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隣国王子がやってきました

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「クラリス……久しぶりだな」
「はい、1週間ぶりでしょうか?」

 そうか、まだ1週間か……学園で毎日のように会っていたから1週間でも長く感じる。

「明日ですね。王子様がいらっしゃるの。学園でも大騒ぎですわ」

 裏事情を知らないクラリスは何気なく明日の話をするが、クラリスの口から王子の話題が出たことに心臓がギュッと絞られたような胸の痛みを俺は感じた。

「インパルドの王子様、何しに来るのかしら?」

 お前を口説きにくるんだよ!

 ああ、どうしよう。このままクラリスを王宮の奥深くに閉じ込めておきたい……なんて、やばい事まで頭をよぎってしまう。俺、相当、追い詰められてるな。

 俺が塞ぎ込んでいると、いきなり口にチョコレートを押し込まれ、口の中に甘さが広がった。俺は驚き、クラリスに視線をむけると、クラリスはにっこり笑う。

「甘いでしょ? 疲れた時には糖分補給ですよ。アルベルト様」
「お前なぁ、だからって口に押し込むなよ」
「だって、眉間にしわを寄せて、ぜんぜんお返事してくださらないから」

 目をくりくりさせ、茶目っ気たっぷりに微笑むクラリス。俺もつられてクスッと笑い、口の中のチョコレートをゆっくり味わう。チョコレートの甘さとクラリスに食べさせてもらった(口につっこまれた?)事も加わり、少し明るい気分になった。

「このチョコレート、美味いな」
「ふふっ、私が作りました」

 クラリスがエッヘンと得意気な顔をし、俺は素直にへぇと感心した。最近では令嬢なのに?なんて驚くこともやめた。いつもは1つでもじゅうぶんなチョコレート。でも、クラリスの手作りとなれば話は別。

「クラリスが作ったのか? もう1つくれるか?」
「あ、はい」

 クラリスがチョコレートを俺の手のひらに乗せようしたので、慌てて俺は手のひらを閉じる。

「口に入れてくれないか?」

 俺、忙しすぎて、頭がぼやけていたのかもしれない。普段なら恥ずかしくて言えない台詞を言ってしまい、クラリスが傍目にもわかるほど、かぁぁぁっと赤くなった。

 いや、お前、さっき口にいきなり入れたくせに、なんだよ、その反応。なんか俺まで……赤くなるじゃないか……

「は、はい、口を開けてください」

 クラリスは指でチョコレートをつまむと、真っ赤な顔でチョコレートを差し出し、俺自身も更に顔を火照らせながら口を開け、チョコレートの香りと甘さに包まれた。疲れが少し回復したように感じたが、ふいに明日からの事が頭をよぎり、引っ込めようとしたクラリスの腕を俺は掴んだ。

「アルベルト様……?」

 急に腕を捕まれ、困惑している様子のクラリスの瞳をじっと見つめる。

「クラリス……何があっても、お前は俺の婚約者だという事を忘れないでくれ」

 暗黙の掟、ギリギリの忠告。

 いつもなら「破棄するまでは」「今のところは」などの無慈悲な返事が飛んでくるのだが、俺の真剣な様子に驚いたのか、クラリスはただ黙って頷いた。

 クラリスが帰った後、ナクサスに「求婚しなかったのですか!? 国王様が機会を作ってくださったのに?」と呆れられ「ヘタレ王子」としばらく呼ばれる羽目となる。

 主人に向かってヘタレって。一瞬でもナクサスに感謝した俺が馬鹿だったよ……
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