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第5話 コアラ先生 対 ズーズー弁族校長
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ズーズー弁族とは東部に生息し、この動物国を牛耳っている割と優秀な部族である。
個体数が多いわりに生息地域が狭いため、西部の方まで進出することを余儀なくされている。特徴として、故意に日常においてもズーズー弁を使用し、昔の近藤正臣のモノマネのように「お前たちとは違うんだ。」と自分たちの優秀さをアピールすることが大好きで、上から目線で西部の動物たちや文化や歴史までも平気で見下している様がありありと感じられる恐ろしいほど「井の中の蛙」的な部族である。
コアラは動物なのでウソをつきません。裏表のない性格で、好き嫌いもはっきりしています。また「忖度」「気を遣う」「空気を読む」などストレスの原因になるような感情も一切ありません。ワシはコアラ先生と付き合って「動物はなぜ自殺しないのか」がよくわかったような気がしました。だからある意味、コアラはもっとも信頼できる生き物だといえるのではないでしょうか。
そんなある年の4月のことでした。ワシたちの学校にズーズー弁族の国から新任の校長がやって、ズーズー弁で誇らしげに挨拶をしました。こういうことはよくあることなので「ふーん」としか思いませんでしたが、きっとズーズー弁族の自慢を毎日聞かされるに違いないと、職員一同うんざりした気分でした。
先ほどもちょっと説明しましたが、簡単に言うと東部は人が余って西部は足りないのです。だから最初は、だいたい西部に赴任させられます。そういう条例もあるために、ズーズー弁族は必ず一度は西部で勤務し、さんざん西部をバカにして自己満足に浸って帰っていきます。無事に最初の3年間の任期を終えて東部に帰ることができれば万々歳なのです。親も親戚も近所のおじさんおばさんもホッと胸をなで下ろして、親戚近所一同集まって盛大にお祝いをするそうです。
しかし、まだ若いズーズー弁族といえども取り返しのつかないミスをしてしまうことが多少あります。魔が差してしまったとか、精神的に不安定だったとか、とにかくそういう事情で、不幸にも西部の動物と結婚してしまうことがあるのです。これはズーズー弁族親戚一同にとって最も恐れていたことで深刻な事態なのです。
そうなった場合、当然勘当は免れない事態なのですが、それでも親は三日三晩涙が枯れるまで泣いて、腹を立てて「今まで大事に育ててやったのに親不孝者。」と思って諦めるしかないのです。それでもあきらめていた娘がめでたく?離婚して、子供を連れて帰ってくるというチャンスも残されているので、毎日のようにかの有名な縁結びの神社に通って縁切りを願っているというシャレにならないような話を聞いたこともあります。そしてごくたまにですが、本当に願いが叶ってしまって、娘が離婚して帰ってくることになって、表面では深刻そうにしている向こうのご両親が、小躍りして喜んでいる姿を偶然見てしまったときは、ワシとしてはとても複雑な思いでした。
まあそんな状況だと思っていただければ、こんなに詳しく説明した甲斐があるというものです。といっても県全体の人口は下から数えて5本の指に入るほどですし、新幹線もなければ高速道路のない、セブンイレブンがやっとできて、スタバができたときには多くの人が並んでいたぐらいなので、本物の都会に住んでいる皆様からみたら、どっちもどっちだと失笑されるに違いありません。
事が起きたのは、歓迎会の飲み会でした。みんなけっこう出来上がっていて「無礼講」という名のもとに、校長を囲んでけっこうみんな酔っぱらって好きなことを言っていました。特にコアラは。
校長が、「自分は読書が好きでたくさんの本を読んできた。」と東大の立花隆先生のようなことを言い始め、ある小難しい本について
「わしは、この本を3回読んでやっと作者の本当の意図がわかった。」
的なことを言いました。きっと自分の読破力をアピールしたかったのだと思います。
そしたらコアラが
「3回も読まんとわかわんかったんか。アハハハ。」
と大声で言ったので、みんなは静まり返ってしまいました。コアラはそんな様子をものともせずに次の質問を始めました。
「ところで校長先生は東京で学生時代を過ごしたそうですが、どこの大学ですか。」
「わしは〇本体育大学だ。」
「〇体大ですか。そうですか。脳みそに鉄アレーつけて鍛えているって本当です
か。」
「・・・・・。」
ワシたちはまた凍り付きました。でもすっかり酔っぱらっているコアラは止まりません。
「ワシも東京におったんですよ。ワシは東京電波学校の数学科ですけど。」
「・・・・・。」
その後、どうなったのかよく覚えていませんが、コアラのおかげですっかり気まずい雰囲気になってしまい、ワシたちは話題を変えるために必死でした。コアラは大笑いしながら大声で話を続けようとするし、まさしくワシたちにとっては地獄でした。
次の日、ワシたちがコアラに「昨夜の失礼を一応詫びた方がええんじゃあないか」と言ったのですが、コアラはまったく気にしていない様子で
「大丈夫ですよ。ワシは酔っぱらっていて心身喪失状態でしたから。法的にもまった
く罪はありません。」
とタカをくくっているばかりでした。でもね。きっとしこりが残ったと思いますよ。校長先生にとってはものすごい屈辱だったのだと思いますよ。
それから校長は、ズーズー弁族らしいねちっこさでイヤイヤコアラ先生に接しているのがよくわかりましたし、周りのみんなも明らかにコアラを嫌っていると感じていましたから。自業自得なので仕方がないことですけどね。
いちばんすごいと思ったのは、当の本人のコアラ先生はまったくこのことに気が付いてもいなかったことでしょう。
すごいぞ。コアラ。ちょっとパワハラが入っていても、まったく気づかず動じない君に感心しました。
この勝負、コアラの勝ち! でしょうなあ(笑)
個体数が多いわりに生息地域が狭いため、西部の方まで進出することを余儀なくされている。特徴として、故意に日常においてもズーズー弁を使用し、昔の近藤正臣のモノマネのように「お前たちとは違うんだ。」と自分たちの優秀さをアピールすることが大好きで、上から目線で西部の動物たちや文化や歴史までも平気で見下している様がありありと感じられる恐ろしいほど「井の中の蛙」的な部族である。
コアラは動物なのでウソをつきません。裏表のない性格で、好き嫌いもはっきりしています。また「忖度」「気を遣う」「空気を読む」などストレスの原因になるような感情も一切ありません。ワシはコアラ先生と付き合って「動物はなぜ自殺しないのか」がよくわかったような気がしました。だからある意味、コアラはもっとも信頼できる生き物だといえるのではないでしょうか。
そんなある年の4月のことでした。ワシたちの学校にズーズー弁族の国から新任の校長がやって、ズーズー弁で誇らしげに挨拶をしました。こういうことはよくあることなので「ふーん」としか思いませんでしたが、きっとズーズー弁族の自慢を毎日聞かされるに違いないと、職員一同うんざりした気分でした。
先ほどもちょっと説明しましたが、簡単に言うと東部は人が余って西部は足りないのです。だから最初は、だいたい西部に赴任させられます。そういう条例もあるために、ズーズー弁族は必ず一度は西部で勤務し、さんざん西部をバカにして自己満足に浸って帰っていきます。無事に最初の3年間の任期を終えて東部に帰ることができれば万々歳なのです。親も親戚も近所のおじさんおばさんもホッと胸をなで下ろして、親戚近所一同集まって盛大にお祝いをするそうです。
しかし、まだ若いズーズー弁族といえども取り返しのつかないミスをしてしまうことが多少あります。魔が差してしまったとか、精神的に不安定だったとか、とにかくそういう事情で、不幸にも西部の動物と結婚してしまうことがあるのです。これはズーズー弁族親戚一同にとって最も恐れていたことで深刻な事態なのです。
そうなった場合、当然勘当は免れない事態なのですが、それでも親は三日三晩涙が枯れるまで泣いて、腹を立てて「今まで大事に育ててやったのに親不孝者。」と思って諦めるしかないのです。それでもあきらめていた娘がめでたく?離婚して、子供を連れて帰ってくるというチャンスも残されているので、毎日のようにかの有名な縁結びの神社に通って縁切りを願っているというシャレにならないような話を聞いたこともあります。そしてごくたまにですが、本当に願いが叶ってしまって、娘が離婚して帰ってくることになって、表面では深刻そうにしている向こうのご両親が、小躍りして喜んでいる姿を偶然見てしまったときは、ワシとしてはとても複雑な思いでした。
まあそんな状況だと思っていただければ、こんなに詳しく説明した甲斐があるというものです。といっても県全体の人口は下から数えて5本の指に入るほどですし、新幹線もなければ高速道路のない、セブンイレブンがやっとできて、スタバができたときには多くの人が並んでいたぐらいなので、本物の都会に住んでいる皆様からみたら、どっちもどっちだと失笑されるに違いありません。
事が起きたのは、歓迎会の飲み会でした。みんなけっこう出来上がっていて「無礼講」という名のもとに、校長を囲んでけっこうみんな酔っぱらって好きなことを言っていました。特にコアラは。
校長が、「自分は読書が好きでたくさんの本を読んできた。」と東大の立花隆先生のようなことを言い始め、ある小難しい本について
「わしは、この本を3回読んでやっと作者の本当の意図がわかった。」
的なことを言いました。きっと自分の読破力をアピールしたかったのだと思います。
そしたらコアラが
「3回も読まんとわかわんかったんか。アハハハ。」
と大声で言ったので、みんなは静まり返ってしまいました。コアラはそんな様子をものともせずに次の質問を始めました。
「ところで校長先生は東京で学生時代を過ごしたそうですが、どこの大学ですか。」
「わしは〇本体育大学だ。」
「〇体大ですか。そうですか。脳みそに鉄アレーつけて鍛えているって本当です
か。」
「・・・・・。」
ワシたちはまた凍り付きました。でもすっかり酔っぱらっているコアラは止まりません。
「ワシも東京におったんですよ。ワシは東京電波学校の数学科ですけど。」
「・・・・・。」
その後、どうなったのかよく覚えていませんが、コアラのおかげですっかり気まずい雰囲気になってしまい、ワシたちは話題を変えるために必死でした。コアラは大笑いしながら大声で話を続けようとするし、まさしくワシたちにとっては地獄でした。
次の日、ワシたちがコアラに「昨夜の失礼を一応詫びた方がええんじゃあないか」と言ったのですが、コアラはまったく気にしていない様子で
「大丈夫ですよ。ワシは酔っぱらっていて心身喪失状態でしたから。法的にもまった
く罪はありません。」
とタカをくくっているばかりでした。でもね。きっとしこりが残ったと思いますよ。校長先生にとってはものすごい屈辱だったのだと思いますよ。
それから校長は、ズーズー弁族らしいねちっこさでイヤイヤコアラ先生に接しているのがよくわかりましたし、周りのみんなも明らかにコアラを嫌っていると感じていましたから。自業自得なので仕方がないことですけどね。
いちばんすごいと思ったのは、当の本人のコアラ先生はまったくこのことに気が付いてもいなかったことでしょう。
すごいぞ。コアラ。ちょっとパワハラが入っていても、まったく気づかず動じない君に感心しました。
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