても見てない。αというただの個体としか見ていないんだ。

だからΩの双葉には、全く見向きもしかなった。
父親のくせに、家族なのに。

「聞いているのか、ハジメ」

「煩い」

「……なんだと?」

「黙れって言ってんだ!!お見合い?ハッ!ふざけんな。僕達を道具として見るのは止めろ。僕はもうアンタの言いなりにはならない。αとかΩとかそんなもん関係なく生きてやる!!」

「何を言ってるんだお前は!!」

「煩い!!アンタとの縁もここまでだ!!」

「ふざけたことをぬかすな!!勝手な事ばかりするなら、お前の罪を晒すぞ!!いいのか?」

「……僕の、罪?」

なんのことだ。
僕が何をしたっていうんだ。

「……まさかお前、覚えていないのか?」

回らない脳で記憶を遡る。

思い当たる節はないのに、冷や汗が止まらない。

「僕が、一体なにを……」

「本気で言っているのか!?お前が双葉にしてきたことを、本当に覚えていないというのか?」

僕が、双葉にしてきたこと?

「黒崎。落ち着け」

「お、じろ……さん」

「なに?今尾白と言ったか?そこに尾白了史がいるのか?答えろ一!!」

怒鳴り声を上げる父親の声はもう僕の耳には届かず。そのままピッと着信を切って、そのまま倒れるように尾白の胸の中へ顔をうずめた。

「分からない」

僕の罪?双葉?一体どういうことなんだろうか。
考えれば考えるほど、頭の中はぐちゃぐちゃになっていく。

「尾白さん。また貴方を痛めつければ、このぐちゃぐちゃは消えると思いますか?それとも……このまま貴方を好きになってしまった方が楽になると思いますか?」

怨むか、憎むか、それとも愛するか。

変な質問だって分かっている。
けど、今の僕は尾白の口から聞きたかった。

「んなもん俺が知るわけねぇだろ。特に俺は、今まで間違った生き方しかしてこなかった人間なんだ。どっちが正しいなんて分かるわけがねぇ」

「そう、ですよね」

「まぁ、ただな……」

尾白の手が、僕の肩を掴んでゆっくりと引きはがす。

あんなに冷たかったその手は、今はとても熱かった。

「俺の勝手な考えを押し付けていいってんなら……俺はな、テメェと番になりてぇ」

「お、じろ……さん」

一気に高ぶる感情は、涙となって流れてくる。

「本当に……いいんですか?僕は今まで貴方に酷い事をしてきたんですよ?それは決して消えるものじゃありません。それでも……僕と番になってくれるんですか?」

「っ……何度も言わせようとしてんじゃねぇ。殺すぞボケが」

相変わらず口が悪い。外見だって全然僕の好みじゃない。
大事な妹を殺した犯罪者で、僕が憎むべき相手。

それでも僕は、この人を僕のモノにしたいと思ってしまった。

「どうせ抑制剤も飲んでねぇんだ。明日か明後日くらいにはまたヒートが来ると思うぜ。だから……そん時にでも」

「はい。その時が来たら僕は、貴方のうなじをーー」

その時だった。

耳を澄ますと、外から微かに聞こえてくるウーウーというサイレンの音。しかもどんどんこっちに近づいているようだ。

きっとあの電話の後、異変を感じた父親が警察に通報したのだろう。

どうやらそれは僕だけでなく、尾白も気が付いていたようで、互いに目を合わせて覚悟を決めた。


ここから逃げようと。
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