悪魔が囁く三日月の夜

桜乃

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 夢と現実を一緒にしてはいけないけれど、あまり気分の良いものではない。だって、夢であのワインには毒が混入されていたのだから……

「シエナ、王宮にむかう準備を」
「承知致しました」

 シエナはお化粧の準備をし、私は鏡の前に座る。
 
 自慢のプラチナブロンドの髪が今日も燦然と輝いていた。シエナが私の髪を梳きながら「はぁぁ」と感嘆の声を漏らす。

「お嬢様の御髪はいつ見ても美しいですわ。サラサラのプラチナブロンドに透き通るようなお肌。瞳はサファイアブルー。本当にお綺麗になられて……王太子殿下のお妃様はお嬢様しかおりませんわね」
「まだ候補よ。王弟殿下のご令嬢のキャサリン様が最有力候補と聞いているわ」
「いえいえ、このお美しさに王太子殿下も心を奪われておりますわ。ですから、何度もお嬢様をお誘いになるのでは?」

 そうかしら? そんな気もしないでもない。
 でも、従兄妹であられるキャサリン様が王太子殿下を子供の頃からお慕いしていたのは、誰もが知っていること……
 もし、私が妃に選ばれたなら……キャサリン様は……

 背中に冷たいものが走った気がした。

 ワインをチラリと見る。
 王弟殿下に手配してもらったワイン……もし毒が入っていたら、私は反逆罪で……

「お嬢様、そろそろお時間です」

 シエナの声にハッと我に返る。

 しっかりして、いつまで夢を気にしているの?
 今日は王太子殿下からお誘いいただいた大事な日。マリア、しっかりするのよ。

「今、いくわ」

 私は首を横に振り、心の隅にある不安を払拭すべく、背筋をシャンと伸ばし、部屋を出た。

 ワインはもちろん持参せずに。

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