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大聖女が来る! 前
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ある夜、部屋の中に2人の男性がいた。
男性のうち1人はベッドの上で横たわっており、かなり高齢に見えた。さらにその男性は具合が悪いのか、顔色が良くなく呼吸も浅くなっているようだった。
そしてもう1人の男性はベッドの傍にあるイスに座り、ベッドの男性を見守っているようだった。
「アッシュさん、今日もすまないね。」
ベッドに横たわる男、ローマンがイスに座る男、アッシュに話かけた。
「いえ、私にはこれぐらいのことしかできませんから。」
そう答えたのはホルダー・アッシュだった。
アッシュは今、街で人目を避けながら催眠術師として生計を立てていた。
もともとは表の社会で眠りを改善するという仕事をしようとしていたのだが、とくにお客が付くこともなく、それどころか人から怪しいと言われることが多かったので、アッシュは表の社会で活動することを諦めていた。
そして、次にアッシュが目を付けたのは大病を患っている人だった。病気で日中の活動にも苦労しており、眠ることにも難儀している人ならば、自分が怪しい人間であったとしても自分の魔法を頼るに違いないと考えたのだった。
実際、アッシュの考えはうまくいった。
病気により体が痛み、眠ることすらできない人のところへ行くと、最初は病気の人を騙そうとする詐欺師だと思われてこれまで以上の敵意を向けられることが多かった。
しかしながら、アッシュが患者のことを1度でも眠らせてあげるとその人から敵意が消え失せ、それどころか眠ることができるようになったことを感謝されるようになったのだった。
それからアッシュの主な仕事は余命わずかな病人を眠らせることになった。それは終末期の患者に行う、緩和ケアとよばれるような行為だったかもしれない。
「こんなこと、なんてことはない。薬も治癒魔法も効かないと言われた私にとって、苦しまずに眠れることがどれほどうれしい事か。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
ローマンの言葉にアッシュは微笑んだ。
アッシュの患者は病で仕事ができないためかお金をあまり持っていない人が多く、アッシュが得る報酬はわずかなものだった。
しかしながら、アッシュにとって自分の魔法で眠りに悩む人が助かることは嬉しいことだった。
「嬉しいのはこちらの方さ。君のことを死神だなんて呼ぶ奴もいるが、まったく嘆かわしいことだ。」
ローマンが苦々しい顔で言う。
アッシュは自分の患者からは感謝されることが多かった。しかしながら、アッシュの患者はしばらくすると亡くなってしまう。
アッシュはもともと病気が治る見込みのない患者の元へ行っているので、そのことに責任はないはずだった。
しかしながら何も知らない人からすると、あたかもアッシュが人の命を奪っているように見えたのかもしれない。
アッシュの纏う雰囲気が暗いということも手伝って、何人かの患者を見送ったあたりからアッシュは死神と言われるようになっていた。
「いえ、それほど気にしているわけでもないので。」
アッシュは静かに言うと、片方の手をローマンに差し出すようにした。
それはアッシュがこれから魔法を使う合図だった。
実際には、アッシュが魔法を使うのに手を出す必要はないのだが、何かしらの合図があった方が患者にわかりやすいと考えてそのようにしていた。
「そろそろ眠りの魔法を掛けようと思いますが、いいですか?」
「あぁ、実を言うと今も少し苦しくてね。頼むよ。」
ローマンが息を吐いて天井を向く。
(たしかに苦しそうだ。早く魔法をかけてあげよう。)
アッシュが魔法をかける動作をすると、それに合わせるようにローマンが目をゆっくりと閉じる。
(この人が安らかに眠れますように。)
魔法に集中しながら、アッシュは今、自分の催眠魔法が人の役に立っていることに充実感を得ていた。
だがその時、
バターーーーン!!
「お待ちなさーーーい!」
激しい音とともに部屋の扉が開けられ、大きな声とともに女性が乗り込んできた。
「えっ、えっ?」
「だ、誰?」
突然のことにアッシュとローマンは狼狽した。
それもそのはずで、2人ともこの女性と知り合いどころか、会ったことすら初めてだったのだ。
身長も体型も標準の女性くらいだと思えるが、やけに覇気があるというか、ハキハキとした自信に満ちたオーラが感じられる。女性からはまるで後光が差しているようですらあった。
普段のアッシュなら、怪しい人間を見たら即座に催眠魔法をかけて眠らせているところだが、女性があまりにも堂々としていたためにアッシュは呆気にとられていた。
そうしているうちに、女性はズンズンとベッドに近づくと大きな声で言った。
「私の名前は!大聖女、ヒストリオン・カンパネラです!!以後、お見知りおきを!」
(な、なんだこの女は。)
2人を圧倒するほどの覇気を放ちながら言うカンパネラに対して、アッシュは絶対的な苦手意識を感じていた。
男性のうち1人はベッドの上で横たわっており、かなり高齢に見えた。さらにその男性は具合が悪いのか、顔色が良くなく呼吸も浅くなっているようだった。
そしてもう1人の男性はベッドの傍にあるイスに座り、ベッドの男性を見守っているようだった。
「アッシュさん、今日もすまないね。」
ベッドに横たわる男、ローマンがイスに座る男、アッシュに話かけた。
「いえ、私にはこれぐらいのことしかできませんから。」
そう答えたのはホルダー・アッシュだった。
アッシュは今、街で人目を避けながら催眠術師として生計を立てていた。
もともとは表の社会で眠りを改善するという仕事をしようとしていたのだが、とくにお客が付くこともなく、それどころか人から怪しいと言われることが多かったので、アッシュは表の社会で活動することを諦めていた。
そして、次にアッシュが目を付けたのは大病を患っている人だった。病気で日中の活動にも苦労しており、眠ることにも難儀している人ならば、自分が怪しい人間であったとしても自分の魔法を頼るに違いないと考えたのだった。
実際、アッシュの考えはうまくいった。
病気により体が痛み、眠ることすらできない人のところへ行くと、最初は病気の人を騙そうとする詐欺師だと思われてこれまで以上の敵意を向けられることが多かった。
しかしながら、アッシュが患者のことを1度でも眠らせてあげるとその人から敵意が消え失せ、それどころか眠ることができるようになったことを感謝されるようになったのだった。
それからアッシュの主な仕事は余命わずかな病人を眠らせることになった。それは終末期の患者に行う、緩和ケアとよばれるような行為だったかもしれない。
「こんなこと、なんてことはない。薬も治癒魔法も効かないと言われた私にとって、苦しまずに眠れることがどれほどうれしい事か。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
ローマンの言葉にアッシュは微笑んだ。
アッシュの患者は病で仕事ができないためかお金をあまり持っていない人が多く、アッシュが得る報酬はわずかなものだった。
しかしながら、アッシュにとって自分の魔法で眠りに悩む人が助かることは嬉しいことだった。
「嬉しいのはこちらの方さ。君のことを死神だなんて呼ぶ奴もいるが、まったく嘆かわしいことだ。」
ローマンが苦々しい顔で言う。
アッシュは自分の患者からは感謝されることが多かった。しかしながら、アッシュの患者はしばらくすると亡くなってしまう。
アッシュはもともと病気が治る見込みのない患者の元へ行っているので、そのことに責任はないはずだった。
しかしながら何も知らない人からすると、あたかもアッシュが人の命を奪っているように見えたのかもしれない。
アッシュの纏う雰囲気が暗いということも手伝って、何人かの患者を見送ったあたりからアッシュは死神と言われるようになっていた。
「いえ、それほど気にしているわけでもないので。」
アッシュは静かに言うと、片方の手をローマンに差し出すようにした。
それはアッシュがこれから魔法を使う合図だった。
実際には、アッシュが魔法を使うのに手を出す必要はないのだが、何かしらの合図があった方が患者にわかりやすいと考えてそのようにしていた。
「そろそろ眠りの魔法を掛けようと思いますが、いいですか?」
「あぁ、実を言うと今も少し苦しくてね。頼むよ。」
ローマンが息を吐いて天井を向く。
(たしかに苦しそうだ。早く魔法をかけてあげよう。)
アッシュが魔法をかける動作をすると、それに合わせるようにローマンが目をゆっくりと閉じる。
(この人が安らかに眠れますように。)
魔法に集中しながら、アッシュは今、自分の催眠魔法が人の役に立っていることに充実感を得ていた。
だがその時、
バターーーーン!!
「お待ちなさーーーい!」
激しい音とともに部屋の扉が開けられ、大きな声とともに女性が乗り込んできた。
「えっ、えっ?」
「だ、誰?」
突然のことにアッシュとローマンは狼狽した。
それもそのはずで、2人ともこの女性と知り合いどころか、会ったことすら初めてだったのだ。
身長も体型も標準の女性くらいだと思えるが、やけに覇気があるというか、ハキハキとした自信に満ちたオーラが感じられる。女性からはまるで後光が差しているようですらあった。
普段のアッシュなら、怪しい人間を見たら即座に催眠魔法をかけて眠らせているところだが、女性があまりにも堂々としていたためにアッシュは呆気にとられていた。
そうしているうちに、女性はズンズンとベッドに近づくと大きな声で言った。
「私の名前は!大聖女、ヒストリオン・カンパネラです!!以後、お見知りおきを!」
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