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第6話 コアラ 対 ズーズー弁族 番外編
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(番外編 高杉先生でさえ勘違い)
高杉先生は某教育先進県のご出身で、結婚を機に奥さんの出身地であるワシらのいるヘナチョコ県に赴任された非常に仕事のできるバリバリの先生でした。苗字から推察されるように、またその凛々しい容姿とはっきりとした物言いとそれから物事に動じないきりっとした言動も相まって、きっとほら、あの超有名な維新の志士の末裔に違いないと噂されていました。
市内で一番大きな学校でしたので、多数のズーズー弁族も一緒に勤務されていました。そしてズーズー弁族がしきりに「ヤマコー」という暗号を使うので、ボンクラなワシたちは、いったい何のことじゃろうかと気にはなっておりました。
でも聡明な高杉先生は、その意味を即座に解読されておられるようでした。すごいぞ。高杉先生。
ある日の放課後のことでした。高杉先生はすべての仕事を完璧に終えられて、帰り支度をしておられました。高杉先生は、いつも勤務時間の終了とともに帰宅されます。ワシは知らなかったのですが、高杉先生が勤務されていた県では、勤務時間終了とともに帰るのは当たり前のことだそうです。ワシたちみたいにダラダラ残らない。残るのは時間内に仕事を終える能力がないからだと思われているそうです。遅くまで残るほど評価されるどっかの県と対照的ですけど。
高杉先生にちらっと聞いてみたら
「僕が、こちらに来ていちばん驚いたのは時間を大切にしないことです。僕がいたY県では、職員会でも部会でも会議でも、時間内でどのように解決するかをまず考えます。ところがどうですか。ここでは時間を延ばせばいいという発想です。そこが根本的な間違いだと思います。ベテランがそうだから、若い方が帰り辛いのです。僕はそこが問題だと痛感しました。だから時間が来たら帰るのです。誰かが動けば、若い方も帰りやすいと思います。」
まだ「働き方改革」なんて誰も知らなかった頃です。ワシはそれを聞いて「なんすごい人なんだ。そこまで考えてたとえ一人でも自分の信念を貫いているんだ。やっぱり末裔じゃのう。」と本当の教師を見たような気がしたものでした。ワシとあまり年が違わないのに、この差は何なんじゃろうとえらく感心したものです。仕事もできるし授業も指導主事が感心するぐらいうまいし、生徒や保護者との関係作りもレベルが違うし、これが教育先進県の底力じゃのうと背筋が伸びたのを憶えています。
そのときズーズー弁族が数人集まってダラダラ自慢話を始めました。そしてしきりに例のあの「ヤマコー」というセリフが聞こえて聞こえてきました。すると高杉先生が珍しくズーズー弁族に話しかけました。
「君は、ヤマコー出身なのか。」
「はい。」
とたんに高杉先生は優しい笑顔になりました。
「僕もヤマコウなんだ。」
それから高杉先生はズーズー弁族と「ヤマコー」の話を始めました。でもなんか話が食い違っているような気がしてなりません。
高杉先生のフレーズのは
「種田山頭火」「中原中也」「大学教授」「医学部長」「総理大臣」「内閣官房長官」「大臣」「官僚」「国税庁長官」「ノーベル賞」「フィールズ賞」などなど国家的なフレーズがたくさんでき来るのに、ズーズー弁族のそれは
「医者」「社長」「市長」など、それはそれですごいのですが、比較すると明らかに見劣りするフレーズでした。
さすがに高杉先生も、そしてズーズー弁族もおかしいと気づいて確認を始めました。
「君たちの言うヤマコーって、山〇高校のことじゃあないのか。」
「いいえ。〇〇高校のことです。」
「どうしてヤマコーなんだ。ヤマなんて文字、どこにあるんだ。」
「場所が山にあるからヤマコーって言うんです。」
「そうなんだ・・・。」
高杉先生は絶句し、それから落胆して少し動揺しながら
「すまなかったね。僕の勘違いだった。お騒がせしてすまない。ごめん。」
と妙に人間らしいセリフを言ってとっとと帰っていきました。
あとで聞いた話ですが、高杉先生は後輩たちとコミュニケーションを取ろうとしてそれから後輩にいろいろなことを教えようとして頑張っておられたようでした。でも価値観やレベルが違いすぎて話題がない。そんなときに「ヤマコー」というフレーズを聞いて、自分と同じ山〇県出身に違いないと思われたそうです。山〇県という県はワシたちと違ってとても県民の絆が強く、同郷とわかるとすぐに打ち解けて話ができる県民だそうです。
このことは「ヤマコー事件」として、けっこう長く語り継がれていました。それからズーズー弁族も遠慮したのか「ヤマコー」の自慢話をしなくなったのでした。
それにしてもすごいのうと思いました。本物の「ヤマコウ」は。
この勝負、コアラは出てきませんでしたけど「ヤマコー」の勝ちだと思います。
ぜんぜん関係ないのに「ヤマコー」でイキッて優位になって天下を取ったように威張れるなんて、井の中の蛙にも程があるちゅうもんですよね。でも本人が楽しければそれでええか。でも知らなければいいことまで知ってしまったことが不孝の始まりになりうるのです。
コアラはその頃はオーストラリアに帰ってユーカリが丘で寝ていたのだと思います。
高杉先生は某教育先進県のご出身で、結婚を機に奥さんの出身地であるワシらのいるヘナチョコ県に赴任された非常に仕事のできるバリバリの先生でした。苗字から推察されるように、またその凛々しい容姿とはっきりとした物言いとそれから物事に動じないきりっとした言動も相まって、きっとほら、あの超有名な維新の志士の末裔に違いないと噂されていました。
市内で一番大きな学校でしたので、多数のズーズー弁族も一緒に勤務されていました。そしてズーズー弁族がしきりに「ヤマコー」という暗号を使うので、ボンクラなワシたちは、いったい何のことじゃろうかと気にはなっておりました。
でも聡明な高杉先生は、その意味を即座に解読されておられるようでした。すごいぞ。高杉先生。
ある日の放課後のことでした。高杉先生はすべての仕事を完璧に終えられて、帰り支度をしておられました。高杉先生は、いつも勤務時間の終了とともに帰宅されます。ワシは知らなかったのですが、高杉先生が勤務されていた県では、勤務時間終了とともに帰るのは当たり前のことだそうです。ワシたちみたいにダラダラ残らない。残るのは時間内に仕事を終える能力がないからだと思われているそうです。遅くまで残るほど評価されるどっかの県と対照的ですけど。
高杉先生にちらっと聞いてみたら
「僕が、こちらに来ていちばん驚いたのは時間を大切にしないことです。僕がいたY県では、職員会でも部会でも会議でも、時間内でどのように解決するかをまず考えます。ところがどうですか。ここでは時間を延ばせばいいという発想です。そこが根本的な間違いだと思います。ベテランがそうだから、若い方が帰り辛いのです。僕はそこが問題だと痛感しました。だから時間が来たら帰るのです。誰かが動けば、若い方も帰りやすいと思います。」
まだ「働き方改革」なんて誰も知らなかった頃です。ワシはそれを聞いて「なんすごい人なんだ。そこまで考えてたとえ一人でも自分の信念を貫いているんだ。やっぱり末裔じゃのう。」と本当の教師を見たような気がしたものでした。ワシとあまり年が違わないのに、この差は何なんじゃろうとえらく感心したものです。仕事もできるし授業も指導主事が感心するぐらいうまいし、生徒や保護者との関係作りもレベルが違うし、これが教育先進県の底力じゃのうと背筋が伸びたのを憶えています。
そのときズーズー弁族が数人集まってダラダラ自慢話を始めました。そしてしきりに例のあの「ヤマコー」というセリフが聞こえて聞こえてきました。すると高杉先生が珍しくズーズー弁族に話しかけました。
「君は、ヤマコー出身なのか。」
「はい。」
とたんに高杉先生は優しい笑顔になりました。
「僕もヤマコウなんだ。」
それから高杉先生はズーズー弁族と「ヤマコー」の話を始めました。でもなんか話が食い違っているような気がしてなりません。
高杉先生のフレーズのは
「種田山頭火」「中原中也」「大学教授」「医学部長」「総理大臣」「内閣官房長官」「大臣」「官僚」「国税庁長官」「ノーベル賞」「フィールズ賞」などなど国家的なフレーズがたくさんでき来るのに、ズーズー弁族のそれは
「医者」「社長」「市長」など、それはそれですごいのですが、比較すると明らかに見劣りするフレーズでした。
さすがに高杉先生も、そしてズーズー弁族もおかしいと気づいて確認を始めました。
「君たちの言うヤマコーって、山〇高校のことじゃあないのか。」
「いいえ。〇〇高校のことです。」
「どうしてヤマコーなんだ。ヤマなんて文字、どこにあるんだ。」
「場所が山にあるからヤマコーって言うんです。」
「そうなんだ・・・。」
高杉先生は絶句し、それから落胆して少し動揺しながら
「すまなかったね。僕の勘違いだった。お騒がせしてすまない。ごめん。」
と妙に人間らしいセリフを言ってとっとと帰っていきました。
あとで聞いた話ですが、高杉先生は後輩たちとコミュニケーションを取ろうとしてそれから後輩にいろいろなことを教えようとして頑張っておられたようでした。でも価値観やレベルが違いすぎて話題がない。そんなときに「ヤマコー」というフレーズを聞いて、自分と同じ山〇県出身に違いないと思われたそうです。山〇県という県はワシたちと違ってとても県民の絆が強く、同郷とわかるとすぐに打ち解けて話ができる県民だそうです。
このことは「ヤマコー事件」として、けっこう長く語り継がれていました。それからズーズー弁族も遠慮したのか「ヤマコー」の自慢話をしなくなったのでした。
それにしてもすごいのうと思いました。本物の「ヤマコウ」は。
この勝負、コアラは出てきませんでしたけど「ヤマコー」の勝ちだと思います。
ぜんぜん関係ないのに「ヤマコー」でイキッて優位になって天下を取ったように威張れるなんて、井の中の蛙にも程があるちゅうもんですよね。でも本人が楽しければそれでええか。でも知らなければいいことまで知ってしまったことが不孝の始まりになりうるのです。
コアラはその頃はオーストラリアに帰ってユーカリが丘で寝ていたのだと思います。
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