4 / 12
第三話
当夜
しおりを挟む
第三話
僕は久しぶりにZに乗り込んで、スタートボタンを押した。
エンジンの始動を試みたんだ。
Zはギュルと言ったきり沈黙した。それが最後の声だった。
長い間かまってもやらなかった。バッテリーがすっかり上がっていた。
僕はZから降りて、それからまたカバーをかけた。
ルマンブルーの艶やかな車体は埃でくすんでいた。
そんなことに改めて気づいてから、Zのことを不憫に思った。
Zはガレージの中ですっかり沈黙していた。
この状態をいつまで続けるつもりなのだろうか。
自分に問いかけたけど。
Zを目覚めさせる気力も意志も喪失していたんだ。
「当夜」
高速道路を西に向かって疾走していた。
ルマンブルーに夕日が映り込んでいた。
ガラス越しに見えるボンネットがきれいだった。
Zは法定速度を少し超えたスピードを維持しながら、滑るように疾走していた。
アクセルを踏み込むと背中を蹴られたように加速した。
高速道路をZで走ることは快感だった。
それでも僕は助手席の君に無駄な慣性を与えないように努めていた。
Zでの高速クルージングは、意外にも静かで快適だった。
僕たちはいろいろな話をした。
それでもZは夕日を追いかけてた。
まだ夕日が残る海峡を二人で眺めた。
街が夜の景色に染まり始めたころ
僕はいつのも駐車場にZを止めて、少しだけ街をぶらついた。
少しだけなじみの店で軽い食事を取った。
それから都市高速に乗って帰路についた。
途中でZを停めて、海峡の夜景を二人で眺めた。
ずっとここに君を連れてきたいと思っていた。
君が隣にいることが信じられなかった。
夢のような情景が広がっていた。
すでに9時を過ぎていた。
僕は少し焦って帰路についた。
少しばかりZを振り回した。
君をせめて今日中に送り届けなければという思い。
僕を急がせた。
それは君への言い訳に過ぎなかったのかもしれない。
この車の性能を試したかったんだ。
解き放ってやりたかったんだ。
Zは思い通りに疾走した。
すごい性能だと思った。
君は・・・。黙って見ていた。
それから
「すごいね」と言った。
「この車も、あなたの運転も」
空港の駐車場。
君の青いクーパーが待っていた。
一度きり。
そういう約束だった。
僕はその約束を絶対に守るつもりだったんだ。
君が来てくれただけで十分だったんだ。
それからZに君を乗せて遠くに行けたことにも。
夜の景色を一緒に見たことも。
本当に。本当の本当だよ。
今の気持ちを素直に伝えた。
「今日はありがとう。来てくれてありがとう。嬉しかったよ。」
「うん。こちらこそありがとう。楽しかったよ。」
「僕も楽しかった。」
「うん。」
「じゃあね。」
「うん。」
でも君はなかなか車から降りなかったんだ。
僕は仕方なくエンジンを止めた。
それからしばらく沈黙があって、
「約束は約束だものね。」
「うん。約束は約束だね。」
「うん。」
「迷惑だけは、かけたくないんだ。今日みたいに・・・。」
「・・・・。」
「おやすみ。気をつけてね。」
「うん、おやすみ」
青いクーパーを見送ってから、僕はやっとエンジンを始動させた。
それからため息をついて、Zをゆっくりと発進させた。
すでに深夜で、青い街灯だけが道を照らしていた。
君と二人っきりで会うことはもう二度とないだろう。
そんなことを考えていた。
僕は久しぶりにZに乗り込んで、スタートボタンを押した。
エンジンの始動を試みたんだ。
Zはギュルと言ったきり沈黙した。それが最後の声だった。
長い間かまってもやらなかった。バッテリーがすっかり上がっていた。
僕はZから降りて、それからまたカバーをかけた。
ルマンブルーの艶やかな車体は埃でくすんでいた。
そんなことに改めて気づいてから、Zのことを不憫に思った。
Zはガレージの中ですっかり沈黙していた。
この状態をいつまで続けるつもりなのだろうか。
自分に問いかけたけど。
Zを目覚めさせる気力も意志も喪失していたんだ。
「当夜」
高速道路を西に向かって疾走していた。
ルマンブルーに夕日が映り込んでいた。
ガラス越しに見えるボンネットがきれいだった。
Zは法定速度を少し超えたスピードを維持しながら、滑るように疾走していた。
アクセルを踏み込むと背中を蹴られたように加速した。
高速道路をZで走ることは快感だった。
それでも僕は助手席の君に無駄な慣性を与えないように努めていた。
Zでの高速クルージングは、意外にも静かで快適だった。
僕たちはいろいろな話をした。
それでもZは夕日を追いかけてた。
まだ夕日が残る海峡を二人で眺めた。
街が夜の景色に染まり始めたころ
僕はいつのも駐車場にZを止めて、少しだけ街をぶらついた。
少しだけなじみの店で軽い食事を取った。
それから都市高速に乗って帰路についた。
途中でZを停めて、海峡の夜景を二人で眺めた。
ずっとここに君を連れてきたいと思っていた。
君が隣にいることが信じられなかった。
夢のような情景が広がっていた。
すでに9時を過ぎていた。
僕は少し焦って帰路についた。
少しばかりZを振り回した。
君をせめて今日中に送り届けなければという思い。
僕を急がせた。
それは君への言い訳に過ぎなかったのかもしれない。
この車の性能を試したかったんだ。
解き放ってやりたかったんだ。
Zは思い通りに疾走した。
すごい性能だと思った。
君は・・・。黙って見ていた。
それから
「すごいね」と言った。
「この車も、あなたの運転も」
空港の駐車場。
君の青いクーパーが待っていた。
一度きり。
そういう約束だった。
僕はその約束を絶対に守るつもりだったんだ。
君が来てくれただけで十分だったんだ。
それからZに君を乗せて遠くに行けたことにも。
夜の景色を一緒に見たことも。
本当に。本当の本当だよ。
今の気持ちを素直に伝えた。
「今日はありがとう。来てくれてありがとう。嬉しかったよ。」
「うん。こちらこそありがとう。楽しかったよ。」
「僕も楽しかった。」
「うん。」
「じゃあね。」
「うん。」
でも君はなかなか車から降りなかったんだ。
僕は仕方なくエンジンを止めた。
それからしばらく沈黙があって、
「約束は約束だものね。」
「うん。約束は約束だね。」
「うん。」
「迷惑だけは、かけたくないんだ。今日みたいに・・・。」
「・・・・。」
「おやすみ。気をつけてね。」
「うん、おやすみ」
青いクーパーを見送ってから、僕はやっとエンジンを始動させた。
それからため息をついて、Zをゆっくりと発進させた。
すでに深夜で、青い街灯だけが道を照らしていた。
君と二人っきりで会うことはもう二度とないだろう。
そんなことを考えていた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる