恋愛初心者の恋の行方

あおくん

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学園編~五学年~

6 見解の違い

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全員の魔力測定が終わると、すぐにいくつかのグループに分けられた。
もしかしたらレロサーナとエステルと一緒になれるかもしれないと思っていた私の目の前で、呼ばれた二人は魔法研究室の人に導かれるようグループのメンバーと共に去っていく。
あっという間に私とレルリラだけが残された。

「あ、あの……私たちは?」

おそるおそる尋ねると、ヘルムートさんは愛想よく笑顔を見せる。

「君たちは別枠で僕が担当するよ。測定した結果だけど君たちの魔力量は他の生徒に比べて圧倒的だった。他のクラスメイトと同じグループに入れてもよかったけど、そうなると魔物のレベルを合わせづらい。というわけで当初のルールに基づいて君たち二人は別枠にさせてもらったよ」

これは喜んでいいのだろうかと一瞬だけ思ってしまったが、魔力量が多い、という言葉は素直に喜ぶべきことだろうと私は思い直す。
それに私だけじゃなくレルリラだっているんだ。
仲間外れにされたような、ちょっと淋しい気持ちを抱くべきじゃない。

こっちにおいで、と案内するヘルムートさんにどこか嬉しそうな表情を浮かべているレルリラが続き、私も後を追う。
そういえばこいつ、私とチーム組みたがってたからな。
今回はただ捕まえている魔物のレベルに合わせるためのグループ決めみたいなものだから、同じチームになったわけではないけど。

「それにしても君たちは凄いね!」

前を歩くヘルムートさんが顔だけを私たちの方に向けて意気揚々にそういった。

私とレルリラは何がすごいのかわからずにただヘルムートさんを見る。

「魔力量だよ。思わず故障してないか自分の魔力量を測るくらいに君たちの魔力量は多かったんだ。まだ学生だというのに、将来が楽しみだね」

ニコニコと笑いながら言うヘルムートさんの言葉に私が尋ねる。

「…ということは、ヘルムートさんと変わらなかったってことですか?」

周りよりは多い自信はあった魔力量が、まさか魔法研究室が驚くほどあったのは驚きだ。
といっても私は来年で卒業するから、ほぼ大人と変わりないけどね。

「そうだよ。元騎士団所属の僕と同じくらい君たちの魔力量は多かったね」

「え!ヘルムートさんは騎士団にいたんですか?!」

まさかの言葉に私は驚いた。
魔法研究室といえば魔法を開発したり、魔道具を作ったりしているところで、学園でいうとサポート科だ。
それなりの専門知識も要求されるため、騎士団に所属していたのなら魔法科か騎士科を選択していたはず。
それなのに騎士団から魔法研究室に転職できた事自体が、ヘルムートさんが凄い人だといっているものだった。

「そうだよ。これでも優秀な魔法使いだからね!」

「…ですが何故、騎士団を辞めて魔法研究室に転職したんです?」

胸を張り堂々としているヘルムートさんに転職した理由を尋ねた。
一般的に騎士団のほうが就職希望者が多いのだ。
普通に気になってしまう。

「……んー、僕の話はこれから魔物と戦おうとする君たちにふさわしくない内容と思うけど…、どうしてもというなら話してあげる」

ヘルムートさんは私とレルリラに尋ねるような形で話すが、私たちの返事を待たずに話し始めた。

「僕はね、生まれは平民なんだ。それも魔力量が少ない両親のもとに生まれた、普通の子供だったんだよ」

王立騎士団も、領地を管理している貴族所属の騎士団もなく、マーオ町のように町に設立されたギルドへ仕事を求める冒険者たちによって、ヘルムートさんの暮らしていた町は安全を保っていたらしい。

だけどある日ゴブリンの群れが襲ってきたという。
一体一体は脅威ではないゴブリンだが、群れをなすとその力は何倍にもなったという。
流石に冒険者だけで対処できるはずもなく、かといって国や近辺の村町に応援を求めてもすぐに駆けつけてくれるはずもなく、ヘルムートさんの町ではゴブリンに対抗するために冒険者ではない人も駆り出された。

その結果多くの人が亡くなり、その中にはヘルムートさんのご両親もいたという。

一人残されたヘルムートさんは別の町の孤児院に引き取られ、魔物に対する復讐心で少なかった魔力を伸ばし、様々な魔法を習得した。
ヘルムートさんはとても努力したのだ。
そして努力が実を結び、騎士団への入団が叶ったという。

「最初は全然良かったよ。門番として人の暮らしの安全のために働いていたという実感があったからね。
でもね、何度目かの討伐に参加した僕はそのとき初めて別の考えが生まれたんだ」

「別の考え、ですか?」

「そうだよ。…町に比較的近い森の中でね、彷徨く魔物を退治していた時だった。
僕はね、いつものように魔物を退治した。
倒したその分、人の安全が保たれると思うととてもやりがいがあったんだ。
だけど倒した魔物から視線をずらすと、奥には魔物の家族と思われる妻と子のような魔物がいたんだ」

「妻と子、ですか?」

私はヘルムートさんの言葉を繰り返した。
先程まで興味なさそうにしていたレルリラも、今では真剣に話を聞いている。

「そうだったと僕は思っているよ。今でもね。
……魔物は人間を襲うという命令が刻まれているように、人を見かけると見境なく襲う。
本能で行動していると言われているのは、魔物のそういった行動が原因なんだ。
だけどその魔物は、目の前に僕という人間がいるというのに涙を流していた。そして手を必死で伸ばす小さな魔物を抱きかかえて、憎しみが込められた視線だけを僕に向けていたんだ。
理性がなく本能しかないといわれているのにも関わらず、その魔物は僕を襲わず、子供を守っているようだった。
その姿を見たら、誰だって父親を殺された子供とその母親と思うだろ?だから僕はそう思った。
……その姿が子供の頃の自分自身と重なって見えた」

ヘルムートさんは魔物に両親を殺された。
父親の死を目の前にした子供の魔物と自分が重なって見えたと、そして憎しみを宿した魔物の母親の眼差しと当時の自分の感情が同じに見えたのだろう。
私はヘルムートさんの言葉に何もいえなかった。

「その時からだ。魔物には本当に心がないのかと考えるようになったのは。
人間と同じように心があり、他人…いや他の魔物を愛して、子を授かってもおかしくないと考えた僕は、もう復讐心だけでは魔物を殺せなくなっていた」

「だから、騎士団を?」

ヘルムートさんは頷いた。

「魔物を倒せなくなった騎士なんて騎士じゃないだろ?」

そう言って笑うのだ。
私はなんだかもやもやした感情が溢れてくる感覚がしていた。
今まで魔物を倒すことになにも感じなかったはずなのに、今は……たぶんそうじゃない。
ヘルムートさんの話を聞いて、私は魔物に対する気持ちを考えなければいけないといけないんだと、そう思っているのかもしれない。

そしてヘルムートさんは話を続ける。

「代わりに魔法研究室に入って、魔物の事を研究しようと思うようになったんだ。
まだ実現にいたっていないけど、それでも魔物の事がわかればその分戦闘も回避できて、人の安全も保障できる」

ああ、そうか。
ヘルムートさんは人間だけでなく、魔物も守りたいと、そう考えているんだと私は思った。
私たち人間のように、心を宿している魔物のため、魔物の暮らしも守りたいと、そう思っているんだと、私は思う。

それから私たちは薄暗い通路に入る。
扉も窓も何も無い。あるのは通路を照らす明かりが等間隔に設置されているだけの殺風景な通路だ。

さっきまで話していたヘルムートさんも、レルリラのように口を閉ざす。
シーンと、重苦しい雰囲気のまま目的の場所に着いたのか、ヘルムートさんが足を止めた。

「…さて、着いたけど最初はどっちからやろうか?」






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