恋愛初心者の恋の行方

あおくん

文字の大きさ
85 / 256
学園編~四学年~

20.自粛

しおりを挟む

呆然と立ち尽くす私達。
だけど一気に緊張感がほぐれたのか、それとも感じ続けていた恐怖が蘇ったのかレロサーナとエステルが呟いた。

「……怖かったわ…」

「ええ。あれが瘴気の魔物…なのね」

そんな二人の言葉に、あれがそうなのか、と私は思った。
そして同時に不思議な感覚を思い出す。

まるで何かを伝えたくて訴えかけているかのような、そんな風に感じた自分の感情がわからなかった。

(魔物が、人間になにかを伝えたい…だなんて、ある筈もないのに…)

それに私はクロコッタを資料でしかみたことはない。
マーオ町でもクロコッタが現れたなんて聞いたこともなかった。
そんなクロコッタが私を知っているわけないから、私を見ていたわけではない筈なのだ。
だから、クロコッタが何かを伝えたいのかとそう錯覚したことが私は不思議だった。

「……サラ、どうして泣いているの?」

「え?」

エステルが私に手を伸ばす。
目尻にそっと触れたエステルの指先から小さく震えが伝わってきた。

さっきまでの恐怖が残っているのだろう。
それでも私を気遣うエステルに、私は震えるエステルの手に手を重ねた。

「……無事に帰ってこれたからかも!
さっきはなにがなんだかわからなかったしさ!」

そう言って笑うと、やっとエステルに笑みが戻る。
レロサーナもやっと笑ってくれた。

自分が涙を流していた理由よりも、エステルとレロサーナがいつもの表情に戻ってくれたことの方が大切だったから、泣いていた原因だなんて全く気にならなかった。

「二人はここにいて。
私は先生に報告しに行くから」

学園内は安全だ。
ここには魔法や剣術、様々な方面に長けた先生たちがたくさんいる。
それに加え学園には高度な防御魔法がかけられていた。

だから今私達がいる場所が正門近くだとしても、学園内ということは変わりなくて、そして安全な場所であることも保証されている。
私はもう少し休んだ方がいいレロサーナとエステルを残して、先生を探しに学園の中へと駆けた。










私の報告を受けて、学園外に出ていた生徒達はすぐに戻された。
私の学年だけではなく、一つ上の学年も学園外で授業を受けている為に同様の対応がされたのだ。

そして全員が集まった教室で、先生が真剣な面持ちで告げる。

「今後の方針が決まるまで、校外授業は自粛することになった」

生徒の安全が保障されない限り、学園としては生徒を学園の外に出すことは出来ないと判断されたのだろう。
実際にこの学園には身分の高い子息令嬢が多く通っている。
そのような子たちを引き受けている手前、安直な行動は出来ないのだろう。

「あの、先生…」

「どうした?」

「瘴気の魔物はここ最近目撃されるようになったと聞きました。
その上で今回僕たちは学園外で、それも騎士団と共に赴いたと思っていたのですが違うのですか?」

私と同じ水属性のナオ・メシュジが先生に質問した。
確かに以前レロサーナから瘴気の魔物が目撃された話を聞いたことがあるが、今回実際に遭遇したわけでもない人がそれをいうかと思ってしまう。
先生も軽く考えていそうなメシュジに対して、はぁと一つため息をついてから答えた。

「確かに瘴気の魔物の目撃情報は先生も学園側も知っていた。
その上で対策としてお前らにワープ機能を持たせたブレスレットを渡し、不測の事態が起きても問題ないように騎士団への協力を求め、今回行動を共にすることを条件として学園外へと送り出したことは事実だ」

メシュジの言葉に同意しながらも先生は続ける。

「だが今まで目撃されていた瘴気の魔物はいずれも低レベルの魔物だった。過去の資料をみても高レベルの魔物が瘴気に侵された事例はない。……少なくとも人間の目に触れるところではの話だがな。
それが今回高レベルに区分けされた魔物で瘴気を纏ったことがわかった。だからこそ騎士団の人たちは帰還するように指示した。
これがどういうことかわかるか?」

目を細めて問いかける先生に、メシュジは小さく首を振る。

「……学園側で対策として取り入れていた一つが意味をなさなくなった。
騎士団の協力だけではお前らの安全を保障できないってことだ」

だからこそ、お前らに校外授業は自粛させるしかなくなった。と話した先生に私は恐る恐るといった感じで手を挙げた。

「なんだ?」

「あの、瘴気の魔物ってどうやって倒すんですか?よく聖女様が瘴気を浄化するって話は聞いたことがあるんですけど…」

その聖女様を今召喚中、なんですよね?と以前聞いた話を交えながら問うと、先生は目をぱちくりとさせながら驚いた様子を見せる。

「え、違いました?」

「いや、違くないが……。お前が知らなかったことに驚いただけだよ」

前にレロサーナにもいわれたことがあるけど、私は授業で習ったことくらいしか知らない。
色々知っているのは貴族の方だろう。

そして先生は黒板に文字を書いた。
例によって先生は魔法でチョークを動かしているから、話と同時にチョークはイラストを書き綴っていった。

「サラの言う通り、瘴気は聖女の特別な力によって浄化される。が、聖女は別の世界から召喚されるんだ。
その聖女がいない間、瘴気を浄化できるものが聖水と呼ばれるものだ」

「聖水?」

「ああ。聖女の子孫たち、それも一部の人たちが作れる特別な水のことだ。
だが、一つの聖水で必ずしも瘴気を浄化出来るものではない。
瘴気に飲まれた魔物の種類によっては大量の聖水が必要になる場合もあるし、最悪な場合聖水では対処できない可能性だってある。
それに聖水を作ることができる子孫も限られている為、聖水を作ってもらうにしても限界があるんだよ。
だから瘴気の魔物が現れ始めたら、必ず浄化できると言われている聖女を呼ぶんだ」

そう教えてもらった私は納得し、今回の場合はどうなったかを尋ねる。
やっぱり気になるからだ。

「今回は神殿に近かったこともあり、早急に聖水が届いたことで瘴気を浄化し魔物を退治することができたようだ」

その言葉に私は少しだけ安堵した。
聖水が届けられる間、少なからず被害を受けたかもしれないけれど、最終的に魔物を討伐できたということは無事だったということだから。

シモンさんの指示とは言え、早々に逃げてしまった手前私の中に罪悪感があった。

「その結果も踏まえて、学園側は今回の件を重く見ることにしたんだ。
例え転移魔法陣を刻んでいるブレスレットを持っていたとしても絶対の安全はない。
魔法の発動中に魔法陣を消されてしまえば魔法を無効化され帰還すらできなかっただろうし、騎士の判断が少しでも遅れていたらお前たちも巻き込まれていただろう」



そして私達は本来ならば学園外で学ぶ全ての授業を当分の間見送ることとなり、その埋め合わせとして騎士科との合同授業が企画された。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ
恋愛
 エミリーが多勢の男子生徒を従えて歩いている。王子であるディランは、この異様な光景について兄のチャーリーと話し合っていた。それなのに……  数日後、チャーリーがエミリーの取り巻きに加わってしまう。何が起こっているのだろう?  ディランは訳も分からず戸惑ったまま、騒動の中心へと引きづりこまれていくのだった。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...