鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった

婚約内定、決めました

3

　俺は言葉が意味のあるものに聞こえなかった。

　クラリス・アルフォントジョウノマホウガハツゲンシタ。

　クラリス・アルフォント嬢の魔法が発現した？
　
　クラリスの魔法が発現したのか！？
　ああ、待っていたかいがあった！！

「わかった。下がれ」
「父上！」

　俺は父上を真っ直ぐ見て、はっきりとした声を出し、次の言葉に繋げた。

「クラリス・アルフォント嬢を婚約者に」

　父上は俺の決意した目をみて「ほぅ」と感心したような声を出し「ふむ」と頷く。

「お前がずっと待っていたのはこれか」
「クラリス嬢でしたら、SSクラス魔道士になるも同然。王族に迎えるのに、これ程の令嬢はいません」
「わかった。候補に名を」
「いえ、内定で」

　さすがに父上もこれには驚きの表情を見せ、少し考え込んでいた。
　婚約者候補をすっ飛ばして内定をだすのは異例だ。普通は候補に選ばれた令嬢と交流し、仲を深めてから、お互い納得の上で婚約内定となる。
　ただ俺はそんな悠長な事をしているわけにいかない。

「内定とな……クラリス嬢の気持ちを無視するようなことは許さぬぞ」
「わかっております。それは私も本意ではありません。婚約者の立場が欲しいのです。でないと……」

　俺は親友2人の顔を思い浮かべる。

　ジェスター・シトリン。
　ミカエル・アルフォント。

　親友であり、厄介な恋敵ライバル。
　候補なんてのんびりしていたら、あの2人の猛烈な邪魔が入り、婚約まで絶対にたどりつけない変な自信が俺には、ある。それほど、あの2人も本気なのだ。

「わかった。アルフォント家に伝えよ。アルベルト王子の婚約者はクラリス嬢に内定したと」

　父上の命令に側近達が慌ただしく動き出す。

「アルベルト、わかっておるな。クラリス嬢は我が国でも大事なSSクラス魔道士。無理強いはならぬぞ」
「はい、肝に銘じております。大切なクラリスを傷つけたくはありませんので」
「わかった。下がって良い」
「はい」

　俺は自室に戻り、緊張を解くように大きく息を吐いた。自然と頬が緩むのを止めることができない。

　ああ、俺、今、すごくだらしない顔してるかも。

　恋敵ライバル達の顔を再び思い浮かべる。
　
　あいつら、激怒するだろうな……でもクラリスだけは俺は譲らないから。
　
　2人とも悪いな。