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第4話 コアラ先生 対 汚部屋(というかコアラのものすごく汚い部屋)
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まだ「汚部屋」という言葉が一般的になるずっとずっと前のことでした。
コアラ先生はいつも時代の最先端を歩いているのです。
当時のコアラ先生はまだ独身で、教員住宅に住んでいました。コアラ先生は他人を家に入れることがほとんどなかったので、その生態はベールに包まれていました。用事があって訪ねていった人によると「家に入れてもらえなかった。」とか「玄関先で話したけど物が多くてそれ以上入る隙間がなかった」とか、野良猫が自由に出入りしていたとか、ユーカリの木が植えてあったなど噂はいろいろとありました。だからみんなは、薄々そうじゃあないかとは思っていました。
決定打は、さるじろう先生が、コアラ先生に頼まれて、留守宅に財布を探しに入ったことです。ちなみに、さるじろう先生の教員住宅はコアラ先生の隣でした。
コ「もしもし。ワシですけど。」
さ「おう、コアラか。どうしたん。」
コ「ワシ今、広島に来とるんですが、サイフがないんです。」
さ「またサイフがないんか。」
コ「そうです。心配でやれんのですよ。それですまんのんですが、ワシのベッドのところに財布があるか確認してもらえんですか。勝手口が開いていますけえ。」
さ「わかった。今から見てくるけえ。」
こうしてさるじろう先生は、裏口からコアラの部屋に入っていったそうです。そのときの話を後日伺ったのですが、こんな感じでした。
「それで、財布はみつかったんですか。」
「財布らしき物はベッドの上にあった。でも見ただけで手にとって確かめられんかった。」「おかしいことを言いますねえ。どういうことですか。」
「じゃから、ベッドのところまで行かれんかった。通路がなくて。」
「はあ?」
「部屋がゴミだらけで歩く場所がなかった。畳の部屋なのに畳が見えんかった。あいつは すごいで。すごいところで生活しとるで。」
「他の部屋はどうじゃったんですか。」
「恐ろしゅうて見に行けんかった。」
コアラ先生は多趣味です。パソコン関係以外にも、いろいろな球技やゴルフやサーフィンやスキーやスノボや格闘技にまで手を染めています。というか流行に敏感で、どんどん手を染めていくのはいいのですが、まず形から入るので、いろいろな器具やウエアや用具や用品を購入します。でも流行が過ぎると見向きもせずに部屋の片隅に放置してしまいます。しかもコアラ先生は物を捨てるのが大嫌いなので「始末する」とか「誰かにあげる」とかいう概念がありません。いろんなものを本能に任せてどんどん買っていくのです。つまり物理的に考えると、コアラの巣(家)は、いつかは容積面で必ず限界が来ることが予想されます。つまり物があふれている状態です。そしてさるじろう先生だ見たときは、すでの許容量を超えていたと想像できます。
ワシはさるじろう先生から、その話を聞きました。さるじろう先生は、サルの本能からか「ヒト、モノ、コト」を揶揄するのが大好きです。大体の場合、話が十倍くらいになって面白おかしく人に伝わっていきます。その話を聞いてもワシは、どうせいつもの話十倍だろうと思って「ふーん。そうですか。」ぐらいにしか思いませんでした。また、コアラ先生の家に行く用事もなかったので、すっかり忘れていました。でも職員室のコアラ先生の机上の惨状を見るたびに、よく書類を無くさないなあと思っていました。
それから数年がたって、ワシは別の学校に転勤になりましたが、飲み会に呼ばれて久しぶりに村を訪れました。ワシは基本的にアルコールがダメなので、終わったら車で帰ろうと思っていました。ところが、ノンアルコールビールと間違えてコップに入った普通のビールを一口飲んでしまいました。ワシたちのとって飲酒運転は即懲戒免職です。下手をすると管理職の首も飛ぶ可能性だってあるのです。もちろん一緒に飲んでいた方々も責任を問われることになるでしょう。だからみんな、飲酒運転に関しては当時からピリピリしていました。
困っているワシを見て、人のいいコアラ先生は
「今日はワシの家に泊まって明日帰るとええわあね。」
といってくれましたので、ワシはお言葉に甘えて、コアラ先生の家の泊めてもらうことにしました。ワシはホッとして、もう少しアルコールを飲みました。それから飲み会が終わってコアラ先生と一緒に帰りました。ワシはコアラ先生の家(巣)に初めて入りました。
第一印象は、「玄関ってこんなに狭かったっけ?」でした。教員住宅ですので、基本的にワシが以前住んでいたのと同じ作りになっているはずです。それから靴を脱ごうとしたのですが、玄関に靴を置くスペースがないので、少しビビりました。コアラ先生がコアラ先生がつけるとその全貌が明らかになるとともに、ワシは以前、さるじろう先生から聞いたコアラ先生の家の様子は嘘偽りでもなく、十倍話でも揶揄でもなかったことを思い知ることになりました。玄関が異常に狭かったのは、ゴルフクラブとスキー板のせいでした。廊下には段ボールみたいなものが積んであり、人ひとりがやっと歩けるスペースのみ残っていました。部屋に入って驚いたことは、ベッドが垂直に立っていたことです。その周りには本やら服やら布団やら空き缶やらゴミやらが無秩序に置かれてありました。当時は珍しかった大型テレビやオーディオやらもありますが、そこまで行く通路がありません。ワシは「どうやってテレビをつけるんじゃろうか。」と恐ろしくなりました。コアラ先生は、リモコンがあるので困らないと豪語していたのを憶えています。台所や奥の部屋にはたどり着けなかったのですが、ワシは「どこに寝たらええんじゃろうか。」と不安になりました。結局、手前開きの半畳幅の押し入れの前に、それを開けるためのスペースがあったので、そこに縮こまって寝たのを憶えています。
先日、数十年ぶりにコアラ先生と会い、コアラ先生のアルファードで送ってもらったというさるじろう先生との会話です。
さ「コアラは出世してアルファードという大きな車に乗ってきたんよ。」
ワ「「すごいですね。トヨタの高級車じゃないですか。」
さ「アルファードって何人乗りと思う?」
ワ「「8人でしょう。余裕で。」
さ「違う。2人乗り。しかも斜めに。」
ワ「はっ?。どういうことですか。」
さ「まず、助手席に乗ろうとしたらビニールゴミの袋みたいなのが乗せてあっていっぱいで乗られんかった。」
ワ「はあ。」
さ「それでスライドドア開けてくれて、助手席の後ろに乗り込んだんよ。」
ワ「アルファードじゃったら、その方が広かったでしょう。VIP席ですね。」
さ「いいや。そこは1人しか乗れんよ。隣の席には何やら積んであって、足下もゴミが積 んであって、三列目は服やらジャージやらでいっぱいで、結局コアラのアルファードは2人乗り。」
何がなんだかわかりませんが、ここで私が得た教訓とは、年を重ねようと、結婚しようと、海外の日本人学校に赴任しようと、出世して教頭になってアルファードに乗ろうと、ついでに離婚しようと、人間の本質はそう簡単に変わらないということですかね。
ワシは、それでも、そんな価値あるコアラ先生らしさが大好きです。
この勝負 そんなことまったく気にしていないコアラの圧勝! でしょうね。
コアラ先生はいつも時代の最先端を歩いているのです。
当時のコアラ先生はまだ独身で、教員住宅に住んでいました。コアラ先生は他人を家に入れることがほとんどなかったので、その生態はベールに包まれていました。用事があって訪ねていった人によると「家に入れてもらえなかった。」とか「玄関先で話したけど物が多くてそれ以上入る隙間がなかった」とか、野良猫が自由に出入りしていたとか、ユーカリの木が植えてあったなど噂はいろいろとありました。だからみんなは、薄々そうじゃあないかとは思っていました。
決定打は、さるじろう先生が、コアラ先生に頼まれて、留守宅に財布を探しに入ったことです。ちなみに、さるじろう先生の教員住宅はコアラ先生の隣でした。
コ「もしもし。ワシですけど。」
さ「おう、コアラか。どうしたん。」
コ「ワシ今、広島に来とるんですが、サイフがないんです。」
さ「またサイフがないんか。」
コ「そうです。心配でやれんのですよ。それですまんのんですが、ワシのベッドのところに財布があるか確認してもらえんですか。勝手口が開いていますけえ。」
さ「わかった。今から見てくるけえ。」
こうしてさるじろう先生は、裏口からコアラの部屋に入っていったそうです。そのときの話を後日伺ったのですが、こんな感じでした。
「それで、財布はみつかったんですか。」
「財布らしき物はベッドの上にあった。でも見ただけで手にとって確かめられんかった。」「おかしいことを言いますねえ。どういうことですか。」
「じゃから、ベッドのところまで行かれんかった。通路がなくて。」
「はあ?」
「部屋がゴミだらけで歩く場所がなかった。畳の部屋なのに畳が見えんかった。あいつは すごいで。すごいところで生活しとるで。」
「他の部屋はどうじゃったんですか。」
「恐ろしゅうて見に行けんかった。」
コアラ先生は多趣味です。パソコン関係以外にも、いろいろな球技やゴルフやサーフィンやスキーやスノボや格闘技にまで手を染めています。というか流行に敏感で、どんどん手を染めていくのはいいのですが、まず形から入るので、いろいろな器具やウエアや用具や用品を購入します。でも流行が過ぎると見向きもせずに部屋の片隅に放置してしまいます。しかもコアラ先生は物を捨てるのが大嫌いなので「始末する」とか「誰かにあげる」とかいう概念がありません。いろんなものを本能に任せてどんどん買っていくのです。つまり物理的に考えると、コアラの巣(家)は、いつかは容積面で必ず限界が来ることが予想されます。つまり物があふれている状態です。そしてさるじろう先生だ見たときは、すでの許容量を超えていたと想像できます。
ワシはさるじろう先生から、その話を聞きました。さるじろう先生は、サルの本能からか「ヒト、モノ、コト」を揶揄するのが大好きです。大体の場合、話が十倍くらいになって面白おかしく人に伝わっていきます。その話を聞いてもワシは、どうせいつもの話十倍だろうと思って「ふーん。そうですか。」ぐらいにしか思いませんでした。また、コアラ先生の家に行く用事もなかったので、すっかり忘れていました。でも職員室のコアラ先生の机上の惨状を見るたびに、よく書類を無くさないなあと思っていました。
それから数年がたって、ワシは別の学校に転勤になりましたが、飲み会に呼ばれて久しぶりに村を訪れました。ワシは基本的にアルコールがダメなので、終わったら車で帰ろうと思っていました。ところが、ノンアルコールビールと間違えてコップに入った普通のビールを一口飲んでしまいました。ワシたちのとって飲酒運転は即懲戒免職です。下手をすると管理職の首も飛ぶ可能性だってあるのです。もちろん一緒に飲んでいた方々も責任を問われることになるでしょう。だからみんな、飲酒運転に関しては当時からピリピリしていました。
困っているワシを見て、人のいいコアラ先生は
「今日はワシの家に泊まって明日帰るとええわあね。」
といってくれましたので、ワシはお言葉に甘えて、コアラ先生の家の泊めてもらうことにしました。ワシはホッとして、もう少しアルコールを飲みました。それから飲み会が終わってコアラ先生と一緒に帰りました。ワシはコアラ先生の家(巣)に初めて入りました。
第一印象は、「玄関ってこんなに狭かったっけ?」でした。教員住宅ですので、基本的にワシが以前住んでいたのと同じ作りになっているはずです。それから靴を脱ごうとしたのですが、玄関に靴を置くスペースがないので、少しビビりました。コアラ先生がコアラ先生がつけるとその全貌が明らかになるとともに、ワシは以前、さるじろう先生から聞いたコアラ先生の家の様子は嘘偽りでもなく、十倍話でも揶揄でもなかったことを思い知ることになりました。玄関が異常に狭かったのは、ゴルフクラブとスキー板のせいでした。廊下には段ボールみたいなものが積んであり、人ひとりがやっと歩けるスペースのみ残っていました。部屋に入って驚いたことは、ベッドが垂直に立っていたことです。その周りには本やら服やら布団やら空き缶やらゴミやらが無秩序に置かれてありました。当時は珍しかった大型テレビやオーディオやらもありますが、そこまで行く通路がありません。ワシは「どうやってテレビをつけるんじゃろうか。」と恐ろしくなりました。コアラ先生は、リモコンがあるので困らないと豪語していたのを憶えています。台所や奥の部屋にはたどり着けなかったのですが、ワシは「どこに寝たらええんじゃろうか。」と不安になりました。結局、手前開きの半畳幅の押し入れの前に、それを開けるためのスペースがあったので、そこに縮こまって寝たのを憶えています。
先日、数十年ぶりにコアラ先生と会い、コアラ先生のアルファードで送ってもらったというさるじろう先生との会話です。
さ「コアラは出世してアルファードという大きな車に乗ってきたんよ。」
ワ「「すごいですね。トヨタの高級車じゃないですか。」
さ「アルファードって何人乗りと思う?」
ワ「「8人でしょう。余裕で。」
さ「違う。2人乗り。しかも斜めに。」
ワ「はっ?。どういうことですか。」
さ「まず、助手席に乗ろうとしたらビニールゴミの袋みたいなのが乗せてあっていっぱいで乗られんかった。」
ワ「はあ。」
さ「それでスライドドア開けてくれて、助手席の後ろに乗り込んだんよ。」
ワ「アルファードじゃったら、その方が広かったでしょう。VIP席ですね。」
さ「いいや。そこは1人しか乗れんよ。隣の席には何やら積んであって、足下もゴミが積 んであって、三列目は服やらジャージやらでいっぱいで、結局コアラのアルファードは2人乗り。」
何がなんだかわかりませんが、ここで私が得た教訓とは、年を重ねようと、結婚しようと、海外の日本人学校に赴任しようと、出世して教頭になってアルファードに乗ろうと、ついでに離婚しようと、人間の本質はそう簡単に変わらないということですかね。
ワシは、それでも、そんな価値あるコアラ先生らしさが大好きです。
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