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クラリスの事情 〜クラリス視点〜

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「そういえば、あれ、完成したのか?」
「あぁ、そこに置いてある」

 エドワード様はなにかを思い出したのか、ザラ様に声をかけ、それに答えたザラ様の視線の先には、とてもきれいな小箱が置いてあった。
 エドワード様が小箱を手に取り、私の目の前のテーブルに置き、笑顔を見せた。
 宝石が散りばめられた小箱は光に反射してキラキラしている。

「わぁ、きれいですね」

 繊細で美しい小箱に目が奪われる。
 思わず感嘆の声を上げてしまった。

「これ、ただの箱じゃないんですよ」

 エドワード様は悪戯いたずらっ子のような顔をすると、箱の裏にあるネジをジィコジィコと回す。ポロロン……と小箱は澄んだ音を奏でた。

 ん? オルゴール?

「ね、すごいでしょう? ザラが作ったんですよ」

 オルゴールって、この世界にあったんだ。初めて見たな。今度、お店で探してみよう。
 それに……この曲……

「素敵ですね。私、この曲知ってますわ」
「えっ?」

 エドワード様とザラ様が小さく驚きの声を上げたが、私は浮かれていて気づかなかった。
 だって、この曲、前世でよく聞いた童謡なんだもん。この世界でも歌われてたんだぁ。

「歌も歌えますわ。真っ白い雪が降りてきて~♪」

 オルゴールの曲に合わせて口ずさむ。

 んふふ、懐かしい……な……あっ!
 
 時、すでに遅し。
 また、私はやってしまったらしい……
 
 エドワード様は口をあんぐり開けて……ザラ様は右手に持っていた羽根ペンをポトンと落とし……私を呆然と見ていた。
 
 し、しまっったぁ!
 つい懐かしくて、歌っちゃったけど、人前で歌う令嬢なんてこの世界では存在しないよぉ。

 誰も声を出すことをせず、部屋の中でオルゴールの音色だけが響き渡る……
 
 きっと、はしたない令嬢だと思われてるんだろうな……
 
 恥ずかしさのあまり、顔を上げられずにいると、オルゴールが最後の音を鳴らし、室内はとうとう静寂に包まれてしまった。
 そして、2人から予想外の、本当に予想外の言葉が発せられる。
 
 それは遠い昔の懐かしい名前。
 もう誰も呼ぶ人がいないはずの名前……


「美咲か!?」
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