眠りの魔法の使い方~運び屋の魔法使いは催眠魔法で世界を生きる

ふる

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あなたは誰をゾンビにしたのですか  終

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 父親を止めた後、しばらくしてアンリは目を覚まし、それからほどなくしてアンリの母親も目を覚ました。



 アンリの母親は目覚めたとき痛みで苦しむ様子を見せ、それから父親がどうしているかについて怯えていたが、アンリが事の顛末を説明すると少しずつ落ち着きを取り戻していった。



 そして、アンリ達が使っている部屋でアンリの父親の姿をみて、完全に拘束されていることを確認すると、アンリの母親はアンリを抱きしめて涙を流した。



(やっと恐怖から解放された。)



 涙を流したのはアンリも同様で、2人はしばらく抱き合っていた。



 それから2人は簡単に家の片づけをすると、表向き平穏な暮らしを送ることに決めた。



 翌朝から、私はいつもどおり学校に行き、お母さんももいつもどおり仕事に行く。



 友達は昨日のことが気になっていたようだが、私がてきとうな返事を繰り返しているとそれ以上に深く聞かれるようなことはなかった。

 

 友達は私を見捨てたという後ろめたさがあって、事情を深く聞きにくかったのかもしれない。私にとっては助かることだ。



 お父さんについては、お父さんが使っていた部屋に閉じ込めることにした。できるかぎり姿を見たくなかったからだ。拘束もしばらくそのままにすることにした。



 何日間か様子を見て、問題がなさそうなら拘束を解いてもよいかもしれないけれど。



 そして、それからさらに日が経ったら……どうしようか。もしかすると、その時には殺してしまうのかもしれない。けれど、まだその時ではないはずだ。





 それから私たちの生活は平穏なものになった。お母さんも私も笑顔で会話ができるようになったし、暴力に怯えずにすむようになった。



 ふつうの家と違うのは、親せきや友達を家に入れることがなくなったことくらいだろう。



 私たちは少し歪な平穏を幸せに送っていた。









 さらに月日が経って、いつのまにかアッシュが街を出て行ったらしい。



 アンリがそれを知ったのは、アッシュが街を出てから何日間か後のことだった。



 アンリがアッシュに助けてもらった後で、実際のところ、アンリとアッシュが特別仲良くなったということはなかった。



 ただ、お互いにすれ違ったときに、軽く言葉を交わすようになった程度だ。



 そして最近、アッシュの姿を見かけないと思っていたところ、アッシュがすでに街を出ていたことをしったのだった。



(街を出ていくなら、あいさつくらいしていけばいいのに。)



 アンリは、何も言わずに街を出て行くのはアッシュらしいとも思ったが、それでも不満を感じていた。



 そして、いつのまにかアッシュと初めてまともな会話を交わした、ベンチのある場所まで来ていた。



 その場所は、父親を止める出来事があってから、アンリが気分が落ち込んだときに時折行くようになった場所でもあった。



 アンリはベンチに座り、ポケットから折りたたみナイフを取り出した。



(結局、このナイフは返せないままだったな。)



 そのナイフは、アッシュと家に入ったときに借りていたナイフであり、返す機会はいつでもあったはずだが、なぜか返せないままにしてしまったモノだった。



(アッシュがいないなら返しようもないし、せっかくだから、形見ということにしておこうか。)



 アンリはそう考えると畳んだ状態のナイフを握りしめた。



 アッシュに残してもらったものはあるけれど、私がアッシュに残せたものはあるのだろうか。



 そう考えて、アンリは少し悲しい気分になった。



(どうせ、あいつはいろいろと苦労することになるんだろうな。)



 アッシュが何を考えて街を出て行ったのかはわからないけれど。



 アンリはアッシュの感情のない表情を思い出し、別の街に行ったとしても、アッシュに好印象を抱く人はあまりいないだろうと考えた。そして、それによってアッシュが苦労するだろうことは想像がたやすいことだった。



(けれど、せめてその苦労が少しでも報われますように。)



 アンリはナイフを両手で包み込んで願った。



 それは形のあるものではなく、渡せるものでもなかったが、目に見えない何かを通して幸福を願う、祈りであった。
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