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見舞 ―ミマイ―

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 クラリスと他愛のない話をする。

 最近、流行はやりの物語がどうだとか、街に新しく出来たお菓子屋さんが美味しいとか……

 コロコロ変わるクラリスの表情が愛らしくて、僕は相槌を打ちながら、楽しそうに話す彼女を見つめてしまう。

「義姉さま、まだジェスターがこな……」

 ノックの音が聞こえ、ミカエルが部屋に入ってきた。僕の姿を見たミカエルは顔を曇らせ、不機嫌な声を上げる。

「なんで、ここにいるんだよ!」
「えっ? 知らなかったの? てっきり、知ってるものだと……ミカエル、遅いなぁぁって思っていたの。声掛ければ、良かったわ……ごめんね」

 クラリスは驚いた顔をし、申し訳無さそうにミカエルに謝った。慌てたようにクラリスには微笑みを返し、ミカエルは僕を軽く睨む。

 ミカエルが怒っているのは、、だからね。

「まぁ、そう怒るなよ。たまにはいいだろう? いつも誰かさんが独り占めしてるんだから」

 僕は紅茶をかき混ぜながら、ミカエルの視線を無視し、淡々と喋る。

「怒ってないし! 連絡を取ったのは僕なんだから、僕を通すのが筋でしょ! それに……ひ、独り占め……なん……」

 勢いよく文句を言い始めたが、独り占めという言葉にだんだん声が小さくなって、顔が赤くなるミカエル。

「……と、とにかく! ひと言声かけてよ!」
「あー、気がむいたらな」
「気がむいたらじゃなくて!」

 ミカエルも他の男を寄せ付けないように必死だからなぁ。

 声を張り上げる彼に僕はクスリと笑う。カチャンとスプーンをソーサーに置き、紅茶をコクンと一口飲んだ。一瞬の沈黙を作り、場の空気を変える。そして、ミカエルに満面の笑みを向けた。

「僕はクラリスのお見舞いに来たんだけど、なにか不都合でも?」

 僕の余裕の態度にミカエルはうっと怯む。

 今日の僕の目的はクラリスのお見舞い。僕がクラリスと2人きりでいたという状況にミカエルは怒っているわけだが、クラリスの前で詳しく言えない以上、あまり怒りをあらわにするのは不自然だろ?

「セリナ、とりあえず僕にも紅茶、お願い」
「かしこまりました」

 僕の言いたい事を感じ取ったのか、ミカエルはクラリスの専属侍女セリナにお茶を頼み、ブスッと椅子に座った。
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